何かいる!
悔しい。レオンなんかの、自分の獲物なんかのキスで感じてしまったのが悔しい。
そう、それが悔しいのだ。
別にレオンがカノンと同じ銀髪の人が好きだからとか、その人の事を凄く想っているとかそんな事、関係ない!。
そう思いながら周りを見ずに走り続けるカノン。
瞳から涙がぽろぽろ零れて、右手で何度もぬぐうけれども一向に治まる気配が無い。
苦しい。胸が苦しくて息が出来ないほどに辛い。
初めてレオンに会った時、使える勇者だと思った。
次は良い奴だから、もう少し一緒に居たいと思った。
そして、親友だとレオンの事を思ったのだ。
なのに、気が付けばレオンを独り占めしたくてたまらない。
レオンが誰かを見るなんて許せない。レオンが誰かを想うなんて許せない。
レオンはカノンだけを見て、想っていれば良いのに。
「もういっそ、自分だけのものにしてしまおうか」
カノンの声だけに笑いかけて、カノンだけを見てくれるように閉じ込めて。
そんな事、カノンにとっては簡単な事だった。そう、力づくで奪うなど、カノンの力を持ってさえすれば……。
そう暗く笑うも、カノンはすぐに悲しげな表情になる。
そんな事をすればカノンが魔王だとばれてしまう。
その時、イオやトランにさえもカノンの事を恐ろしいもののように見るだろう。
そしてレオンは、カノンを殺しにかかるかもしれない。
カノンを、レオンはよくも騙していたなと罵るかもしれない。
そんな、レオンに悪意を持って見られたならば、カノンは立ち直れない。
カノンは今の関係を、そう、カノンに優しいレオンを望んでいる。
――無理だ。
いつか別れの時は来る。その時にはきっと、カノンが魔王だと知れて、そうなるだろう。
ならば早いか、遅いかの違いでしか無いのではないか。
――何で、レオンなんかに出会ってしまったのだろう。
出会わなければ良かったのに。そうすればこんな思いもしなくてすんだのに。
なのに、そう考えるだけで胸が締め付けられるように痛くなり、レオンがいない自分をカノンは考えられない。
既にカノンの心の深い場所までレオンは入り込んでいる。
そこでカノンは立ち止まった。
周りを見渡すと、民家は無く、木々が生い茂るばかり。けれど、
「……出て来い、いるんだろう?」
がさっと茂みが動いて、嫌な笑いを浮かべた屈強な男が二人と細身の男が三人。
全員が、剣やら鎌やら刃物を持っている。
友好的にお話しましょう、で済ませられない相手だとカノンは悟った。
「大人しく荷物を置いて逃げ帰るか、それとも……」
「御託は良い。丁度苛立っていたんだ。全員まとめて叩きのめしてやる!」
そうカノンは呪文を唱えて彼らへと駆け出して、人間らしい魔法の射程範囲まで近づく。
そこで地面がせり上がった。
否、そこに落とし穴が掘られており、そこにカノンは引っかかったのだ。
「ちょ、待て……」
魔法すら使うことも出来ないまま、カノンは顔面から地面にぶつかって、意識を失ったのだった。
カタカタと揺れる馬車の振動で、カノンは目を覚ました。
薄暗い天井に、何人もの子供の顔が見える。そのうちの一人が、
「お兄ちゃん、目を覚ましたよ!」
「本当か!」
そう、酷く馴染みがある声がして、そして次の瞬間覗き込まれた顔に、カノンは飛び起きた。
ゴンッ
お互いに額をぶつけて、あうあうと額をさする。
その癖さえもそっくりだった。
目の前にカノンそっくりの容姿の者がいた。違いを言うならば瞳が赤い事くらい。
目の前の彼が先にさするのを止めてにこりと無邪気な笑みを浮かべた。
「初めまして、お祖父様! 我の名前は、ルーズカースといいます」
「え? 俺のそっくりな人を見かけた?」
「ああ、レオンそっくりだった。どう考えても血が繋がっているとしか思えないくらい、雰囲気がそっくりだった」
そう、トランに言われてレオンは黙る。
親戚で同い年の者などレオンにはミランくらいしか心当たりが無い。
そこでトランが思い出したように付け加えた。
「……服や装備が見たことも無いものが多かった」
「見た事が無い……特殊で強力な装備という事か?」
「……いや、服自体に特に魔力は感じなかった。けれど模様や形が違っていた」
「……流行の最先端は都市だが、トランは都市に行った事は?」
「去年に一度」
「……となると、そこまで変わるものなのか……確かに、夢で出てきたあの人もちょっと変わった服装をしていたが……本当に未来から……」
そこでイオが興味しんしんに、レオンに聞いてくる。
「未来から、ってどういう事?」
「いや、技を使った時、多分俺のそっくりさんと一緒にいるもう一人が、未来から来たとか言っていたから」
「カノンちゃんが銀髪と聞いて嫉妬していた人か、なるほどなるほど。それで、レオンはそんな話、本当に信じるの?」
「何となく嘘は付いていないような気がするんだよな、あの人」
「レオン、そういう何となくで判断すると、後で酷い目にあうよ?」
そう、真剣な表情でイオが指摘する。
それはそうだとレオンも思うが、その相手があまりにも似すぎているのだ。カノンに。
あんな綺麗で可愛い生き物が何人もいてたまるか、という気がするのだ。
とはいえ、それを理由にするのも弱い気がして、レオンはどうしようかと迷う。そこで、
「彼らは後で俺達に会いに来るといっていたが、それで決めれば良いのでは?」
と、トランが付け加えた。
それもそうだなという事で、その話はそこで終わった。
終わったのだが、逃げ出したカノンがどうしているのだろうかと思うも、カノンは強い魔法を使えるから大丈夫だろうとレオンは思って、何か大事な事を忘れている気がしてならなかった。
ちなみにこの時カノンは、丁度連れさらわれて馬車の中で気絶していたりする。
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