お仕事モード
拍手の中踊り終えて、ルカはレンヤへと、カノンはレオンへと倒れこんだ。
「我は……もう、無理……」
「綺麗だったよ、ルカ」
そう言いながら抱き合う二人だが、カノンは激しく動いたため息が荒くなり、それどころではない。
「カノン、大丈夫か?」
「………………」
それには答えず、カノンは無意識の内にレオンの胸に顔を埋める。
とても良い香りがしてカノンは酷く心地が良くなる。
暖かい。
カノンは服越しにレオンの体温を感じて、そのまま頭を擦り付けて、ほっとしてしまい目頭が熱くなる。
そんな可愛くて無防備な仕草と露出度の高い姿のカノンに、けれどレオンを信頼しているかのようなカノンの行動に、レオンは、食べたい、いや駄目だと、ひたすら葛藤していた。
そして視界の端でレンヤとルカがキスしているのを見て、レオンは堪らず、カノンの目から零れ落ちかけた涙に舌を這わせてしまう。
それに驚いたように、カノンは目を見開いてレオンを見る。
「! レオン……」
「カノンに涙は似合わないだろう? ほーら、ぶにぶにー」
軽く冗談めかして、カノンの頬をレオンが突いて見るも、カノンはいつものように何をするんだと怒らない。
その代わり、じっとレオンを見つめて、小さく呟いた。
「どうして僕じゃ駄目なんだ?」
「え?」
一瞬その意味が分かりかねて、レオンは聞き返してしまう。
けれどその途端、カノンは顔も真っ赤にしてレオンを両手で突き放そうとする。
なので変わりにぎゅっと抱きしめてやると、カノンはレオンの腕の中でじたばたと暴れて、それもしばらくすると大人しくなる。
カノンが可愛過ぎて辛い。
けれど今カノンが言った言葉を思い出してレオンはにやりと悪い笑みを浮かべる。
大分、カノンの余裕が無くなっているらしい。
それともルカとレンヤのいちゃつきぶりに当てられたのだろうか。
レオンがそうなように。
こんな風に腕の中でカノンが大人しくしていると、本当に恋人同士なったように錯覚してしまう。
本当に……性欲が暴走しそうだ。
さすがにそれは不味いので、ゆっくりとカノンを腕の中から開放してやる。
「落ち着いたか? 涙も止まったみたいだし」
「……うん」
俯いて、小さくカノンが頷いて離れていく。
その様子がいつもと違って元気が無いなと思ってみていると、そのまま何故かレンヤの元に行ってしまう。
なまじ似た姿なのでレオンは少し焦るが、
「さっき個人的に話をしたいと言ったが、今良いか?」
「ええ、かまいません。……ルカ、少し話して来るから」
「……分かった」
不安そうにルカがレンヤを見上げてから、名残惜しげに離れていく。
そこで小さくカノンが呪文を唱えると、ルカとカノンがいつもの服を着た状態になる。
イオが悲痛な悲鳴を上げたのは良いとして。
連れ立って部屋から出て行こうとするカノンに、ついレオンは引き止めようとして、振り返ったカノンの表情にぞくりとした。
感情という感情をそぎ落としたかのように冴えた美貌。
英知と思慮深さが垣間見える、長い歳月を生きた者の瞳。
酷くカノンが遠くに行ってしまったように感じて、レオンは戸惑ってしまう。
先ほどまでのレオンの近くに感じたアレこそが錯覚だとでもいうかのような……。
けれど、それも一瞬の事。
すぐさまカノンはレオンを見て、にこりと笑って軽くレオンの肩を叩いた。
「大丈夫。大人な対応をするから、心配しなくて良い」
カノンは、先ほどのレンヤを敵視しているカノンの様子から、レオンが心配しているのだろうと思ったのだ。
いつも、レオンは仲間想いで優しいから。
けれどレオンの心中は穏やかではなかった。
出て行った部屋を見つめながら、レオンは虚しさを覚えてしまう。
そんなレオンの肩が叩かれる。ルカだ。
ルカはカノンそっくりで、ついレオンは弱音を吐いてしまう。
「……随分近くに感じたのにな。今のカノンの表情……随分遠くに感じた」
また手の届かない場所に行ってしまったのだろうか。
苦しい。苦しくてたまらない。
何でカノンは魔王なんだろう。
何であんなに強い力を持っているんだろう。
そうでなければレオンはこんな思いをしないで、最終的には力ずくでも何でも、どんな手段を使ってでもカノンを手に入れることが出来るのに。
そんなレオンの葛藤にルカは困惑して、そこではたと、ああ、なるほどと気付いたようだった。
「レオンさん、あれはお仕事モードだぞ?」
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「……つまりどういう事だ?」
「いや、公私は分けないといけないであろう。外用の顔と家用の顔という事だ。つまり今までレオンさんに懐いていたカノンさんが素で、さっきのが外用の装った姿。多分カノンさんは、レンヤを試すのだと思う。我に相応しいのかを」
ルカに説明してもらった瞬間レオンは力が抜けてしまい、近くの椅子にもたれかかる。
良かったという安堵と、もう少し分かりやすくしてくれよ、不安にさせるなよという憤りとで、ついでに、
「何も俺に抱きついた後にしなくても良いだろう……」
「いや、照れ隠しなのではないかと。だから別の事に頭を切り替えた結果、ああなったと我は思うのだが……」
「つまり俺の事を凄く気にしていると、そういう事だな!」
「……レオンさん、もう少しお……カノンさんを信じてあげてください。カノンさんは、レオンさんが想っている以上に囚われて、逃れる事すらも出来ないのですから」
「そんな様子、あんまりみえない……でも、ルカが言うならそう思っておく事にするよ」
「大丈夫だ、レオン。俺達もついている。そうだろう、イオ」
「うんうん、トランの言うとおり」
「イオ、トラン、俺は良い仲間を持って嬉しい!」
それほどでもあるよー、とイオが言いながら、レオンが慰められている。
そんな中の良い三人を見ながら、ふとルカが周りを見渡してうむと頷いた。
丁度カノンがいない。
「所で皆は、何で魔王と分かっているのに、記憶を操作されたままのふりをしているのだ?」
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