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あいつ、おかしいよ

「気まぐれだ。もしくはそれを含めて、魔王を苦しめるためか」

 そう、ネルが皮肉げに笑って、レオンの表情を見る。

「……だろうな。王族であれば、魔王と人間の“勇者”や“光の神”との関係については知っているはずだな? そしてそれだからこそ、お前は我らが魔王様、カノンカース様を恋人にすることなど出来ない」

「お前達の物差しで俺を測るな」

「! いきがるなよ、人間が。そもそもお前達、人間の王族を我々魔族は生かしてやっているというのに……」

 レオンの言ったきつい言葉にネルは苛立ったように叫んだ。

 その瞬間、高位の魔族らしい恐ろしい気配を感じさせたが、それに臆せず、レオンは真っ直ぐにネルを見た。

「……そうだな、でも、俺はカノンの事を愛している。ずっと昔から好きだったんだ。俺にとってカノンは魔王だから好きなんじゃなくて、カノンだから好きなんだ。お前の方こそどうなんだ?」

「……それ……は」

 黙ってしまうネル。

 ネルにも分っているのだ。自分達がカノンに会ったのは今回が初めてで、第一印象が最悪だという事が。

 その点レオンは、昔会ったという点と今現在カノンの好意を一身に受けている点で、今の話を本当だとして総合するなら……ネル達に太刀打ちできない。だが、

「……そんな事をやって我々魔族の反感を買う事が分っているのに、それをするのか?」

「そうだな、確かに魔族の反感は買うかもしれないな。うん。だったら話は簡単だ」

「何だと?」

「カノンに、俺を奪ってもらえばいいんだ。それで問題はないだろう?」

 ネルが絶句した。

 一方、それに反応したのはホーリィロウだった。

「レオン様! 以前も言いましたが冗談で言っていい話ではありません! それに相手は……」

「……どの道、直系である俺に予知能力が無い時点で、“光の神”自身がミランの方の血統に継がせようとしていたんじゃないのか? ……俺は、“いらない”王族なんだよ」

「レオン様、貴方がどのように思っているにしろ、貴方が次の王であることには変わりません。やはり力づくで城に……」

「カノンは俺の事が大好きだぞ?」

 ホーリィロウが舌打ちした。

 そう、カノンがレオンの事を気に入っていることが一番の問題なのだ。

 そして、レオン自身カノンに嫌われるように行動していないから……。

「そんなわけだから、何の問題も無いだろう?」

 と、自信をもって言うレオンを唖然としてネルは見ながら、次にホーリィロウの方を見て、

「……おい、そこの勇者。ホーリィロウといったか? このレオンという王子は頭が大丈夫か?」  

「……僕に聞かれてもお答えしかねます」

「お前が面倒というか監視する係りなのだろう? そもそも、勇者が魔王にどういう扱いを受けてきたか知らないわけではないだろう? たまたま先代の魔王がアレだからって」

「……僕自身も、レオン様と同じように昔、カノン君に会っているのです。ですからカノン君の性格も知っています。そしてその時からずっと、好きなのです」

 ネルがホーリィロウを見て、次にレオンを見て、本当に嫌そうに溜息をついた。

「……つまり節操無く周りを魅了する我らが魔王、カノンカース様が悪いと言いたいのか?」

「じゃあ、お前はカノンに何の魅力も感じないのか?」

「大好きだとも! ……く、ずっと魔王城に引きこもりだと思ってたのに、ものすごく活動的ではないか! こんなにわらわらと、それも人間なんかに……しかも人間の王子だと? 天敵の“光の神”と似た姿の奴が好きなんて……」

「そもそも、魔王だろ? カノンは。大人しい奴に、魔族の長が勤まるものではないだろう? それに、“光の神”の容姿なんてカノンは知らないだろう?」

「く、頭のおかしい人間の王子に諭されるとは、屈辱だ」

 そう、レオンの事を頭がおかしいと決め付けたネルが、ぎぎぎと悔しそうに唇を噛む。

 そして今度は、レオンとホーリィロウの仲間を見て、

「お前達はどう思う? レオンは人間の王子で、カノンはお前達人間の敵である魔族の王、魔王だぞ?」

「愛さえあればいいんじゃないかなって僕は思うな」

「同じく」

 イオとトランが即答した。さらに、僧侶イータが目をきらきらと輝かせて陶酔するように、

「レオン様とカノン様の二人が実は敵同士でしかも魔王でもう一人は人間の次の王で……美形二人の禁断の愛、種族を超えた愛、萌え」

「……僧侶のその発言は別として、まあ愛があれば、問題ないだろう」

「そうだな」

 ホーリィロウの仲間の戦士と、魔法使いがあっさりと受け入れた。

 ネルはもう何もかもが嫌になった。

 何でこいつらこんなに人間なのに魔族に抵抗がないんだ?……そういえばここ暫くカノンカース様も、人間に攻撃していないし暫く甘い攻撃になっていたからとかクラウが言っていたような。

 もうこいつらと話すのが嫌だなと思ったので、ネルは最後に気になっていたことだけ文句をいうことにした。

「カノンカース様をカノンと呼び捨てにするのは止めろ」

「カノン自身にカノンて呼んでくれって俺は言われているんだ。仕方がないだろう?」

 そうレオンは答えながら、人間に扮しているんだからカノンカースて呼んだら駄目だろと心の中で突っ込みを入れた。

 だがそれに気づかないネルはぶつぶつと呟きながら何だかいじけていた。

 そこで、イオとトランがレオンに近づいてくる。

「でもレオンが王子様たは思わなかったよ、僕。だから本当に仲間にしてくれって言ったときに一回断ったの?」

「それもあるけれど、本当の“勇者”じゃないから。まあ、王族だから勇者っぽい力は俺にあるけれど、本物じゃないし……でも、一緒に旅をしたいと思うくらい二人に事は気に入っていたんだ。だから、そう言ってくれて嬉しかった」

「半分脅しが入っていたけれどね」

 そう、イオとレオンは話して、トランも笑う。

 そんな二人にレオンはさらに続ける。

「それに王族は光の力が強いから、それも手伝ってそれっぽく見えるだろう?」

「もともと人間の王族は、魔王に対抗して“光の神”がわざと強くして、予知能力まで与えたものだからな。強いに決まっているだろう、もともと」

 ふんと鼻で笑ってレオンに皮肉を言うネル。どうやらレオンは彼にとても嫌われてしまったらしい。

 そんなネルは彼なりに考えていた。

 この平和ボケした人間達の話は置いておくとして、カノンカースは確かに魔王であると、あの恐ろしい威圧感を思い出せばそう思う。そしてネルは魔族の王である自覚を、今植えつけてきたのだ。

 だからこそ、カノンは昔いたような本物の魔王になるだろうと、勇者を躊躇いも無く殺し、その結果光の眷属である人間達の力を削ぐのだとそこまでネルは考えて……そういえばカノンカースは、自分を守るために相手を傷つける事さえ出来ないのだと思い出した。

 どうしよう、それに関しては何も考えていなかったとネルは悩むも。

ーーよし、それは次の、次代の地の四天王にお任せしよう。

 と、丸投げする事に決めた。

 正直ネルはもう何も考えたくなかった。さすがにこれは無い。と、

「確かこの部屋だったと我は思うのだが……」

 ドアからひょっこりとルカとレンヤが現れたのだった。


次回、一時間後。よろしくお願いします。

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