意味が分からないよ
結局なんだかんだでレオンから依頼料を取り戻したカノンだが、半分に減ってしまったその悲しさのあまり、次の日の朝早く開くと同時にギルドに飛び込んだ。
「すみません、何か依頼は……」
「無いよ」
新聞から顔を上げずに、タバコを吸いながら中年の男が足を組みつつ短く告げた。
けれど、カノンは更に食い下がる。
「……いえ、普通一つか二つ、あるものでは?」
そんなカノンを面倒くさそうに、見上げて言葉を失ったようだった。
それからその男は小さく咳払いをして、
「昨日有名な勇者様が来て、全ての依頼をこなしてしまいしばらくそれ関係は……ああ、可愛い少年が宴会で女装して踊る依頼ならありますが」
「僕は可愛くないので無理ですね、それでは」
と、カノンはきびすを返してそこから去ろうとした。
そこで、嫌な人影を見つけた。
その人影も、カノンに気付いてものすごく嫌そうな顔をして、
「こんにちは、卑猥な体をした人……カノンさんでしたっけ」
と、カノンに喧嘩を売ったのだった。
「つまりそのような理由でカノンが女装をする羽目に?」
「油断した……まさかあの依頼が、奴らのものだったなんて。しかも挑発に乗っちゃって……何で僕は……」
そう、その嫌いな人影は僧侶、名前をイータといった。以前釘をさしておいたのに性懲りもなくカノンの前に現れて……それはいいとして。
ホーリィロウ達がちょっと楽しく宴会したいとの理由で依頼を出していて、そして僧侶のイータとカノンは気が付けば口論になっており、勝った方がレオンを手に入れることになった。
単純に売り言葉に買い言葉で言い合いしていただけのはずなのに、とカノンは頭痛がする頭を押さえた。
しかもその経緯をイオに話したら、何故か笑い出して理由を教えてもらえなかった。
ちなみにその時イオの頭に浮かんだのは、正妻と側室の骨肉の争いだったのだが、賢いイオは思っただけで言わない。
それよりも、もっと面白いことが今進行していた。
レオンが荷物から洋服を取り出して、カノンの前で広げて見せた。
「どれがいい? フリルいっぱいのスカートに、胸元の開いた体のラインが丸見えな服、メイド服に、白衣に……」
「何故そんなものを持っている」
「イオの趣味だ」
あっさりとしたレオンのそんな言葉に、じーとカノンはイオを見て溜息をついた。
「そんな格好で踊り子は踊るものなの?」
「ううん、踊り子をやっていてファンの人から、こんな服がありますってプレゼントされたの」
「……深くは追求しないけれど、本当にどれにしよう」
「カノンちゃんはどれを着ても似合うと思うよ、そうでしょ、レオン」
「うむ」
うむじゃないだろ!、とカノンは思ったが、似合うと言われたのは……嬉しくない、嬉しくないから、全然、嬉しくないから。
でも、どんな服でもいいのならとカノンは考えて、
「じゃあ露出度多目のものがいいかな?」
その途端、レオンとイオが黙った。
カノンはまた自分が変な事を口走ったのだろうかと不安に思う。
とても冷たくて痛い沈黙の後、レオンが重々しく口を開いた。
「……カノン、ごめん、俺が悪かったから、露出を控えよう」
「でも露出をしないと、男の妄想をわざと誘っていて、一見清楚に見えるのに卑猥さを垂れ流しているような姿になるんでしょう?」
「……誰に聞いた」
「え、僧侶のイータに」
「そうか、カノン、それは嘘だからな?」
隣でイオがうんうんと頷いているので、多分正しい。
そこで、熱弁するようにレオンが続けた。
「本当にエロくないのは隠されつつ体のラインが見えている事だから!」
「つまりその姿はエロいってことだね。ありがとうレオン。君の犠牲は無駄にはしない」
一体どれだけレオンの事を見ていると思っているんだ、レオンがそんな事を考えているなんてお見通しさとカノンは思う。
ちなみにイオはにまにまと、カノンとレオンを見ていた。
そして、何故ばれたとむせび泣くレオンを尻目に、ふりふりのロングスカートのワンピースを選ぶ。
黒と白の服で頭にリボンのいっぱい付いた布と猫耳をつけるらしい。面白い服だ。
そして、カノンはプチプチとボタンをはずして服を脱いでいく。
白くきめ細かい大理石のような肌が、臆面もなく晒されっようとした所で、レオンが部屋から出て行った。
「? レオン、どうしたんだろう」
「カノンちゃん、いつもレオンがカノンちゃんが着替える時部屋から出て行ったの知っている?」
「そういえば……でも男同士なのに?」
「白い肌が朱色に染まる所とか想像しちゃうからじゃない?」
「? 意味が分からないよ」
「そんなカノンちゃんも可愛いけれど、早くそれ着てレオンに見せてあげなよ。きっと喜ぶよ?」
「そ、そうかな」
そうそうと促して服を着せる。
胸に詰め物をするか考えて、貧乳はそれはそれでアリだと気付いて、イオはあえて提案しなかった。
そして綺麗に仕上がったカノンはそれはそれはもう。
「レオン、入ってきなよ。カノンちゃん凄くいいよ」
「本当か!」
勢いよく部屋のドアを開けて、レオンは絶句したようだった。
開いた状態で少し立ち止まって、じっと無表情にカノンを見つめる。
その視線が何処か気恥ずかしくて、顔を赤らめてカノンは俯いた。
すると無言でレオンはカノンの目の前にやってくる。
その威圧感がいつもと違う事に気付いて、カノンはレオンを見上げた。
「レ、レオン?」
その声を合図に、いきなりレオンはカノンの服を脱がし始めた。
突然のレオンの行動にカノンは固まるも、すぐに抵抗する。
やめてと暴れるたびに、長いスカートがめくれ上がり、カノンの白い生足が太ももまで露になる。
けれどレオンはそんなカノンの抗議が耳に入らないかのように、黙々とフリルのついた服を脱がす。
何処かいけないような気分になりながらカノンは、レオンの体を押しのけようとするもびくともしない。
着々と黙って、レオンはカノンの服を一枚、また一枚とはいでいく。
カノンの白い肩が、興奮しているせいか少し赤みを帯びていた。
そんなカノンにレオンは終始無言のまま、ズボン以外、いつもの服に着せ替えさせた。
「レオン、酷いよ。せっかく着たのに」
「俺がやる」
「え?」
「俺が女装する」
どうしてレオンがそんな事を言うのかカノンは分からない。
戸惑うカノンの様子を見ながら、レオンがどういった心中なのか察して、イオは一人面白そうににまにましていたのだった。
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