信頼と実績
ルカはカノンの後ろで怯えるように隠れながら、トリューカースに作りかたを教えている。
カノンも以前のものが作りかけだったので、一緒に作っていたのだが、
「ルーズカース、どうしてそんなに僕と距離をとるのですか? ちょっと抱きしめたくらいで……酷い……」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
トリューカースがとても悲しそうに言うので、ルカがそろそろとカノンの後ろから出てくるも、再びトリューカースに弄ばれて、プルプルと体を猫のように丸めてカノンの後ろに隠れる。
その時完全にトリューカースはルカの信頼を失った。
そんなトリューカースは悲しそうに恋人のレイルに抱きついたりしていたが、心の広いカノンは後で何か仕返しをしてやろう、と思う程度でその時は何もしなかった。
もっとも、トリューカースに怯えるルカがカノンに懐いてくるのでそれの関係で出来なかったともいえるが。そこで、
「そういえば、ルーズーカース、貴方の恋人のレンヤでしたか? 彼のとの馴れ初めも聞きたいですね」
レンヤに関して、トリューカースは特に探るような声音だとカノンは気付いたが、その話は聞きたかったのでそれをカノンは深く追求しなかった。
「レンヤの、ですか?」
そうレンヤとルカが名前を口にした瞬間、ルカがとても幸せそうに笑う。
それがカノンには面白くない。だが一応、カノンも大人なので黙っている。
懐かしい事を思い出すように、ルカが話し出す。
「我の代での初めての勇者がレンヤで、その姿を見たとき一目惚れを我はしてしまって。でもレンヤは昔、我が助けた子供で、我に会うために強くなって勇者になっていたのです」
その話を聞いていて、ふとカノンはあることを思い出す。
昔助けた、ませた子供が居るパーティに記憶操作をして入り込んだことがある。確かトリューカース達の新婚生活終了したすぐ後のはず。
あの子供も好きですとカノンに告白してきたが、子供の戯言と聞き流した。名前はホーリーといったが、どれくらい前かは、随分昔のことなのでカノンは思い出せない。と、
「でもそれでもやはり人間の勇者であったため弱いから、我もがんばって勇者のために宝箱とかアイテムを用意しました」
得意げに言うルカだが、それを聞いたカノンの額に青筋が浮かぶ。
「ルカ! そこに居るアレは別として、基本的に勇者は敵なんだから、そんな事しては駄目だ!」
アレ呼ばわりされたレイルは微妙な顔をしていたが、カノンは怒り心頭でそれどころではない。
もしもその勇者がルカのことを好いてい無かったなら?、本当はもっと強い事を隠していたなら?、そう、勇者は“光の神”が作り上げた究極の嫌がらせなのだ。それを……。
「だって初めての勇者だったんだもん。一目惚れしたんだもん」
「だったらどうして、魔王城に来やすいようにしたり、強くなるようにしたりするんだ!」
「好きになったのだから仕方がないじゃないですか!」
「何かあった後では遅いんだぞ! 手に入れるにしても他に方法があるだろ!」
「だから、我はこの首飾りを付けようと思って失敗して、魔王城から逃げ出すことに……」
そこではっとルカが口をつぐんだ。そんなルカをじっとトリューカースが見ていた。
そしてカノンが逃げようとするルカを捕まえて、
「何で魔王城から逃げ出そうとしたんだ? あそこが一番安全な場所だろう?」
「あう……えっと……あ、そういえば我もに聞きたいことがあったかなって」
「答えろ、ルカ……」
「うう、ちょうど父様が留守だったので、四天王に襲われそうに……」
「なんだと?」
「あ、でもそのおかげでレンヤとの距離も縮められたし、いいかなって」
「……やっぱりあいつ等今の内に根絶やしにしておくか……」
くくくと暗く笑うカノンに慌ててルカがとめる。
「やめてください! 確かにそういう気の迷いもあったかもしれませんが、我だって随分と可愛がって貰いましたし、それに彼らも今恋人が居て幸せな状態です。全てが上手くいっています。それに彼らの役目だってありますから! だから……」
