くっ、遅すぎたんだ
「レオン、好きー♪」
にゃーん、とレオンにカノンが甘えてきた。何となく酒臭い。
そしてカノンがイオを見ると、頷いている。
なので良くやったというかのように、目配せをしつつ、ごろごろと懐いてくるカノンを連れて湯から上がる。
イオは邪魔したら悪いからとトランの手を引いて走り去っていく。
そして二人だけになり、まずレオンはカノンの濡れた服を脱がせていくと、
「自分で脱げるもん」
とふらふらとした手つきで服を脱いでいくのだが……。
ぱさりと一枚ずつカノンが服を脱いでいくたびに白い肌が露になっていく。
湯煙と薄明かりの中で、僅かに赤みを帯びた滑らかな絹のような肌は今すぐ触れて、味わいつくしたくなるほどに艶かしい。
しかも服の布づれの音も相まって、レオンは酷くいけない気持ちになって、直視できない。
さっきはそんな格好をして踊っていたのに何というか。
レオンは自分でも自分の気持ちが良く分からない。
今ここにいるのがレオンとカノンの二人だからだろうか。
そのまま恥ずかしい場所にはタオルを巻いて、カノンはふらふらとした足取りで髪を洗いに行ってしまう。
そこでようやくレオンはほっとして、自分の服を脱いでいく。
水分を吸った服は重く体に張り付いて、脱ぐのに一苦労だった。
そして脱ぎ終わる頃にはカノンは髪と体を洗い終えて髪すらも乾いていた。
「……早いな」
「ふふ、レオンが遅いんだよぅ~。僕が~レオンを洗ってあげようか?」
「え!」
何か凄い事を言われた気もしたのだが、そこでカノンが指をぱちんと鳴らす。
すると魔法が発動してレオンは体中石鹸だらけになったと思ったらお湯が降ってきて、その後温風で乾燥させられた。
何だか洗濯物になった気分だった。
「……分かってるんだ、こんなオチだって」
「ふふふ、なにがぁあ~。それより温泉はいろぅえう」
「……カノン大丈夫か?」
「らいじょうぶ。レオンと一緒なら大丈夫ぅ」
早く早くとレオンを引っ張るカノンはいつもより積極的だった。
こういうカノンも悪くないと思って、誘われるがままに湯に入ると、レオンの腕にカノンが抱きついて体を密着させてくる。
「えっと、カノンさん?」
「レオン、好き好きー♪」
「駄目だ、完全に酔っ払っている。遅すぎたんだ」
「レオン、好き好きー♪」
そう言いながらごろごろと頬をレオンの腕に擦り付けてくる。
レオンの理性の糸が着々と細くなりつつある。
だから、必死になってカノンを腕からはがそうとするも引っ付いたままカノンは剥がれない。
しかもむぅ、とカノンは不機嫌そうに頬を膨らました。
「レオンはただ僕に引っ付かれていれば良いんだもん」
「……カノン、あんまりそう言う可愛い事を言って、可愛い仕草をすると、取り返しの付かない事になるぞ?」
「? レオンが責任とってくれれば良いよ~♪」
意味が分かっているんじゃないだろうかとレオンは思った。
そして分かっていてこういう事をするなら、もう仕方が無いよな、とも思った。
よし、襲おう。
たっぷりとこう……こう……。
そう思うも、カノンの金色の瞳とレオンは目が合う。
上気した顔でとろんと愛おしそうにレオンを見詰めている。
見つめれば何も言えなくなるなんて、そんなの、物語だけじゃないかってレオンは疑っていた。
なのに、襲おうと決めたはずなのに、気が付けば頭の中は熱に浮かされたような状態から、冷静に考える余裕が出来ていた。
駄目だ、まだ。
酒に酔っているだけでカノンはまったく分かっていない。
「レオン~?」
小首をかしげる様子が、と考えた所で衝動に突き動かされてレオンはカノンを抱きしめた。
いつもは服ごしなのに、今は肌と肌が触れあっている。
カノンが好き過ぎて辛い。
こんなに好きなのに、カノンは……好きと言ってくれている。
酔ってはいるが。
確かに好きになるように揺さぶったり、優しくしたり色々していた。
なのに、いざ好きと言われてしまうと、カノンの思っている好きな部分は、本当は自分の作り上げた偽りなのではないかとレオンの頭をよぎる。
それでも良かったはずだ。だってカノンがレオンはどうしても欲しかったのだから。
けれどいざ言われてみると、もっと本当のレオンを好きになって欲しいと欲が出てくる。
カノンは俺の何処が好きなのだろうか。
ごくりとレオンはつばを飲み込む。
そう、今は酔っているからカノンは覚えたいない。だから、
「カノンは、俺の何処が好きなんだ?」
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