正しい嘘の使い方
やけに深刻そうなトランに、一体どうすれば良いのだろうとカノンが思っていると、
「イオが昨日、カノンに随分踊らせたがっていたが……」
「え、ああ……驚いたけれど、でも今日は……」
「随分気に入っているようだったんだ、イオが」
「……諦めていないという事?」
「正直に言おう。俺は、イオが暴走している時は、うん、そうだねって頷くのが最良なんだ」
「つまり?」
「止められなかった。ごめんなさい」
背後に気配を感じて、カノンは振り返った。
イオが不敵に笑っている。本能的にカノンは危険を察して逃げようとした。しかし、
「カノンちゃん、逃がすか!」
「いやー、いやー、やだー、ううううううう」
「大丈夫。レオンだって喜んでくれるよ!」
レオンと聞いた瞬間、カノンは石になってしまったがごとく動けなくなる。
その様子にイオがおや?と思い、
「カノンちゃん、レオンの事……」
「ぼ、僕はレオンの事なんて何とも思っていない……から」
最後の方の声が小さくすぼまる。
本当に、何とも思っていないわけじゃない。むしろ一緒にいたくて、触れていたくて堪らない。
でもこれは駄目だ。もしも恋愛感情だとしたなら、人間を好きになってしまったと……。
闇よりも光の方が良いのか。
そう何度も問われた意味がこれだったのだろうか。あの時既に彼らにはレオンの事が好きなように映っていたのだろうか。
分かっていないのはカノンだけだったとそう言いたいのか。
深刻そうなカノンの様子に、イオが珍しく焦っていた。
「カノンちゃん、どうしたの? さっきから黙って」
「イオ……僕はレオンの事が恋愛感情で好きに見える?」
そう問いかけられて、何を今更と思うものの、そうイオは答えられなかった。
カノンが深刻そうな顔で、そして酷く大人びて見えたから。
今それを言ってしまえば、カノンはここから居なくなってしまうかもしれない。
もしそうなればレオンはどれ程悲しむ事になるだろう。
そしてイオだってもう少しカノンと楽しく旅をしたい。
「まさか! だって、カノンちゃんはレオンの“幼馴染”じゃない」
「そう……だね」
イオはしまったと思った。この答えは“間違い”だ。
カノンは深刻そうに俯いて、瞳を揺らす。悲しそうに、けれど諦めたように。
イオは非常に不味いと思って、けれどどういう言葉をかければ良いのか分からない。と、
「カノン、聞きたいのだが、レオンともう離れ離れになりたくない、四六時中傍にいたいってなるか?」
トランが問いかけると、カノンは元気無く答えた。
「それはないよ。ただ一緒にいると居心地が良いなって……」
「ふむ、つまり、今カノンにとっては、レオンは“都合の良い男”という事か?」
トランがとんでもない事を口走った。
「ちょ、トラン何いって……」
「そうだよ、カノンちゃんに失礼だよ」
「イオ、黙っていてくれ。つまり、今のカノンが感じているのは、恋愛感情とはまったく別の感情だ。そして、“都合の良い男”だが……」
「僕は……確かにレオンと一緒に旅をしてレオンに頼ってしまっているかもしれない。そういう意味で都合よく利用しているかもしれない。でも、僕はレオンや、イオにトランも皆を守りたいって思っているから!」
一気にまくし立てて、カノンは大きく息を吸ってはいてから、
「僕は、レオンの事使い捨ての道具なんて、思っていないから」
真っ直ぐに言い切った。その言葉にトランはふむと考えて、
「つまりレオンと一緒にいると居心地が良くて助け合いたいと思っている、カノンはそう言いたいんだな?」
「そう。そうだ」
カノンが大きく頷くのを見て、トランは続けた。それもとんでもない事に気づいてしまったというかのように。
「その感情は、“親愛”というものだ。恋愛感情ではなく、真の友達同士、仲間同士に目覚める絆だ!」
「な、これが……」
「そう、レオンとカノンの信頼関係はそこまで強化されたということだ。仲間として、素晴らしいじゃないか。“幼馴染”かつ親友」
「親友……」
カノンが呆然と繰り返す。完全に言われた事をカノンはそのまま素直に信じ込んでいた。
そしてすぐに嬉しそうに笑って、
「そうか、これが“親友”か、そうなのか。うん、もしかしたなら僕がレオンに恋愛感情を抱いているのかと思った」
「危なく誤解するところだったな。よかった、よかった」
そう笑いあっている三人の下に、少し不機嫌なレオンがやってきた。そして、
「レオン、僕達親友になったんだね!」
嬉しそうなカノンに、レオンは少し微妙な顔をして、
「……ああ、そうだな。ところでトラン、ちょっと良いか?」
そうトランを連れて行くレオン。そんなレオンを追いかけようとするカノンをイオが引きとめた。
「カノンちゃん朝食食べていないでしょう? 一緒に食べよう?」
「でもトランとレオンは……」
「実は早い者勝ちの果物が……」
「食べる!」
目を輝かせるカノンに、イオはほっと胸を撫で下ろしたのだった。
「さすがに親友は無いだろう」
「だが、そうでもしないとカノンは何処かへいってしまいそうだから」
「……そうだな。でも、はあ。また頑張らないといけないのか」
「……もっと骨抜きにしてから気付かせないと、カノンは逃げてしまうぞ?」
「そうだな……そうだよな……。ちょっと浮かれてたかもしれない」
「良くある事だ。俺もイオ相手でよくやった」
そんなトランを羨ましそうにレオンは見てため息を付く。
「はあ、早くカノンと恋人同士になりたい。そして嫁にしたい」
「出来る限り俺達も手伝う」
「ありがたいなぁ。それじゃあ久しぶりにナンパでもしに行くかな。少しは反応が変わってくれると良いんだけれどな……」
切なそうにレオンは笑った。
片思いの期間は辛い。想いばかりが募り、そしてそれが届いていないと不安になる。
けれど、それを考えればレオンとカノンは幸運だ。
何処からどう見ても両想いなのだから。
「さて、俺達も朝食を食べに行こう。そして、ぱあっと今日は遊ぶんだ!」
その言葉に、トランも頷いたのだった。
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