ご利用は計画的に
時間はカノンが逃げ出したすぐ後の事。
追いかけるのは不可能だと悟って先回りしようという話になった。
「よし、今こそアレを使う時!」
と、試しに以前使った人から力を借りる技を使ってみる。上手く一回で当りを引ければ良いのだが……。
「昨日の今日で、大変だな。まあ、我も色々な意味で暇だから良いのだが」
何にそんなに使うのかと呆れ顔の未来の魔王が現れる。
カノンにそっくりな彼を引き当てて、レオンはガッツポーズをとった。
「……よし、俺は運がいい!」
「と、言うよりは、我は“血”に連なる縁だと思うのだが……」
「一応俺が王族だから、ですか?」
その問いかけは、彼を困らせるものだったらしい。しばしの沈黙後、
「……それで、今日はどんな用だ?」
「いえ、カノンが何処に行ったのか知りたくて」
更に彼は呆れたようにため息を付いて、
「何だ、痴話喧嘩か?」
「まだそこまでいっていませんよ。口説き落としている所です」
「では力など使わず、自分の力で探せばよいのではないか? そうすれば好感も上がるぞ?」
「それは……そうかもしれません。でも……」
「……次はもう少し時間を置いて使うのだぞ? そうでなければ、きっと貴方はこの力を自分のもののように思ってしまうから」
「俺には分不相応だと、そうおっしゃりたいのですか?」
「いや、我も未来の魔王で、たまたもこちらに飛ばされただけなのだ。故に元の時間世界に戻り、いつ力が貸せなくなるのか分からない。そのために、これを戦力として考えられては、貴方を危険に晒してしまう」
そう本当に心配そうにレオンの事を見る未来の魔王、ルーズカース。
何故それほどまでにレオンに親切なのだろうか。
「……そうだ、一つ聞きたいことが貴方にあります」
「? 何だ?」
「貴方は本当に未来の魔王なのですか? 人間ではないのですか?」
「うむ、それには我は答えられない。何せ証明できないからな」
「魔族としての力を見せて頂くわけには?」
「この世界でそんな事が出来るのか?」
やけに白い世界。上か下もただただ白い。
出来るさ。
そう気付くと、レオンは話していた。それはレオンの意思ではない。
けれどその言葉に未来の魔王であるルーズカースは酷く悲しそうな顔をした。
「そうか……やはりそうか……」
「いま、俺……」
「いや、貴方は悪くない。そして残念ながら我は今特殊な魔法の道具によって、一切の魔法が使えない。だから証明しようが無い」
「そう、ですか」
「では、力を貸す。我も、それを終えればレンヤにすぐ引き戻されるだろう」
レンヤと未来の魔王である彼が口からこぼした途端、ほんの少しだけ彼の頬が赤く染まる。
だから聞いてしまったのかもしれない。
「レンヤは貴方の恋人ですか?」
「ああ、我の誰にも代え難い恋人だ」
そう微笑んだ顔がカノンにそっくりで、レオンは少しどきどきしてしまう。
そして、手を触れると力が雪崩れ込む。
「次は、もう少し先だと良い。後、今日は満月だからもしかしたなら、カノンカースは貴方に食べられに来るかもしれない、気を付けて」
その意味をレオンは問おうとするが、悪戯っぽく笑う彼の顔が歪み、ぼやけ、聞く事すらままならない。
レオンは、はっとした。
目の前に元の風景が広がる。
「レオン、その技、不味いんじゃないの? 顔が真っ青だよ?」
「大丈夫だ、イオ。心配ない。それよりもカノンを探さないと」
そう、レオンは答えて力を使う。
カノン、と心の中で名を呼ぶと、うっすらと像が浮かび上がる。
そして映ったカノンは、レオンにそっくりなあいつに口説かれていた。
それがレオンにはどうしても許せない。そもそもレオンにカノンは好意を持ってくれているのだから、その延長線上で……そう考えると、レオンはいてもたっても居られず走り出す。
「レオン!」
後からイオとトランの二人が追いかけてくる。途中、誰かを探しているらしき兵士とすれ違ったが、別の人間に話を聞いている最中で、レオンには気付かないようだった。
そしてどうにかカノンを捕まえられた。
というか、どうしてこんなに嬉しそうなのだろうか?。
宿の外に出ると、くるりとカノンはレオンに振り返り、
「レオン、良く僕がいる場所が分かったね!」
と、やけにご機嫌にカノンはレオンに言う。
どうしよう、カノンが嬉しそうにしすぎていて本当の事を言えない。なので、
「愛の力だ! 親友同士はこんな事が出来るんだぞ! 相手がどんな場所にいても危機が訪れると駆けつけるのだ!」
「そうなんだ……そうか、じゃあ、僕もレオンが危機に陥ったらどんな時にでも駆けつけるから!」
それって恋人同士みたいだとレオンが嬉しく思いつつ、それを隠すようにレオンは、
「よし、では俺はこれからナンパの続きを……」
カノンがにこやかに笑ってレオンの手を掴んで、その時初めて気付いたようだった。
「さて、レオン、一緒に帰ろうか……所で、レオン、顔色が悪いけれど」
「いや、ちょっとがんばって魔力を使って……えっと、カノン」
カノンはレオンをじっと見つめると、そのまま唇を重ねた。
魔力がレオンの体の中に流れ込んで、みるみる回復していく。しかもカノンはキスが上手い。
突然の事に驚いている内に、カノンは唇を離して楽しそうに微笑んだ。
「相変わらずキスは、レオンは下手だね」
レオンはムカッとしたので、我慢せず押し倒そうかと思った。そこで、
「あ、レオンいたいた、カノンちゃんも」
イオとトランが駆け寄ってくる。一緒に探してくれていたらしい。
それがまたカノンには嬉しい。当たり前のような、“仲間”という関係。それがカノンには嬉しい。
レオンの手を掴みながら、そのまま宿へと帰ろうとして、カノンはその時初めて気付いた。
「……トラン、矢を二本ほど貰っても良いかな?」
「かまわない」
差し出された矢をそれぞれ別方向に投げた。
その結果も見ずに、カノンは歩き出す。
「おい、良いのかカノン?」
「いいんだ。それよりもレオン、今日はたっぷりお説教だからね☆」
逃げ出そうとするレオンを捕まえながら、カノンは宿へと帰っていったのだった。
二つの、矢の刺さった人形が転がっている。矢の部分から魔力が少しづつ霧散し、もう既に何の力も残っていなかった。
それを黒いフードを被った人影が拾う。
「こんな簡単にどうにかされてしまうのか……ふむ。人間に優しいのも困りものだ、本当に」
そう呟いてその人形をその人影は持ち去ったのだった。
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