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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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 表彰式の時間になったのでアキ達は再び闘技場のステージへと戻る。ステージ上にはSランクの3人は既におらず、どうやらアキ達だけのようだ。Sランク観覧席の方に目を向けると、エリスが笑顔でアキに手を振っているのが見える。エキシビションマッチが終わりSランクの3人は早々に自分の席へと引き上げたらしい。あまり目立つのが好きなタイプではなさそうだったし、当然だろう。


 表彰式と言っても、王家から特別なお言葉があるとかではない。今回の特例について協会長から説明があるからという理由で呼ばれた。一応王族は起立して、闘技大会優勝者であるアキ達に、拍手してくれているので姿ははっきりと確認できる。おそらく王族席の中央に立っている白髪で立派な髭を生やしているのがエスペラルド王だ。他国の王族は別の席らしいので、あの目立つ王族席はエスペラルド王国専用、つまりあの男性がこの国の王という事になる。ステージ上からだとよくわからないが、とても人が良さそうな印象を受ける。その右隣にいるのがエスペラルド王妃。とても落ち着いていて物静かな雰囲気だ。逆側にいるのが王女だろうか。アキより少し年下くらいの娘に見えるが、とても気品が感じられる。


 王族席を見ながらそんなこと考えていたら王女と目が合ったような気がする。こっちを見て笑っている?まさか、気のせいだろう。


「次は王女様を落とすご予定ですか?」


 隣に立っているミルナに怒られる。


「なんでそうなる。」

「見ていたので……そうなのかと?」

「なるほど、ミルナは落としてもいいと言ってくれてるのか。」

「ち、違いますわ!ダメ、ダメ!」


 そんなに必死に否定しなくても落とす予定などないので安心して欲しい。ただ今後の事を考えると王族、出来れば王女、とのコネクションは持っておきたい。闘技大会で必死に単騎で戦い、パフォーマンスしたのだから、王女の目に留まってくれたなら好都合だ。王や王妃ではなく王女なのには勿論正当な理由がある。単純にアキと歳が近いから、気を遣ったり気後れしたりする事なく、話しやすいと思ったからだ。


 それにSランクになったことで、アキは閲覧禁止の文献にアクセス出来る。間違いなく重要な史実が記されているはずだ。その史実を知った事で王家を敵に回すのは出来る限りしたくない。必要ならば敵でも構わないが、味方の方が当然いい。だから閲覧禁止エリアに手を出す前に王家との繋がりを持っておきたかった。


 今日のアキの活躍を見て、向こうから何か接触があると嬉しいんだが、果たして。


「まあ……無理に作る必要もないけど。あったら便利だな程度だし。」


 繋がりがなかったらなかったで、何とでも出来る。だからこれ以上王家に関しては無理に動くつもりはない。


 とりあえず考えるのはもういいかと、アキは一旦思考を中断する。闘技場では実況のくだらない話が続いている。一言でいうと「おめでとう」。ただそれだけ。


 暫くして、王都冒険者協会の支部長であるエステルが実況から話を引き継ぎ、アキ達にとっての本題に入る。


「まずはチームメルシア、優勝おめでとう。そしてSランク戦お見事。流石の俺も勝つとは思わなかった。約束通り正式なSランクと認定する。認定証はこのあと協会員から即時発行する。依頼についてだが、数日の内には用意するので5日後に一度話を聞きに来て欲しい。受けるか受けないかはまかせる。では今後の活躍を期待している。以上だ。」


 要約すると「依頼があるから5日は王都から出るな」という事だろう。どのみち数日は休日にする予定なので問題ない。


「5日はミスミルドから動けないし、明日から閲覧禁止文献でも見に行くかな。」


 でもミルナ達は絶対ついてくるだろう。アキとしては出来たらまだ彼女達には知って欲しくない。全部アキが理解してから彼女達に直接話したい。素直にそう言えばミルナ達は屋敷で待っていてくれるだろうか。


「とりあえず後で考えよう。今はSランク証をさっさと貰って帰ろう。」


 アキはそう呟く。早く帰って屋敷でゴロゴロしたい。今日はもうだらけたい。


 表彰式はその後すぐに終わり、アキ達はあっさりと解放された。協会員が呼びに来たのでついて行くと、Sランク証を渡される。前に冒険者登録をした時と同じような指紋登録だけして完了。Sランクの冒険証の色は銀色だった。ちなみにA~Hランクは全て銅色で色に違いはない。Sランクのみ色が変えてある。やはり特別扱いなのだろう。






「じゃあ帰るか。」


 ミルナ達を引き連れて闘技場から出ようとするが、後ろから声が掛かる。


「申し訳ありません、アキ様。」


 振り返ると、執事服を着た見知らぬ初老の男性が立っていた。


「エスペラルド王族の執事をしております。ベルーリと申します。」

「ご丁寧にありがとうございます。アキと申します。王族に執事がいらっしゃるんですか?」


 素直に疑問に思った事を尋ねる。王族に執事がいるとはあまり聞かない。大抵は付き人や側近などではないのか。アキ自身別に王族ではないので、何が正しいのかはわからないが。


「ええ。王城では側近、護衛、付き人やメイドなど沢山おりますが、プライベートな時間などにお仕えさせて頂くのが私の仕事でございます。」


 なるほどとアキは思う。執務中は側近などが控えているが、プライベートな時間までは居られても困るので、執事のような身近な側仕えが必要なのだろう。他にも王族ならではの色々な苦労がありそうだし、自由なんてなさそうだ。つくづく一般人でよかったと思うアキ。


「それで、どう言った御用でしょうか?」

「はい、アキ様のお時間を頂戴出来ないかと伝言をお預かりしております。お疲れのところ申し訳御座いませんが、王家の為にお時間を頂けないでしょうか。」


 自分には願いを現実にする能力でもあるのだろうか。


 まあそんな事あるわけがないが、王家とのコネクションを作る切欠が出来た。アキの闘技大会でのパフォーマンスの効果だろう。これに乗らない理由はない。うまく探りを入れて閲覧禁止の図書を読むことに対する王家の空気も見ておきたいと心の中でほくそ笑む。


「承知致しました、私でよろしければ喜んで。ちなみにミルナミア達は同行させてもよろしいのでしょうか?」

「ミルナミア様方には別室をご用意しておりますので、そちらでお待ちいただければと思います。申し訳ございませんが王家はアキ様個人との対談をご希望で御座いまして。」


 ミルナ達が頬を膨らませて拗ねている。全員が小動物の様で可愛い。


「皆、ごめんね。少しだけ待ってて。それとも先に帰る?」

「「「「待つ。」」」」


 全員が同時に即答した。何もないから大丈夫だ……と言いたいが、今までの自分を鑑みると全く説得力がないので黙っておく。でも別室待機なのは好都合だ。彼女達に情報が漏れるのを心配せずに話を進められる。


「それではこちらへ。」


 ベルーリに連れられて王族が待つ部屋へと案内される。途中にミルナ達の待機する別室があったので、彼女達はそこに置いて来た。抜け出して聞きにこないだろうか。うちの子達ならやりかねない。


「こちらになります。私は扉の外で待機させて頂きますので、終わりましたらお声お掛けください。」


 執事にすら同席を許さないとは完全にプライベートな対談なのだろう。それと彼を外に立たせる事で盗み聞き対策も完璧。とりあえずこれでミルナ達に聞かれることもないだろう。しかしいきなり王族と2人きりとはセキュリティゆるゆるじゃないかと心配になる。この国の王族の防犯対策について疑問に思うが、考えても答えはでないので、今は気にしないことにする。

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