常識的に考えて
「カノン、久しぶりですね」
「父様! 元気そうで良かった!」
「ええ、レイルが色々と面倒を見てくれますから」
そこでぷいっとカノンは不貞腐れたようにそっぽを向く。その様子は、昔から可愛いままだ。
そんな我が子の様子を見ながら、トリューカースは、
「どうですか、一緒にいる勇者達は」
「レオンは変態だけど良い奴だし、イオもトランも、優しいし、とても良いパーティに潜り込めたと思います。ただ……」
「ただ?」
「ただ、最近ふと思うのです。彼らを危険な目に合わせるのではないかと」
「それは、カノンの選んだ彼らが弱いと?」
「そんな事ありません! 確かにまだ弱いけれど、これからきっと、もっと強くなります!」
「それならば、カノンが守ってあげればいいでしょう? カノンは僕なんかよりもずっとずっと強い力を持っているのですから」
そうあたまをなぜる父に、はいとカノンは素直に頷いた。
本当に穏やかで優しい気持ちになる。こんな父をおいて城から出てきたのは、カノンがある話を聞いたからだった。
「四天王の一人風の王の息子と会いましたが、特にその気配は無いように思えました」
「デマだと?」
「いえ、まだ一つしか行きませんでしたから」
「……行くのを止めませんか? 僕はカノン、貴方が何かされないか心配です」
「別にキスされる程度で特に何かをされたわけでは……」
そこでトリューカースがカノンの腕を掴んだ。
「帰りましょう。やはり、カノンをあいつ等に会わせる訳にはいかない!」
「ま、待ってくださいキスならレオンとも……」
そこで、トリューカースが足を止めた。そしてくるりと本当ににこやかな笑みを浮かべて、
「カノン、そのレオンさんという人にもキスされたのですか?」
有無を言わせない、その迫力がある笑顔にカノンは危険を察知した。
だから話をそらす。
「そういえば、どうして父様は、キスを百回すると子供が出来ると嘘をついたのですか!」
「……どうしてそれが嘘だと?」
「レオン達から聞きました!」
「……余計な事を」
「え?」
「いえ、でも、カノンも一回城に戻っては? それにもうカノンが危ない事をする必要が無いでしょう?」
「……父様、先ほどと言っている事が……」
「……飢えた野獣どもに、僕の可愛い可愛いカノンを渡してなるものか」
「えっと、父様?」
いつもと様子の違う父に、カノンは不安を覚える。けれどそれ以上にレオン達と一緒にいられなくなると考えると、胸が締め付けられるようだった。
「あの、父様。僕はもう少しレオン達と一緒にいたい……」
そんな熱心な息子の様子に、トリューカースはある事に気づいた。気付いたので、連れて帰ろうと思った。だから、
「カノン、それほど強くなりそうな勇者ならいずれ魔王城に来るでしょう。その時手に入れるのは駄目なのですか?」
確かに勝つにしても負けるにしても彼らを、特にレオンを手に入れることは可能だ。
勇者を手に入れた魔王など自分の前にも多々いる。
けれど、そういった手に入れたい、とは自分はちょっと違う気がした。
「……一緒に居たいんだ。もう少し彼らと一緒に、馬鹿みたいなやり取りしたり、笑ったりしたい。こんな事、初めてなんだ」
「カノン……」
そこでトリューカースは思い出す。カノンは、自分と違い魔族とも交流なく魔王城に二人だけでずっと居た。
せいぜい誰かと接点を持ったのは、レイルと一緒にトリューカースが新婚のままごとをした時に、子供に化けて付いて来て、その時に他の人間の子供達と遊んでいた時位だろう。
自分のせいでカノンのそういった時間を犠牲にしていたとトリューカースは初めて気付いた。
そして今、カノンは彼らと一緒にいたいといっている。だから、少しくらいならばかまわないのでは?。
「……分かりました。もう少しだけ、けれど身の危険を感じたなら帰ってくるのですよ?」
「父様、ありがとう!」
「それと、満月の夜は気よつけるのですよ? 彼らを傷つけないように」
