↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/15

政治家は自ら剣を握らない

「なのに何で剣を握ってるんだ」


ボルトの表情が固まった。


テルンが立ち上がった。


バルクの手も剣の柄へ向かった。


カイルは動かなかった。


言葉も発しなかった。


今は。


口を開く時ではなかった。


「離せ」


バルクが言った。


ボルトが目を細めた。


「何を」


「剣から手を離せって言ってんだよ」


「お前から離せ」


バルクの顔が歪んだ。


「何?」


ボルトは手を離さなかった。


「お前も握ってるだろ」


「俺はお前が剣を握ったから――」


「俺はお前が立ち上がって剣に触れたから握ったんだよ」


二人の視線がぶつかった。


カイルは内心思った。


(これだから疑いは怖いんだ)


誰が先だったかは重要ではなかった。


二人とも。


相手が先だったと思っている。


「何をしている」


低い声が聞こえた。


小屋の戸口。


ドルマンが立っていた。


周りにいた盗賊たちも一人二人と体を起こした。


バルクが先に剣の柄から手を離した。


ボルトも少し迷ってから短剣から手を離した。


そもそも二人とも武器を抜いてはいなかった。


それでも。


さっきまでと雰囲気は完全に変わっていた。


ドルマンが二人を交互に見た。


「夜中に何をしてるんだ」


バルクが答えた。


「何でもありません」


ドルマンの視線がボルトに向いた。


「お前は?」


「……大したことじゃありません」


「大したことじゃない奴らの顔がなんでそんな顔なんだ」


誰も答えなかった。


ドルマンが苛立たしげに言った。


「寝るなら寝ろ」


そして背を向けようとした。


このまま終わる。


カイルは目を細めた。


バルクとボルトの間には疑いが生まれた。


テルンも不安がっている。


だが。


それだけでは足りなかった。


朝が来れば自分は再び使い道のない捕虜になる。


ドルマンに渡せるラベルンの情報は多くない。


使い道がないと分かれば。


結局殺される。


今動かなければならなかった。


カイルが口を開いた。


「よかったですね」


ドルマンが止まった。


バルクの顔が固まった。


「この野郎、また」


ドルマンがカイルを見た。


「何がよかったんだ」


「ドルマンさんが直接出てきてくれましたから」


「兄貴の名前をむやみに呼ぶなと言ったろ!」


バルクがカイルの方に体を向けた。


ドルマンが手を上げた。


「動くな」


「ですが兄貴」


「俺が聞いてるんだ」


バルクが歯を食いしばった。


ドルマンの視線が再びカイルに向いた。


「言え」


カイルは少し沈黙した。


そして言った。


「確認すれば終わることではありませんか」


ボルトの表情が固まった。


テルンもカイルを見た。


ドルマンが聞いた。


「何を確認するんだ」


カイルは答えなかった。


代わりにボルトを見た。


ボルトの顔が歪んだ。


言いたくないだろう。


証拠がないからだ。


ドルマンはバルクを5年も連れていた。


うかつに疑いを口にすれば自分だけが危険になるかもしれない。


カイルが言った。


「やはりこのまま流した方がいいですか」


ボルトがカイルを睨んだ。


「お前」


「はい」


「黙れ」


カイルは素直に口をつぐんだ。


そして。


待った。


ボルトがバルクを見た。


バルクもボルトを睨んだ。


しばらくして。


ボルトが先に口を開いた。


「前回の商団のことです」


バルクの表情が変わった。


ドルマンが聞いた。


「商団がどうした」


「あの時持ってきた穀物のことです」


「8袋」


ドルマンはすぐに記憶していた。


ボルトが少し迷った。


「それが……本当に8袋だったのか確認したいです」


静寂。


バルクがボルトに大股で近づいた。


「お前、今何て言った?」


「確認しようって」


「俺を疑ってるのか」


「確認すれば終わるだろ」


「この野郎が」


「何だよ」


ボルトも引かなかった。


「痛いところでもあるのか」


バルクの拳が先に動いた。


バン!


