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「そ、そうなんだ」
動揺していないふりをしながらカノンは、レオンから目をそらす。
レオンに好きな人。
誰だろう。でも、カノンは“幼馴染”だからそれ以上ではない。そして、記憶を見た時そんな人物をカノンは知らない。見落としたのか、それとも断片的な内容しか見ていなかったから……。
そこでカノンはぞっとする。もしもそれによって記憶の綻びが生まれ、カノンが、魔王だと知れてしまったら?。
――嫌だ、それだけは絶対に。
だからカノンは出来るだけ違和感が無い様に笑って、
「そうだね、レオンには好きな人がいたよね」
「そう、ずっと昔から好きな人で……ほら、カノンも知っているだろう? 銀髪の人」
「ああ、うん、そうだね。うん、銀髪だった」
そう答えながらも、カノンの中で暗い感情がふつふつと湧きあがる。
カノンではなかったのだ。
そう、分かっていたはずだ。記憶の有る無しにかかわらず、レオンがカノンを好きになる要素なんて一つも無い。
銀髪の子ばかりをレオンがナンパしたのはその人が忘れられなかっただけで、そして、もしかするとカノン自身をレオンは別の誰かと重ねて……。
レオンは渡したくない。レオンは僕のものだ。
そう胸がずきずきと痛んで、心が咆哮に近い叫び声を上げる。
それでもカノンは、それを表に出す事ができない。つとめて平静を装いながら、カノンは問いかける。
「それで、銀髪の好きな人がどうしたの?」
「……最近、カノンを見ていると、想いばかりが募るんだ」
何だよそれ、何だよそれ、何だよそれ。
もしもそんなレオンの心を掴んで話さない人間が今カノンの目の前にいれば、カノンはどうするか分からない。
けれどそんな事をすればきっとレオンにカノンは更に嫌われてしまう。
どうにもならない。カノンは何も出来ない。ただれオンがその人に奪われるのを黙って見ているしかない。
嫌だ、そんなの絶対。なのに、カノンは何も出来ない。
気が付くと、酷く不安そうにカノンはレオンを見ていた。
その事にカノンは気付いていないのも、レオンには分かった。
欲しくてたまらないのに欲しいと言えない子供に見える。瞳に見える不安と嫉妬。
それがレオンには少し嬉しい。
自分ばかり好きなのは辛いから。カノンからも好きだと、求めて欲しい。
あんな夢を見てしまったから、同じように好きだと愛しているとカノンに言って欲しい。
でも多分まだ無理だろう。そう冷静に考えて、レオンは俯いてカノンに囁きかけた。
「それで、カノンにお願いがあるんだ」
「な、何?」
「その人を口説く、練習相手になって欲しい」
「! なんで……」
「カノンは“幼馴染”じゃないか。こんな事、一番頼めるのはカノンだなって、俺は思っているから」
そんな頼りのされ方なんてしたくなかったと、カノンは思う。
それでも、カノンを頼ってくれるレオンには嬉しく思う。一番信頼してくれる事も。
矛盾した感情に苛まれながらも、カノンは少しでもレオンに嫌われたくないと思って、
「うん、分かった。レオンが望むなら、それで良いよ」
と答える。
イオの位置から、レオンがしてやったりと、にっと笑うのが見えた。
うわーと思いながらイオは、僕って今空気だよな、と疎外感を味わいながらも、それゆえにこんな面白いものを見れるしまあいっか、と考えた。
カノンはレオンに壁際に追い詰められた。
そのままカノンの両肩のすぐ横の壁にレオンは両手をつけて逃げられないようにされる。
練習なのに、自分ではない誰かを口説くためなのに、レオンの顔が真剣でじっとカノンを熱っぽく見つめていて、酷くカノンはどきどきしてしまう。
「俺は、貴方の事が昔から好きでした。幼い時に貴方に出会って、確かの貴方と初めてであった時、なんて綺麗な人なのだろうと思いました。その輝くばかりの銀の髪が日の光の中で煌いて、尊い聖なる生き物のように見えました。貴方のその金の瞳も、夜空に君臨する満月のように気高く思えたのです」
