第三者の視点で
ぼんやりと窓から空を見上げたイオが呟いた。
「カノンちゃん達遅いね。ルカちゃんは何か分る?」
「……カノンさんは今日はもう帰ってこないかもしれません」
一同が、黙る。
そして口を開いたのはイオだった。
「もしや、大人の階段上ってしまうということ?」
「……おそらく」
再び一同、沈黙。
だが、次の瞬間イオが凄く楽しそうに笑った。
「そっかそっかー。ようやくね、うんうん。僕も仲間として応援していたから、もうこれは……お祝いするしかないよね! トラン、行くよ!」
「ああ、もちろん」
「お財布係のカノンちゃんがいないから、へそくりからだけど、よし、奮発しちゃう!」
そうばたばたと駆け出すイオとトラン。
それをルカとレンヤは見送って、
「……本当にカノンさんはいい仲間を持っているようだな」
「ルカ、嬉しそうだな」
「理由は分っているだろう?」
それにレンヤは頷く。そこで、
「レンヤ、レオンさんは……“勇者”なのか?」
「そうだ」
「……レンヤ、好き」
「俺もだよ、ルカ」
そう、二人が甘い雰囲気でキスしようとしたその時、部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
「ほら、二人とも何ぐずぐずしているの!」
「え、え? 我も?」
「当たり前だよ、仲間だし。ほら、すぐにキスして行こう!」
雰囲気を壊されて、キスするような空気ではなかったのだが……ルカはレンヤを見てにこっと笑って自分からキスをする。
「お礼だ、レンヤ」
そう小さく囁いて、すぐにルカはイオの元に駆け寄っていく。
一方レンヤはそんなルカの仕草に優しげに微笑みながら心の中で思った。
だから俺は貴方に、いつまで経っても敵わないのだと。
珍しく城に帰ってきたカノンと、カノンが担いでいるその人物の姿に、レイルは驚いた。
「暫く戻らないんじゃなかったのか?」
「……今なら、お前と父様の間を認められるかもしれない」
「……俺が言うのもなんではあるのだが、きちんと口説いてからにしろ。でないと、後悔するぞ」
そんなレイルの忠告にカノンは押し黙り、唇を噛んだ。
「……レオンが好きなのは僕じゃないんだ」
「え?」
「レオンが好きなのは……記憶操作しても、それども好きな……昔から好きな銀髪の人がいるんだ」
「それは……」
「わかっている。相手は人間で勇者だ。それにそんな嘘のつながりで、愛してもらえるはずが無い。そんな事僕だって分っている。分っているんだ」
そこでカノンは言葉を切って、ごくりとつばを飲み込む。
「……好きなんだ、レオンが。もう、僕は、僕の心が、感情が、レオンが欲しくて、自分だけのものにしたくて、誰かに渡したくなくて……でも、僕は魔王で、魔族で、人ではなくて、レオンの大好きなその人と同じ銀髪なだけで僕は……僕、は」
そうまくし立てると、カノンの瞳から涙がぽろぽろとこぼれる。
激情のままに涙を零して、けれどその思いがあまりにもカノンの中で大き過ぎて言葉に出来ない。
そんなカノンを黙って見つめて、レイルはカノンの話を聞いてやる。
「だから、僕は、レオンがどんな感情を持とうとも受け入れるから……もう心が欲しいなんて言わないから、思い出だけを抱いていればいいから……だから、レオンを誰にも取られたくなくて……僕だけのものにしたいから、攫って来た」
「どうやってレオンを自分のものにするつもりなんだ?」
「……僕は、レオンが手に入るならなんだってする。それだけの力が、僕にはあるから」
そう言ってカノンはにいっと暗く笑う。
レイルは完全にカノンが病んでいると気づいた。
同時に、以前レオンと話した時、レオンはずっと昔からカノンが好きで、記憶操作を受けていない事をレイルは知っている。
どこで行き違いがあった。
だが今のカノンにそれを言うのは難しい。
そして、それを打ち明けるのはきっとレオン自身がしなければならなくて、レオン自身がカノンを掴み取らねばならないのだとレイルは思った。だから、
「せめて、最低でもレオンの意志を聞け。それにレオンは、お前を傷つけるかもしれないが……」
レイルは、感情的な意味で傷つけるといいたかったのだが、カノンはレオンが自身の勇者の力で傷つけると思ったようだった。
根底の部分でレオンへの無条件に近い信頼がカノンの中であるのだろうか?、それとも恋は盲目ということなのだろうか。
だが、そんなレイルに発したカノンの言葉に、レイルは内心絶句する。
「……勇者なんて、人間の王族以外ならどんな人間でも神託さえあればなれるんだ。その程度の人間に、僕が傷つけられるとでも? 僕は、父様とは違うよ? ……全てを力でねじ伏せてやる」
そんな傲慢な言い方も、カノンには容易な事だとレイルは分ったのだが、それよりも……それでは、レオンは勇者ではない?。
「……レオンが勇者で無かったなら」
「そんな仮定の話をしても無意味だ。だが、この城には入れないだろうな」
そう答えるカノンにレイルは少し黙ってそれから、
「……一晩、トリューカースには黙っていてやる。その代わり、明日には全てをトリューカースに話すぞ」
「……ありがとう、レイル」
「その代わり、きちんとレオンと話せ。約束だ」
「……わかった」
そう答えるカノンの頭をレイルは撫ぜてやると、少しむっとしたようだがカノンは大人しくしている。
カノンも不安なのだ。だからそれを汲み取りレイルは見守ることにした。
これでもカノンは、愛するトリューカースの子供なのだから。
そして、歩いていくカノンの背をレイルは見送り。
「へえ?」
レイルは虚ろな瞳で、嫌な笑みを浮かべたのだった。
次回、一時間後。よろしくお願いします。