ボルトの顔が振れた。


「バルク!」


ドルマンの怒声が響いた。


だが遅かった。


ボルトがよろけながら顔を上げた。


口元を手の甲でぬぐった。


血がついた。


「この野郎」


ボルトが飛びかかった。


バン!


今度はボルトの拳がバルクの顎に決まった。


バルクが後ろに押された。


「やめろ!」


テルンが二人の間に飛び込んだ。


バルクの腕を掴んだ。


「離せ!」


「やめろって言ってんだよ!」


「これを離さないのか?」


バルクが腕を荒々しく振り払った。


テルンが一歩押し出された。


バルクがテルンを睨んだ。


「お前もあいつの味方か?」


テルンの表情が固まった。


「何?」


「さっきから二人でくっついてたじゃないか」


「それはただ――」


「お前も俺を疑ってたじゃないか!」


テルンが止まった。


カイルの目つきが変わった。


(今だ)


バルクが自分から言った。


お前も自分を疑っていたと。


カイルがテルンに植えつけていた疑い。


バルクはすでにお前たちが自分を疑っていることを知っている。


それまでは確認されていない言葉だった。


だが今。


バルク自身の口で証明してしまった。


テルンの顔から血の気が少し引いた。


「……知ってたのか?」


バルクが眉をひそめた。


「何を」


「俺が疑ってたこと」


「今それが重要か?」


バルクが一歩近づいた。


テルンが反射的に後退った。


「なんで避けるんだ」


「……」


「何か痛いところでもあるのか」


テルンは答えなかった。


カイルはその顔を見つめた。


テルンは今。


自分が言った言葉を思い出しているはずだ。


ドルマンが確認する前に。


バルクがこの話を終わらせようとするかもしれない。


カイルにもそれが事実かは分からなかった。


だが。


さっきまで推測だった言葉が一つ、事実になった。


そうなれば残りも事実のように聞こえ始める。


バルクが再び近づいた。


「答えろ」


テルンがまた一歩後退った。


「来るな」


バルクが立ち止まった。


「何?」


「そこで話せ」


「お前まで何なんだ」


バルクがテルンの肩を掴もうと手を伸ばした。


テルンがびくりと後ろに下がった。


「触るな!」


「この野郎、本当に!」


「やめろ!」


ドルマンの怒声が広場に響いた。


三人とも止まった。


ドルマンはバルクを睨んだ。


「やめろと言ったんだ」


「兄貴。こいつらが今――」


「黙れ」


バルクの口が閉じた。


ドルマンはボルトを見た。


「お前」


「はい」


「バルクが物を抜いたという証拠はあるのか」


ボルトが口をつぐんだ。


「ありません」


「なのになんでそんなに騒ぐんだ」


「確認したいと言いました」


「何を」


「前回の商団から持ってきた物をです」


ドルマンの表情が固まった。


ボルトが言った。


「バルクは穀物が8袋だったと言いました」


「そうだ」


「ですが馬車の大きさを考えると……もっとあったような気がして」


バルクが怒鳴った。


「それはお前の考えだろ!」


ドルマンが振り返った。


「バルク」


「はい」


「もう一度口を挟んだら本当に殴るぞ」


バルクが歯を食いしばった。


ドルマンが周りを見回した。


「あの日一緒に行った奴は誰だ」


盗賊の一人がゆっくりと手を挙げた。


「俺とケドが行きました」


「ケドは?」


「寝ています」


「起こせ」


近くにいた盗賊がテントの方へ走った。


ドルマンが残った男を見た。


「あの日、穀物は何袋あった」


男がバルクをちらりと見た。


ドルマンの目つきが冷たくなった。


「なんでバルクを見るんだ」


「いえ」


「俺を見て話せ」


男が唾を飲んだ。


「正確には……分かりません」


「何?」


「馬車の後ろにもいくつかあったような気がしますが」


バルクが我慢できずに言った。


「それは持ってこられなかったんだよ!」


一瞬。


静かになった。


バルクも自分が何を言ったのか気づいた。


ドルマンがゆっくりと彼を見た。


「持ってこられなかった?」


「兄貴、それは――」


「後ろにもっとあったことは知ってたんだな」


「あったのは本当ですが、見張りが追ってきて持ってこられなかったんです」