「はい、今までだって大丈夫ではありませんか」
確かに今までは大丈夫であったが、カノンはレオンという人間に惹かれている。
あの魔物の衝動、を抑えきれるだろうか?。
「大丈夫です。それにそんな事をすればきっと僕が後悔してしまいます。それに、人間なんて食べる気もしません。昔から。父様だってそうでしょう?」
「基本的にある一定以上の魔族は人間なんか正気の時は食べたいなんて思いませんから――アレは別ですけ
ど――だから、大丈夫かもしれませんね」
父親が納得してもらえて、カノンはほっとした。そして、満月の夜の衝動に不安を覚えるものの、大丈夫だと自分の力を過信していた。
以前に満月でもないのに、レオンの血を舐めとり甘く感じた事、酒を飲んでいた時、キスをしてレオンの魔力を奪い取った事。どちらもレオンだから、なのにカノンは気付かなかった。
そこで、ふとトリューカースが思い出したかのように付け加えた。
「そういえば最近僕達にそっくりな、赤い瞳の者が目撃されているらしいですよ?」
「……赤い瞳は、特に魔力が強いものの象徴ですよね。人にしろ、魔族にしろ」
「しかもバナナの皮に引っかかったそうです」
「……父様の隠し子ですか?」
「魔王は一代に一人しか生まれない、それは貴方も知っているでしょう?」
では一体誰なのかと考えて、それから、
「……世の中広いので、そういう人間もいるのでしょう」
「そうですね」
そしてちょっとした雑談をして、カノンはトリューカースと別れたのだった。
レイルはトリューカースと合流した。
「やはり、魔王カノンカースが目覚めたから、勇者の活動が活発になったらしい」
「それと同時に四天王が動いて……動きが関連している? カノン……」
「だが逆に動く事で何か分かるかもしれない。城にいるだけではいざという時に対処できないかもしれない」
「それでも野獣の中にカノンを放り込むなんて……」
「会って話した限り、レオンは紳士的だと思うが?」
「カノンにキスしたのに?」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「その程度許してやろう、トリューカース」
「でも……」
「私が傍にいる、それだけでは不満か?」
黙ってしまうトリューカースに、レイルは小さく笑う。本当に、彼は寂しがりやだ。
それに、カノンだってもう子供ではない。
そして、トリューカースもそれが分かっている。認めたくないだけで。
そんなトリューカースを連れてレイルもまたその場を去ったのだった。
宿に戻ってカノンは悲鳴を上げた。
「イオ、トラン!これは一体何!」
「何って、お酒?」
「ああああ、しかも依頼量がこんなに減って……どれだけ飲めば、レオン、何?」
即座に依頼料の入った袋を、レオンがカノンから取り上げた。
「ちょ、どうする気!」
「ぱあっと使うのさ、それではまた会おう、諸君!」
「ちょ、待て、レオン! えっ!」
追いかけようとしたカノンは、何かを踏んで倒れこむ。
視界の端にはそれが黄色いバナナの皮だと分かった。
ああ、またバナナの皮かとカノンは泣きたくなる。
本当にどれだけあのレイルとかいう父の恋人にバナナの皮で嵌められた事か。冷たい床は痛かった。
そこで、カノンはレオンに抱きとめられる。
見上げるとレオンが微笑んでいて、それにカノンは見惚れてしまう。
「いつだって、転んだら抱きとめてやるから」
「あ、うん、そう、そうだね」
「"幼馴染"だから」
そう付け加えるレオンが何となく面白くなくて、カノンはそっぽを向く。
それが運のつきだった。
「と、言うわけでさらばだ!」
走り去るレオンにしまったと顔色を変えてカノンが追いかける。
そんな仲の良い二人を見送りながら、このお酒美味しいねとイオとトランが仲良く飲んでいたのだった。
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