野生の勘は怖いお
イオがカノンを椅子に座らせて、髪をすいていた。
「よ-し、カノンちゃんはポニーテールにしようか♪」
「しくしくしく」
「でもカノンちゃんもルカちゃんもすごいね。一回見せただけで全部出来るようになっちゃうなんて。しかもこんなにお肌も綺麗で……嫉妬しちゃうかも」
「だったら僕は見せない方が良いと思うので、服を着たいとか思ったりしますです、はい」
「駄目だよー。こんなに可愛いし二人とも凄く綺麗だったもん。こう手の動きとか体の動きが、柔らかくて滑らかな線を描くようで、それでいて止まるとこはぴたっと止まっているし」
「褒められるのは嬉しいけど、この格好は恥ずかしいよ」
ちなみにカノンの目の前ではルカが椅子に座ったままぐったりと机に倒れこんでおり、頭から魂が抜け出ているように見えた。
心配してルカに声をかけたカノンだが、ルカは自嘲気味に笑って、
「大丈夫です」
と答えてすぐに、机に倒れた。
体力が無い。なさ過ぎる。
とはいえ、確かにこれはさすがのカノンも疲れた。
疲れたのに今カノンは髪を遊ばれているわけだが。そこで、
「……本当にありがとうね、カノンちゃん」
イオが珍しく神妙なので、カノンはえっとつい声を上げてしまった。
それにイオは苦笑をしつつ、
「ほら、前に酒場で踊った時もそうだけど、僕って人気の踊り子じゃない。人を惹きつけるという事は逆に、羨望と嫉妬にさらされるって事で。中々普通に話したりとか、普通に遊んだりとか出来なくて。こんな形でも、カノンちゃん達と踊れて僕は嬉しいんだ」
「イオ……」
まさかいつも明るいイオがそんな思いを抱えていたなんて思わなくて、カノンは文句を言えなくなってしまう。が、
「それに嫌がるカノンちゃんもルカちゃんも本当に可愛くて……じゅるり」
「それか、それが本音か! ちょっとだけ心配して僕は損したよ!」
ぷうっと可愛く頬を膨らますカノンに、イオは笑って続ける。
「でも恥ずかしがる意味が分からないよ。だって、着替える時は普通に裸になるじゃない? 何でこの衣装を着るのが嫌かな……」」
「見られるために着るんじゃないか! それが嫌だ! 恥ずかしい!」
「……誰に見られるのが恥ずかしくて嫌なの? カノンちゃん」
「レオンに!」
「……なるほどなるほど。レオンにね……」
「なんだその含みのある言い方は。もう良いもん。イオの事なんか知らないもん」
更に頬を膨らますカノンにイオはさらに小さく笑って、
「カノンちゃんは本当に良い子だね。何というかルカちゃんにも同じ感じがして、まるでおじいさんと孫みたいに見えるんだよね。カノンちゃんのルカの可愛がり方を見ると」
イオがいきなり真実をついてきて、びくっとカノンがして、ルカもばたんと飛び起きた。
「……どうしたのルカちゃん」
「いえ、我は何でもないです……」
「そうなの? でもカノンちゃんもそうだけど、ルカちゃんのほんわかした感じとか、すっごく親に可愛がられた感じがするよね」
「あ、はい。父様が言うには『親が可愛がらずに誰が子供を可愛がるのか』と」
「うわー、隠す事のない素敵な親バカっぷり。そういうの好きだな。となると、ルカちゃんは怒られたりとかあんまりしなかった?」
「いえ、昔から父様にはけっこう怒られていました。そもそも怒らないで済むというのは、それだけ接触が無いという事です。接触すれば諍いも生まれるものでしょう?」
「む、正論を言う。なんかそういう変な所で自分の意見を持っているのが、本当にカノンちゃんとそっくりだよね。本当におじいちゃんと孫だったりして」
カノンとルカは乾いた笑いを浮かべた。
「ははは、イオさんは面白いですね。我は驚いてしまいました」
「そうだよイオ。大体、ルカみたいに大きい子がいるって僕は何歳なんだ」
「それもそうだねっと、はい出来た」
カノンは軽く頭を左右に振ると、結った髪がフリフリと揺れる。
こういうのもいつもと違って良いかなと思ってみたり。
うん、変な縄で縛り上げられたのは、多少根に持っているが、これはこれで良い。しかし、
「……そういえば何でイオは、ルカじゃなくて真っ先に僕にその縄を投げたんだ?」
体を起こしてねと言われて、うにゃぁー、と机の上で首を振るルカと戦っているイオに、カノンは話しかける。
その問いかけに、イオは肩をすくめて、
「強そうな方をどうにかするのが、定石でしょう?」
「……何でルカの方が弱いって分かった」
「勘」
きっぱりと言い切るイオに、ルカとカノンの二人は何という野生の勘、と思いながらも、イオに油断のならないものを感じる。
ただ、感じた所で、実際問題たいした実害が無いのは事実で、こういうやり取りも楽しいと思える部分もルカとカノンは否定し切れない。
でもやっぱりこの衣装は恥ずかしい、と二人は思った。
そこでドアが叩かれて、返事を待つことなく開かれて。
レオン達がやってきて、カノンは自分の体を隠すように自身の体を抱きしめた。
「どう、カノンちゃんのこの姿! ポニーテール可愛いでしょう?」
「確かに可愛い、うなじとか真っ白だし」
「うう、恥ずかしいよう」
「次はルカちゃんだけど、レンヤは何か希望がある?」
「ツインテールで」
ルカが恨めしそうにちらりとレンヤを見て、そしてイオを見て、しぶしぶと顔を上げていく。
そんなルカの髪をとかして、イオは二つに分けながら、
「わかった。さあルカちゃん。髪を結い終わったら、一緒に踊ろうね!」
「うう、一回だけでお願いしまする」
と、ぐったりしたようにルカは答えたのだった。
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