ドルマンが聞いた。


「それで持ってきたのはいくつだ」


「8個です」


「誰が数えた」


バルクが少し止まった。


「私です」


ボルトが短く笑った。


「見ろよ」


バルクが振り向いた。


「何を見るんだ!」


「お前が数えたんだろ」


「それで?」


「いつもお前が数えて」


ボルトが一歩近づいた。


「いつもお前が兄貴に報告して」


「それで何だ!」


「倉庫にもお前が先に入れるだろ」


バルクの顔が赤くなった。


「それが俺の仕事だからだ!」


「だから確認しようって言ってるんだよ!」


周りの盗賊たちの視線が少しずつ変わった。


カイルはその変化を見守った。


最初はボルトとテルンだけだった。


今は違う。


他の者たちも考え始めていた。


前回受け取った取り分。


その前の襲撃。


売り払った物。


少なかった食糧。


一人が用心深く言った。


「そういえば……」


バルクがぱっと振り向いた。


「何だ」


男が口をつぐんだ。


別の盗賊が聞いた。


「何なんだ」


「いや」


「言ってみろ」


「大したことじゃないって」


ドルマンが言った。


「言え」


男がためらってから口を開いた。


「先月、毛皮を売った時のことです」


「それがどうした」


「金が……思ったより少なかった気がして」


バルクが呆れたように笑った。


「頭のおかしい奴らが揃って何言ってんだ?」


カイルは何も言わなかった。


もう自分が口を挟む必要はなかった。


事実かどうかも分からない。


毛皮の値が本当に安かったのかもしれない。


ただ相場が悪かっただけかもしれない。


バルクが抜いたのかもしれない。


そうでないかもしれない。


だが。


疑い始めた人間は自分の記憶から疑う根拠を見つけ出す。


一人が疑えば愚痴だ。


二人が疑えば揉め事だ。


三人が疑えば。


問題になる。


ドルマンがバルクを見た。


「お前の荷物、どこにある」


バルクの顔が固まった。


「兄貴」


「どこにあるかと聞いてる」


「私を疑っているんですか」


「確認しようってことだ」


カイルの口角がほんの少し上がった。


自分が言った言葉だった。


隠しているものがないなら。


確認するのが怖い理由もない。


バルクが言った。


「私の荷物を探って何が出るんですか」


「それは探ってみれば分かるだろ」


「兄貴」


「持ってこい」


バルクは動かなかった。


ドルマンの声が低くなった。


「バルク」


「……」


「俺が直接持ってこようか」


バルクが周りを見回した。


ドルマン。


ボルト。


テルン。


他の盗賊たち。


そして。


木に縛られたカイル。


バルクの視線が止まった。


カイルに。


目つきが変わった。


カイルは即座に気づいた。


(俺に向けるつもりか)


「全部」


バルクがつぶやいた。


「あの野郎のせいだ」


バルクがカイルを指差した。


「あの野郎が来る前は何の問題もなかった!」


ドルマンが言った。


「バルク」


「あの野郎が変なことを言うから皆――」


「お前の荷物を持ってこいと言ったんだ」


バルクが歯を食いしばった。


「兄貴は俺よりあの野郎の言葉を信じるんですか」


「話をそらすな」


バルクの顔が歪んだ。


カイルはその様子を見た。


追い詰められた。


荷物を持ってくるか。


拒否するか。


だが。


バルクは別の選択をした。


手が腰に下がった。


剣の柄を握った。


ドルマンの目つきが変わった。


「バルク」


シュッ。


剣が抜かれた。


「あの野郎から先に殺せばいいんです」


カイルの顔から笑みが消えた。


(これは想定より早い)


バルクがカイルに飛びかかった。


「バルク!」


ドルマンが叫んだ。


だがバルクは止まらなかった。


カイルは木に縛られていた。


逃げられない。


筋力7。


剣術F。


相手はLv.11。


戦えば死ぬ。


バルクが剣を振り上げた。


その瞬間。


バン!


ボルトが横からバルクにぶつかった。


二人が地面に転がった。


バルクの剣が土の上に落ちた。


ボルトがバルクの体を押さえつけた。


「気が狂ったのか!」


バルクが肘でボルトの顔を打った。


バン!


