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全てには理由がある

 カノンは、酒樽に放り込まれる前に逃げ出した。何でも屋根の上でお月見をするらしい。

 また、イオも含めて良い感じに酔っ払った所で、酔っていないホーリィロウが寄ったふりをしているレオンに近づいた。

「隣、いいですかレオン様」

「……ああ」

 手にしているグラスは、ウイスキーだとレオンは言い張っているが、先ほど紅茶を放り込んでいたのをホーリィロウは見ていた。

 とりあえず沈黙しつつ、飲み物を飲んでホーリィロウが口を開いた。

「……遊びかと思ったのですよ」

「え?」

「カノン君の事、彼は……」

 ホーリィロウが周りを見回して、聞いている人間がいないことを確認してから、

「魔王です」

 なるほど、珍しくホーリィロウが踊りの時に妙な小細工をしてくると思ったら、そういうことかとレオンは嘆息する。

 ホーリィロウは、レオンが本気でカノンが好きなのかどうかを探りを入れていたのだ。

 そして、今話しかけてきたのは忠告の意味もある。

 だからレオンはきっぱりと頷いた。

「知っている」

「では、そんな彼に本気になっている、という事ですか? レオン様は」

「……父上達には言わないでほしい」

「……その父上からのご命令なのですよ? 探りを入れろと」

「俺は、カノンが欲しい」

「奇遇ですね、僕もです」

 レオンは黙ってしまう。

 確かに、ホーリィロウはとても優秀な勇者で、古くからの付き合いのためかその過去の勇者が、本当は今までどのように扱われてきたのかを知っている。

 それ故に、憎みこそすれ、欲するなど考えが及ばない。

「……お前、魔王だぞ? 敵以外にどんな感情をお前は持っているんだ?」

「昔、彼に助けられた事があるのですよ。彼は覚えていないでしょうが、人のふりをした彼にね」

 それを聞いて、何となくレオンは分かってしまった。

 カノンは魔王としての顔の他に、カノンの個人としての顔は、気が強くて、優しくて。

 それにレオン自身も惹かれたから分かる。

 けれど同時に節操なく相手を魅了するカノンに自重して欲しかった。

「レオン様は、いつお知り合いになられたのですか?」

「……言いたくない」

「僕だけに言わせるとは中々……けれど、今ので確信しました。レオン様は記憶操作されていませんね?」

 昔から、ホーリィロウにだけは上手く嘘をつけない。レオンは嫌になりながら、

「頼む、もう少しだけ報告は待ってくれないか?」

「……仕方がありません。とりあえずレオン様の記憶操作がされていない事など、不安用件は幾つか排除できたのでそれだけは上げておかないと。ただでさえ、カノン君に貴方様が半殺しにされた件で、色々面倒なのに」

「何故半殺しされた事を知っている」

「前から貴方方の監視はされていたのですよ? もっともあのカノン君の恐ろしさに、監視して、いざという時に手助けをするよう派遣した者が、動く事も出来なかったというのですから……」

「かといって今離れさせるのも難しいと」

「カノン君、本当にレオン様が好きですからね……しかも魔王というだけあって魔力も巨大ですし」

「という事はカノンを口説いている間は、連れ戻されないってことだな!」

 天啓を得たようにかっとレオンが目を見開いて、ホーリィロウは溜息を付いた。

「……そこまでして戻りたくありませんか?」

「あんな針でちくちくされるような場所にいるのヤダ。このフリーダムな世界で俺は生きて生きたい。切実に」

「目的と結果が逆になったような気がしますが、いつか終わりは来ます。その時、カノン君とは別れなければならなくなるでしょう?」

「その時は、カノンに攫って貰うから良いや」

「縁起でもない……貴方様は一人っ子でしょう?」

「いや、従兄弟がいるからいいんじゃね? 父上の弟もいるし」

 気楽にのたまうレオンに、ホーリィロウはこれ以上言っても仕方が無いなと口をつぐむ。

 いずれ分かる事だ。

 そして、その時がホーリィロウにとっても最大の機会なのだ。

 失恋された時に優しくされると好感度up。

 きっとレオンにもカノンにとっても、カノンがホーリィロウとくっ付くのが最適な形なのだから。

 問題なのは、レオンにカマをかける過程で、カノンの印象を悪くした事だ。

――さて、どうしますか。

 偶然を利用するのはホーリィロウにとって簡単な事だった。

 ただ使える偶然がそうやすやすと来るかどうか、それも難しい問題だった。

 今直接手を出せば、更に好感度が下がってしまいそうなので、ホーリィロウはとりあえず様子見する事にした。そこで、

「話はそれで終わりか?」

「……ついでの噂なのですが、魔王カノンカースは魔族の四天王と仲が悪いそうです。そう、僧侶のいた、光の神殿に光の神からお告げがあったとか」

「……どう考えても、カノンを落としに来たようにしか見えなかったが」

「そもそも、魔王であるカノン君が外に出て来る事自体異常では?」

「……それは」

「レオン様に、ホーリィロウ様!、こんな所で話していないであっち行ってのみましううぅ」

「そうらの、ろめろめ」

 突然乱入してきた、酔っ払ったイオと僧侶イータ。とりあえず、レオンは二人の面倒は大変そうなので、ホーリィロウを突き出した。

 そしてそのまま全力で、その場を去る。

「やられた」

 ホーリィロウはそう呟いて、酔っ払った二人に引きずられるようにずるずると宴会の輪へと連れ戻されたのだった。


 ぼんやりとカノンは月を見ていた。

「満月まで後どれくらいか……」

 そう、憂いだように呟いたのだった。

お気に入り、評価ありがとうございます。とても励みになります。


次の更新は、後一回したい。よろしくお願いいたします


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