「……どうして、あいつらの肩を持つ。あいつらは父様に酷い事をしたし、今は何かに攻め入るような準備をしている……武器や兵を隠せるような場所はあそこぐらいだろうからな……ああ、都市は知らなかったとはいえ、密やかに行動するならあの城が最適だろう。そして例え魔族といえどそれが、何らかの形で僕達に向けられないとは限らない。だから僕は勇者達のパーティにまぎれて隠密に様子を見ようとしたのに、不意打ちであったはずなのに魔王であることがばれないように隠しているのに、何故か行く先々で全部ばれているし……」
「お祖父様の容姿が皆に印象を与えすぎるのでは? 現に我の話は他でも聞こえていたようですし」
「……何で人間の方の情報があいつらに回っているんだ」
それこそ魔王に対する反逆ではないかと、カノンは思う。けれどそれにルカは付け加える。
「もともと魔族のああいった城などのある付近では、人間達が生き残るために魔族との情報交換が行われているものなのです。それが今は別の穏便な形で残っている状況なのでしょう」
「……え?」
「……我が聞いた範囲では、曾祖父様やお祖父様の時代から、魔族と人間との関わりが変わっているようなのです。現に、曾祖父様は、恋人のレイルさんといちゃいちゃしているでしょう?」
見ると、確かに二人はとても仲良しな感じだ。手を握ったり腰に手を回したり……。
カノンは僕の大事な父様をと、イラッとしたが。
「……そういうわけで今現在も少しづつ色々と時代が変わっているのです。そしてその変化は、起こっている渦中であれば見えにくいものですが、それでも今を飲み込もうとしています」
「……どんな変化が今生まれようとしていると、ルカは見る?」
「そういえば魔族は、獲物に対してのキスといったテクがすごく上手くなる性質があるのですが、お祖父様はご存知ですか?」
「ルカ、話をそらすな」
「でも、自分が獲物だと自覚し始めると段々そういった能力が落ちてくるらしいです。ついでに魔力を相手から吸えなくなります」
「だからそれが……」
と思ってなんとなくカノンには覚えがある気がした。
いや、最近レオンに上手くキスが出来ないなとか。
前は美味しそうとか獲物とか思っていた気がするのに、最近気がつけばレオンに押されっぱなしのような気も……無い、そんなこと無い。
そんな、それじゃあ僕はレオンを……。
そこでカノンの様子を見ていたトリューカースが動いた。
「まさかとは思いますが、カノン……」
「! 違います、父様!。僕はレオンの事なんて……」
「……やっぱり城に帰りましょうか。僕の可愛いカノンを、箱入りにして大事に大事に可愛がって育てたカノンを誰がむざむざと渡すものか。レオン……泥棒猫め……」
「え? 猫?」
「……さあカノン帰りましょう。どの道、魔王城は一番安全ですから……」
そう首根っこを掴んで連れ帰ろうとするトリューカースをルカが止めた。
「あ、あの曾祖父様、その、お祖父様が旅をしてくれないと我が元の時代に戻れないのです」
「なん、だと……?」
「ですから、お願いします」
「ではルカも一緒に住みましょう。それで万事解決です」
「! 困ります、曾祖父様!」
けれどそう言ってトリューカースはルカをも連れて行こうとするが、その前にレイルが立ちはだかった。
そしてそのままトリューカースにキスをして、とろんとさせてしまう。
「貸し一つだ、カノン」
「……一応礼はいっておく。ありがとう。さあルカ、早く逃げるぞ」
「あの、ありがとうございます」
そう言ってるかとカノンは逃げていってしまう。
「うう、レイル、酷い」
「カノンももう大人だぞ? 親馬鹿もほどほどにしないと、嫌われるぞ? ……現に、ルカは警戒していただろう?」
それに、トリューカースは二人が去っていった方を見て、溜息をついて、すごすごと移動の魔法陣へと向かったのだった。
次回、一時間後。よろしくお願いします。