ボルトが横に倒れた。


バルクが体を起こした。


落ちた剣に手を伸ばした。


それより先に。


テルンが剣を拾った。


バルクが止まった。


「テルン」


テルンの手が震えていた。


「来るな」


「剣を渡せ」


「来るなって言ってんだよ」


「それは俺のだ」


バルクが一歩近づいた。


テルンは剣を両手で握りしめた。


「来るな!」


バルクの顔が歪んだ。


「お前、今俺に剣を向けてるのか?」


テルンは答えなかった。


カイルはテルンの顔を見た。


恐怖。


怒りではない。


バルクを殺したいわけでもない。


怖いのだ。


カイルがテルンに植えつけた言葉。


バルクはお前たちが自分を疑っていることを知っている。


そして。


口を封じようとするかもしれない。


さっき。


バルクは実際にカイルを殺そうと剣を抜いた。


テルンにはそれで十分だった。


ドルマンが前に出た。


「テルン」


テルンの体がびくりとした。


「剣を下ろせ」


テルン → ドルマン


【恐怖】


カイルは知っていた。


ドルマンが命令すれば。


テルンは抗いにくい。


その瞬間。


バルクがテルンに手を伸ばした。


「渡せって言ってんだよ!」


テルンがはっと剣を振った。


バルクが急いで後ろに下がった。


刃先が服の裾をかすった。


バルクの顔が変わった。


「この野郎が!」


ボルトが体を起こした。


口元から血が流れていた。


シュッ。


ボルトが腰から短剣を抜いた。


「バルク」


バルクが振り返った。


ボルトの短剣が自分に向いていた。


「動くな」


バルクが呆れたように笑った。


「お前ら二人とも気が狂ったな」


テルンは依然として剣を握ったまま震えていた。


ボルトは引かなかった。


ドルマンの顔が険しく固まった。


周りの他の盗賊たちも互いに顔色を窺い始めた。


カイルはその光景を見つめた。


自分は何も持っていなかった。


なのに。


自分を殺そうとしたバルクの剣はテルンの手にあった。


ボルトの短剣はバルクに向けられていた。


ドルマンが叫んだ。


「全員武器を下ろせ!」


誰も即座には動かなかった。


その短い躊躇。


それだけでもすでに以前とは違っていた。


ドルマンの命令一つで動いていた者たちが。


互いの顔を見ていた。


誰が先に武器を下ろすか。


下ろした時、相手も下ろすのか。


バルクが言った。


「兄貴」


ドルマンが彼を睨んだ。


「黙れ」


「あの野郎が俺たちの仲を裂いたんです」


バルクがカイルを指した。


「あいつを殺せば全部終わります」


ボルトが冷笑した。


「なんでそんなにあいつを殺そうとするんだ」


「何?」


「口を封じるためか?」


バルクの顔が固まった。


カイルはボルトを見た。


自分が植えつけた疑い。


今度は。


ボルト自身の口から出た。


バルクが怒鳴った。


「俺が何を隠したって言うんだ!」


「じゃあ荷物見せろよ!」


「なんで俺がお前に見せるんだ!」


「兄貴が見せろって言ったろ!」


「お前は引っ込んでろ!」


「なんでだよ!」


声が大きくなった。


盗賊の一人がボルトの方に動いた。


もう一人はバルクの方を見た。


誰が誰の味方かも定かではなかった。


ドルマンが罵声を吐いた。


「全員黙れ!」


だが。


今回はすぐには静かにならなかった。


バルクが後ろに下がった。


ボルトがその動きを追った。


テルンは二人の間で剣を放せなかった。


他の盗賊たちも各自武器に手をかけた。


カイルはその様子を見ながら。


ゆっくりと手首を動かした。


テルンが食事を持ってきた時。


緩めた縄を再び結んだ。


だが最初より緩かった。


カイルはそれを知っていた。


その時は動かなかった。


逃げてもすぐに捕まるだけだったから。


今は違った。


カイルは手をよじった。


縄が皮膚をこすった。


痛かった。


もう一度。


指を丸めた。


手首を回した。


うまく抜けなかった。


(頼む)


