正気に戻った
「どうしよう……」
ちょっと正気に戻ったカノンは頭を抱えた。
その理由は単純で、その場の勢いと激情で、カノンはレオンを攫ってきてしまったのだ。
現在カノンは魔王城の自室にいる。
豪奢に飾りたてられた、天蓋付きのベッド。
掃除の魔法を使えば綺麗に部屋を保てるのは良いとして、担ぎ上げてきたレオンを靴を脱がせて横たえる。
そしてそのままベッドの端に、長い黒い鎖をつけてレオンの足に嵌める。
よし、これでレオンは逃げられないぞとカノンは思った。、
そして、意を決して、そっと記憶操作の魔法を解く。
今回のこれで記憶の混乱が生じるのなら解いてしまった方が良いと考えたからだ。
記憶の混乱で狂ってしまう事があるというのだから、そんな狂ったレオンを見るくらいなら憎まれて、ののしられた方がましだ。
きっと次にレオンが目を見開いた時には、全てを思い出した後だろう。
その時カノンは、どんなに罵倒されようとも受け入れようと、受け入れるしかないと思った。
レオンが誰かのものになるよりは、よほどましなのだから。
銀髪の誰かを想って思いをはせるレオンなんて、カノンはもう見たくも無いのだから。
そう思いながらも、カノンは不安を隠せずにレオンを横たえたまま、じっとレオンの寝顔を見つめる。
可愛い。
なんだろう、凄く可愛い。
眠っているレオンを見ているとそんな感情にカノンは囚われて、不安など何処かへといってしまう。
もっと近くで見たくて、カノン自身も靴を脱いでベットに上がり、レオンに寄り添うような位置でしげしげと、レオンを見つめる。
こうして見るとレオンは綺麗な顔をしている。
以前は離れて寝ていたし、満月の夜の後は、傍にいると分かった瞬間焦ってそれどころではなくなってしまった。
手に入れたレオンを見ていると、気が付くとカノンは笑みが零れていた。
欲しい物を自分だけのものにした子供のように、カノンは高揚感に包まれていた。
そんな自分に気付いてカノンはふるふると首を振って、冷静さを取り戻す。
するとある言葉が浮かんでくる。以前言われた言葉。
闇よりも光の方が良いのか。
カノンは認めたくなかっただけなのだ。
初めての恋で、それが魔族で無く人だったから。
そして、好きで好きで、たまらなく好きで、どうしても手に入れたかったから。
魔族と人。
そして魔族は人を喰らう。そんな恐ろしい存在。
時に好きという感情を持った人に対して、満月の夜の衝動は強く出る。もっともそれはもう解決済みだが。
でも、喰らってしまえばレオンがこの世から居なくなってしまう。
だからカノンは絶対にそんな事をしたくない。
その危険がある以上、カノンはレオンとはなれた方が良い。
カノンは、父、トリューカースよりもずっと巨大な力を持った手に負えない魔物なのだから。
なのに。
抑え切れなかった。
「レオン……」
愛しげにレオンの名前を呼んで、柔らかなレオンの金色の髪にカノンは手を伸ばす。
前髪に触れてその髪がさらりとカノンの手から零れ落ちる。
そしてそっとカノンはレオンの頭を撫ぜる。
眠っているレオンは年齢の割りに幼く見える。
けれど、男らしさと色香も見える。
それがカノンの鼓動を早くする。
レオン、レオン、レオン。
そうレオンの名前を心の中で呟くたびに、カノンは酷く幸せな温かい気持ちになって。
カノンはそのまま、レオンの唇を人差し指で押してみる。
ふにっとして柔らかい。
何度もキスをしたけれど、幾らやっても飽きない。
「起きないよね?」
そう自問自答してから、カノンはそっとレオンの唇に自分の唇を重ねた。
その途端、レオンがカノンを抱きしめて、片方の手でカノンの後頭部を掴んで、逃げられないようにする。
「むっ、んんっ、んんんっ」
焦ったように逃げようともがくカノンをレオンは捕らえたまま、舌を入れてやる。
舌が入る瞬間びくんと震えて大人しくなるのは、ここ最近良くある事だ。
ルカは、カノンが自分が獲物だと無意識に自覚したからだと言っていたが、この方が可愛いと思う。
慣れていないカノンはレオンの支配欲をそそる。
無垢なその体を染め上げてやりたいと思うのは、男として当然だろうとレオンは思っている。
ましてそれが好きな相手ならなおさらだ。
いつもの様に舌で絡めとり、吸ってやる。かと思えば軽く噛んでやる。
いつもよりも念入りに時間をかけてキスをしてやると、カノンの体ががくがくと揺れだして、完全に力が抜けてしまう。
そんな倒れこむカノンをそのまま抱きしめて、レオンはカノンの体温を感じる。
まさかカノンが、気絶させたと思ったら自分からレオンにキスしてくるとはな、と抱きしめながら、ぼんやりと天井を見てレオンポツリと呟いた。
「ここは何処だ?」
次回は一時間後です




