思い通りにする方法(笑)
レオンとホーリィロウが踊りだした時、まわわりは騒然となった。とはいっても、ホーリィロウとレオンの仲間しかいなかったのだが。
ふわりと緩やかにスカートの舞う様も、本当にレオンの柔らかな美しさを引き立てている。
色々な意味で巧みに踊っていく二人。自然とカノンの目が険しくなる。
だがそれがレオンの踊りの技術の高さを示している。
けれど、これほどまで女性パートをレオンが上手く踊りきっている事に、カノンは面白くないものを感じた。
二人が上手いと余計にそれを感じる。
「やはり我等が勇者ホーリィロウ様は素晴らしい。文武両道、そしてあの容姿……どれをとっても完璧な方で、しかもこのように踊りも上手いなんて!あ、でもレオン様も本当に綺麗ですね……周りに光のかけらが振りまかれているように煌びやかで……ああ、くらくらする」
目を輝かせながら、アイドルを見て騒ぐファンのようなその様子の僧侶イータを見て、カノンは自分が彼に抱いている嫌なものの正体が、もしかしたなら違うんじゃないかな?、という事に気付いた。
なので、楽しそうな僧侶イータを少し観測してからカノンは口を開いた。
「……僧侶イータ。僕は今のお前の発言で何か色々と間違えている気がしてきた」
「む、可愛いだけの貴方に何が分かると言うんですか」
「……喧嘩を売っているのか? 僕に」
「売ってるんですよ、僕は。言わせないでください、恥ずかしい」
カノンと僧侶のイータは、シャー、と相手への威嚇を再び始めたのだった。
視界の端で、カノンと僧侶イータが喧嘩しているのをレオンは確認した。
あの二人、その不和の原因がレオンだと言うのは別に良い。
それだけカノンがレオンの事を気にしている、という事なのだから。
少しレオンはにやけていたのかもしれない。それに気付いたホーリィロウが、周りには届かない程度の小声で、
「やけに嬉しそうですね」
「ああ、カノンが俺の事を気にしているみたいだからね。さっきは勇気付けてくれたし、自分からキスもしてくれたし」
「僕は惚気られているのかなっ……と」
そう右足を踏まれそうになったレオンは巧みに交わして、踊りながら小さな声で会話を続ける。
「さっきから、わざと俺が踊りにくいように動いているのは酷いんじゃないか?」
「カノン君が見ているのだから僕も少し本気を出そうかなと」
「そういった相手を貶めて自分を良く見せようとする方法でなく、自身の動きで魅せようと思わないのか?」
「足を引っ張る方が楽なのですよ?」
「自分で成長する方が大切だろう?」
「レオン様は、心が強いですね」
「お前は実力で押していくほうだと思っていたが?」
「さて、何のことでしょう。……それにこの程度の嫌がらせは、分かりにくいようにやるものです。現に、誰も気付いていないでしょう?」
そう、ちらりと回りの様子を見るホーリィロウ。
カノンとホーリィロウの目が合うと、カノンの目がすっと細くなり、声を出さずに口を動かす。
"セイセイドウドウショウブシロ"
カノンにはばれていた。
「どうしよう、本命のカノン君に気付かれてしまった。……彼、魔物なのに、人の踊りが分かるんですね」
魔物だと言うホーリィロウにレオンは訂正を入れる。
「……カノンは魔物とのハーフだ。それにカノンは、抜けているけれど、本当は強くて賢いよ。もっとも踊りは昔、俺がカノンに教えたけれどね」
「……レオン様、カノン君と幼い時に?」
レオンは口を滑らせたと舌打ちする。
こっそり昔カノンに会いに行っていた事など、出来るだけ知られないようにしないといけなかったのに。
つい、ホーリィロウに張り合って、あまり知られたくない情報をしゃべってしまった。
「そうですか、やけにカノン君に執着すると思っていましたがそのような……けれど、彼は魔物でしょう?」
「"幼馴染" だから何かを教えあう事もあるだろう?」
「あの姿の人間で不審な人物と接触したという話は、僕もレオン様と古い付き合いですが聞いた事が無いですね?」
「……カノンとは、俺が子供の時からの幼馴染だ」
「レオン様はそれを本気で言っているのですか?」
今度は探るようにレオンから言葉を引き出そうとするホーリィロウ。
確かにその辺は彼ならば気になるだろう。
だが、記憶操作されていると誤解されている方が都合が良い場合がある。今回はそうだ。
「子供の時のカノンは本当に可愛かったぞ? 本当に可愛らしくて神々しい子供だった」
「……羨ましいですね。そして、カノン君は貴方に惹かれていると?」
「さっきの行動で察して欲しいな」
珍しく真剣に、ホーリィロウは悩む表情をレオンに見せた。そして、
「……僕も幾つか考えなければいけないようです」
大体ホーリィロウが言いたい事がレオンは分かったのでけん制しておく。
記憶操作されているのなら、そんな状況ではカノンと一緒にいさせるのは危険だからとレオンは連れ戻されてしまうだろう。
特に、ただでさえ無理を通している今の状況では、良い口実になってしまう。
例えレオンがカノンを抑えている側面があったとしても。
レオンは……だから。
それにレオンはまだカノンを手に入れていない。良いとは言えない奇跡のような偶然とはいえ、一緒に旅が出来ているのだからこの機会をレオンは逃したくはなかった。だから、
「今俺をカノンから引き離すと、カノンは助けに来るだろうなー」
「……それは遠まわしな脅しですか? はあ、しばらく様子見ですね……」
「そのままカノンの事を諦めてくれると俺は嬉しい」
「僕は彼を獲物と決めましたから。例えレオン様でも譲れません」
きっぱりと言い切った所で、踊りを二人は終えたのだった。
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