奴も男だ
踊り終わった途端に、レオンはカノンへと走りより抱きつこうとする。
だがさっとカノンは避けた。盛大に転ぶように、レオンが転ぶ。
レオンが恨めしそうな声を上げた。
「カノン、抱きとめてくれたって良いじゃないか」
「レオンの方が背丈も体格も大きいのに、抱きとめられない。そもそも、そんな事をしたら僕が床に倒れて痛い思いをするじゃないか」
「がんばった俺にご褒美としてそれくらい良いじゃないか」
「わかった。じゃあ僕がレオンに抱き付けばいいんだね?」
そう言ってカノンはレオンに抱きつくという名の、飛込みをしようとした所で襟首を掴まれた。
「使用人、レオン様は戦利品だ。どっちが勝つかで、決まるんだ。分かってる?」
「使用人言うな! それにレオンは今はそちらのものではないから、僕がレオンに抱きつくのは問題ないね。そもそも、渡す気も無いけれど」
「ふん、約束は守ってよね、カノン」
「そもそも今ので、僕達の勝ちがまず一つ決まった。そうだろう、ホーリィロウ」
「……聞こえていたのですか?」
困ったように笑うホーリィロウに、カノンはつまらなそうに続けた。
「少し魔法を使って会話を聞かせてもらっていた。お前が、レオンが踊りにくいよう仕掛けているのが分かったから」
「そうですか、これは貴方に嫌われてしまいますね」
「元々何とも思っていない。そしてこれからも」
冷たく言い放つカノンに、ホーリィロウは戸惑ったように目を瞬かせた。
「僕には一切興味が無いと?」
「自意識過剰なのでは?」
ホーリィロウが本当に困ったような表情をする。
それはそうだろう、とレオンは納得する。昔から多くの人間を魅了し、羨望の眼差しを受けていた彼が眼中に無いと言われたのだから。
「これは難しい問題に当ってしまいましたね……少し気長にやっていきますか」
「何の話だ?」
問いかけるカノンに、ホーリィロウは少しじっとカノンを見て何かいいたそうにしながらも、僧侶のイータに視線を移して、
「いえ、それでは今回は僕の負け。イータ、がんばってください」
「はい、ホーリィロウ様……よし、いくぞ」
やけに張り切るイータに、こんなずるい奴にどうして付いて行くのか、とカノンは心の中で疑問に思ったのだった。
「じゃあ僕が女性パート、使用人が男性パートでいいね」
やけに偉そうな僧侶イータに、カノンは何処か面倒そうに、
「僕は使用人じゃないと、何度言ったら分かるんだ。この鶏頭、三歩歩いて忘れるのも大概にしろ!」
「アーアー聞こえないー。……でも、レオン様をくれたら、カノンってきちんと呼んであげる」
「全力でお断りする!」
「交渉決裂だね。早速、いきますか!」
そう、僧侶イータと向かい合ってカノンは思い出す。
そういえば人の踊りは、子供に化けていた時の金髪の少年に教わったのだ。
設定上同い年の少年はカノンよりも背が低く若干力も弱かった。
確か、勝った方が一つだけ言う事を聞く、という約束で教えてもらったのだ。
カノンが男役で彼が女役。
そういえば、やけにあの時かの少年が顔を赤らめていた気がするが、まあいい。
「それではよろしく」
そこでカノンは恭しく、僧侶のイータの手の甲にキスをした。
全員が固まった。
そしてレオンは嫌な予感と共に昔の記憶を思い出す。
男性パートを教えたとはいえ、今なら分かる。彼は魔族の王。
故に王としての威厳も、雰囲気も持っているのだと。
現に、その洗練された、いつもの可愛さや甘さがなりを潜めた堂々とした自信に満ち溢れた姿は、まさしく"王"そのものだった。
その様子に幼いレオンはどきどきすると共に悔しさを覚えていた。あの時から既にレオンは、カノンの事をお嫁さんにしたいと思っていたから。
そのまま呆然とする僧侶イータを抱き寄せて、踊りの形にする。
そしてふっと微笑みかけると、僧侶イータがこれでもかというくらい顔を赤らめた。
レオンはとてつもない不安を覚えてホーリィロウを見ると、彼も似たような表情をしていた。ついでに僧侶に思慕を寄せている戦士を見ると、完全に凍り付いていた。
そのまま踊りだす二人。
どちらも非常に良いのだが、何となく僧侶が恋する乙女のようにカノンを見ているのは気のせいか。
そしてその懸念は当る。
踊りが終わった途端、僧侶イータがカノンに抱きついた。
「抱いて☆」
即座にレオンとホーリィロウが二人を引き剥がした。そこで、僧侶イータが抗議の声を上げた。
「ホーリィロウ様、綺麗だと思ったから抱きついただけなのに、酷いです」
「僧侶イータ、都市で、綺麗な男を次から次へと追い掛け回して、謹慎になったでしょう? そもそも、この旅で、少しでもその行動的な面食いの性格を直そうと、大人しくしていたのではないですか?」
「……忘れてた」
「……いえ、僕の責任でもあります。レオン様と接触させた事が間違いだった」
「いや-、レオン様も好き! それにカノン様も好き!」
カノンが気味の悪いものを見たかのように、一方後ろに下がった。
そこで背後にいたレオンに当る。
見上げるように見ると、レオンがそのまま腕を前に回してカノンに抱き呟いた。
「カノンは可愛い"幼馴染"でいてくれ。でないと……」
やけに真剣な表情をしたレオンが続きを言おうとして、そこで部屋のドアが開いた。
「ここか!」
トランが、顔を真っ青にして飛び込んできたのだった。
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