普段のレオンが言ったならば笑い飛ばしてしまいそうな台詞なのに、カノンは笑えなかった。
ただ、本当にその人が好きなのだと胸を締め付けられるような想いをカノンは味わう。
そんなカノンにレオンは続ける。
「でも、接してみて、貴方が綺麗なだけでは無い事が分かりました。強くて、優しくて。でも誰にでもそうだから、俺は少し意地悪をしてしまいました。もしもその事を今も貴方が怒っているのなら謝ります」
そのまま相手に嫌われてしまえば良いのにとカノンは心の中で思うも、
「でも、これだけは分かってください。いつだって俺は貴方に囚われて、逃げることが出来ないのです。貴方の可憐さが、可愛さが俺を惹き付けて放さないのです。どれ程夜を繰り返そうとも、貴方を求める思いは強くなるばかり、一体俺はどれ程貴方に恋しい想いに身を焦がしながら眠らないといけないのでしょうか」
そこでレオンは一息つく。けれどすぐにカノンをじっと見つめて、
「貴方の事を愛しています。貴方の全てが欲しい。昔から貴方の事がずっと好きでした」
カノンは胸が張り裂けそうになる。
勝てない。
こんなレオン、カノンは知らない。いつもふざけていて、でも優しくて、明るくて。
なのにこんな熱くて重くて、大きな思いを抱えていたなんてカノンは知らなかった。
こんな風にレオンに想われる人は、きっと凄く魅力的な人なのだろう。
ここまでレオンを想わせるような相手にはカノンは勝てない、勝つ自信が無い。
真っ暗闇に落とされたような絶望感をカノンは感じた。
でも、これで良いのだとカノンの心のどこかは叫ぶ。人と魔物。相反するもの同士。それがこんな……。
そこでカノンは考えるなと自分を奮い立たせる。それは考えてはいけない事で、今カノンが感じているのは“親愛”というもので、お気に入りの友達がどこか遠くに行ってしまうのを恐れているに過ぎない。
だから、だから……。
そんなカノンは気が付くとレオンに体を密着させられていた。服越しにレオンの体温を感じて、先ほどの台詞も身代わりとはいえ自分が口説かれているように錯覚して、体が熱を帯びて小さく震える。
カノンの顎をレオンが掴み固定して、ゆっくりとレオンの、綺麗な顔が近づいてくる。
唇が触れて、そのまま舌が進入してくる。今までは何気なくしていたキスなのに。
「んんっ……あぁ、んっ……ふっ、んんっ」
気持ち良くて、貪られるようなその刺激は今までとは比べのものにならない。
ぼんやりとしていく頭で、カノンははっとした。
――や、嫌だ、レオンなんかに、自分の獲物なんかに感じさせられちゃう!。
「放せ!」
顔を真っ赤にしながら、レオンを押しのけてカノンは逃げ出した。
尻餅をついたまま部屋から逃げていくカノンを見送るレオン。
「あと、もうちょっとかな。カノンも満更じゃないようだし」
「レオン、さっきの台詞、物凄く臭かったけど……頭は大丈夫?」
「俺だって恥ずかしいよ……けど、恋愛小説読みながらどう口説くか延々と考えたらああなったんだ! 十年以上考えてきた台詞なんだ!」
「……いや、まあ、いいけどさ。カノンちゃんも、どきどきしていたみたいだし。それで、今口説く練習で使っちゃったけど、本当に告白する時は何て言うの?」
「……しまった」
今更ながら慌てだすレオンに、何だかなと思いながら、いざその時になったら愛してると言うのが精一杯なんじゃないかなーとイオは心の中で思ったのだった。
トランが金髪の人が走っているのを声をかけると、レオンにそっくりだった。
けれど服装や武器は見慣れない。
当りかと思って話しかけると、酷く急いでいるようで、後にお願いしますと丁寧に断ってきた。
「後で宿ウィたずねさせていただきます。この村には一つしかありませんから」
そういって走り出す彼を見送って、トランは、あれはレオンの血縁だろうなと何となく思ったのだった。
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