自分に無いものが欲しい
「どこかでお会いした事が?」
「うむ、まだ会った事は無いはずだ。そもそも我は生まれていないし」
目の前の、カノンのそっくりさんはよく分からない事を言って頷く。
けれど、彼が必要な力を持っているのは確かのようだ。だからレオンは説明する。
「俺は、他者の技を借りる技を使って……」
「それで我の所に来たと。して、どんな力が必要なのだ?」
「カードの柄を当てる力です」
「……一番手っ取り早いのは、予知能力だな?」
そう微笑む彼に、レオンは驚く。
「! その力は、人間の王家のみの力のはず」
「……人の王家と、魔王の血が交わる時があるのだ。その影響であろう」
「え?」
「我は諸事情でこの時代に飛ばされた未来の魔王だ。けれど、力を貸すのはかまわない。元々封じられて使っていないし」
力を貸すのはかまわない、と言われてその点にはレオンは安堵する。
しかし幾つか聞きたいことがある。
未来の魔王?、人の王と魔の王が交わる時?。
「カノンカースがこの時代の魔王の名であろう。我の名はルーズカース。それをカノンカースに言えばどれ程未来の者か……」
「まだ、カノンには俺が魔王だと気付いていると、知られたくないのです」
「む? そうなのか。では、まだ我が魔王だということも、お互いがそれを知らないという事にしておこう」
そう、ルーズカースと名乗った彼が大きく頷く。そんな彼に聞きたい事がある。
「人の王と魔の王が交わる時とは?」
「……それは我の口からは言い出しかねる。先ほどの事もつい口が滑って言ってしまっただけで話すつもりはなかったのだ」
「貴方が生まれなくなってしまうからですか?」
「確かにそういった懸念はあるが、未来の存在である我が過去にいられる時点でそれは強固な運命なのだと思う。変えられるのではなく、抱かなければならない運命、それが貴方方の運命なのであろう」
「……貴方は結末を知っているのですか?」
「知っていてもいえない。未来を知らないのは楽しいぞ?」
「……俺はずっと、その力が欲しかった」
それがなかったために、レオンは辛い幼少期を、否、それ以降も経験した。
その様子にルーズカースは少し悲しそうに、
「……貴方も我も、無いものが欲しくてたまらないようだ。……では、その予知能力の一部を貴方に貸そう」
「全てでは駄目なのですか? そうすれば……」
「廃人になるぞ?」
「!」
「情報が多すぎて、脳が壊れてしまう。悲しい思いをするのは貴方だけではない、我が祖先のカノンカースもそう。だから、ほんの少しだけ力を貸そう。それで今回は十分足りるであろう」
「わかりました。お願いします」
そう、レオンは微笑んだ。者前の未来の魔王はとても優しくて、レオンに好意的だったから。
その表情に、ルーズーカースは目を少しみはって、鮮やかに微笑んだ。
「……レンヤにそっくりだな」
「え?」
「我のとても大切な、人間の恋人だ。あまりにも似ているからつい口が滑って話してしまう、困ったものだ」
「……魔王が勇者に与えるものは絶望だけだと聞きました」
「時代は常に変わる。そして過去の悲しみを乗り越えて、似た間違いを起こさないように歩いていく。だから、
大丈夫。それとも、カノンカースは酷い存在に見えるか?」
「……愛された魔王だと思います」
「なんだ、分かっているではないか。そしてそんな魔王だからこそ……いや、これ以上は言わなくても分かるな?」
レオンが頷くと、満足したようにルーズカースが二回ほど頷いて、レオンに手を伸ばす。
その手にレオンが触れると、何かがレオンの中に入り込むのが分かる。
「近いうちに会いにいく。呼んでもらえたからようやく居場所が掴めそうだ」
「魔王城に直接行くわけには?」
「……カノンカースが貴方と旅している時に会ったと聞いていたのでな」
「なるほど」
そうしてルーズカースはすっと手を離す。レオンは自身中にその力を感じた。
「また会おう」
そう、ルーズカースがカノンにそっくりな優しい微笑を浮かべて消えていく。
レオンははっとすると、目の前に三枚のカードが広がっていた。
「早く引け」
「ああ」
そういうクラウにレオンは頷いて、自分の中に入り込んだ先ほどの力を使う。
頭に映像が浮かんできて、かすかな痛みを感じる。交じり合い交錯しあうその映像の中から、必要なものを拾っていく。
そして、見つけた。
「これだ」
開いたカードには柄が描かれていた。
「レオン! よくやった!」
そう嬉しそうにカノンが叫んで、レオンに抱きついた。
それを見ていたクラウが憎憎しげにレオンを見て顔を背けた。
それに気付きながらも、カノンの嬉しそうなその表情にレオンは自分の選択が間違っていなかったと確信する。確かにカノンのそういう姿も見たいが、レオンが一番見たいカノンの表情は、こんな風に嬉しそうに笑う表情なのだ。だから、これで良い。
と思っているの、恨めしそうな声が聞こえた。
「レーオーンー……せっかくの機会を……」
「イオ、酷いよ。僕だって……」
「絶対に素晴らしい踊り子に……トラン、どうし……んんっ」
トランが、恨めしそうに文句を言うイオにキスをした。
その後も、イオが何かを言おうとするたびに、トランにキスで口を塞がれて。
最後は舌まで入れられて、くてっとなったイオがトランに背負われていた。
「……任務完了」
「よし、帰るか」
「……僕達は活躍すら出来ませんでしたね。良いことですが」
そうぼやくホーリィロウ達に、レオンは笑って助かったよと言い、カノンはありがとうとお礼を言った。
そんな和気藹々とした集団に、クラウが声をかけた。
「何だか楽しそうでイラッとしたから、強制退去だ」
クラウが呟くと同時に、レオン達の立っている床が抜けたのだった。
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