もう一度。


皮膚がすれた。


歯を食いしばった。


そして。


スポッ。


右手が抜けた。


カイルは息を止めた。


誰も見ていなかった。


ドルマンとバルク、ボルトの声がまた大きくなっていた。


周りの盗賊たちの視線もそちらに集まっていた。


カイルはその隙に木の裏へ体を移した。


一歩。


二歩。


そして。


目が合った。


テルンだった。


カイルの体が固まった。


テルンの視線が緩んだ縄に落ちた。


再びカイルに上がった。


叫べば終わりだ。


カイルは動かなかった。


テルンも動かなかった。


一瞬。


とても短い沈黙。


テルンの目がカイルの右側に動いた。


森の中。


そして再びカイルを見た。


唇がほとんど動かなかった。


「右」


それだけだった。


「テルン!」


ドルマンが呼んだ。


テルンが即座に顔を向けた。


「はい!」


そしてカイルから視線を外した。


捕まえにも来なかった。


叫びもしなかった。


カイルは理解した。


右。


そちらへ行けという意味だ。


なぜ教えてくれるのかは問わなかった。


今は理由を問う時ではなかった。


カイルは木の後ろに身を隠した。


そして。


駆けた。


後ろで誰かが叫んだ。


「バルクを捕まえろ!」


カイルは振り返らなかった。


右。


テルンが教えてくれた方向へ。


ただ走った。


*


どれくらい走ったか分からなかった。


木の枝が顔をこすった。


何度も石に足を取られた。


息が喉元まで詰まった。


Lv.1。


体力8。


体は正直だった。


「はあ……はっ……」


後ろから聞こえていた叫び声もいつしか消えた。


それでも止まらなかった。


右へ。


ずっと。


そのうち木々の間にかすかな道が見えた。


カイルはほとんど倒れ込むように森から抜け出した。


人が通う道だった。


どこへ続くのかは分からなかった。


だが少なくとも。


森の中を迷うよりはよかった。


カイルはしばらく周りを見回した。


遠くに見覚えのある地形が見えた。


ラベルンの近くで見た低い丘。


方向がつかめた。


カイルは道端に座り込んだ。


「はあ……」


手首を見た。


血がにじんでいた。


顔も痛かった。


胃のあたりも依然としてズキズキした。


腹も減っていた。


全身がぐちゃぐちゃだった。


だが。


生きていた。


カイルはしばらく息を整えるだけだった。


そしてゆっくりと後ろを振り返った。


黒い森。


誰も追ってこなかった。


そこでようやく笑いが出た。


「まったく」


本当に死ぬところだった。


何度も。


バルクが剣を抜いた時は本当に終わりだと思った。


自分に防ぐ方法はなかった。


筋力7。


剣術F。


Lv.1。


バルクと戦えば負ける。


ボルトと戦っても負ける。


テルンと戦っても負ける。


ドルマンは言うまでもない。


なのに。


生き延びた。


カイルは血のついた手首を見つめた。


自分は剣を一度も握らなかった。


バルクが自分に剣を向けた。


ボルトがバルクに短剣を向けた。


テルンがバルクの剣を拾い上げた。


ドルマンは自分の部下を疑い始めた。


その始まりは。


数言葉だった。


正確には。


人々の間にすでにあった不満だった。


カイルはそれを作らなかった。


もともとあった。


自分は見つけただけだ。


そして。


少し育てた。


事実より一歩先を行く嘘を混ぜて。


カイルはゆっくりと体を起こした。


足がふらついた。


前世でも似たようなことを数え切れないほどしてきた。


人を見て。


望むものを見つけ。


嫌うものを見つけ。


誰を信じていないかを見抜く。


そして必要な瞬間に。


少し押してやる。


最後の選択は。


彼ら自身にさせる。


韓再国が一生やってきたことだった。


そして今日。


カイル・ベルトランの命を救った。


カイルはラベルンのある方向へ足を進めた。


政治力99は力ではなかった。


少なくとも。


まだは。


だが使い道はあった。


それも。


思ったよりずっと多く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。