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10/15

俺が剣を握る必要はないだろう

(まだましだな)


話の通じる連中だった。


問題は。


話す機会をくれるかだった。


「早く歩け」


背後から押された。


カイルはよろめきながら前へ歩いた。


手は後ろで縛られていた。


粗い縄が手首に食い込んだ。


前にはバルク。


後ろに二人。


逃げる方法はなかった。


カイルは静かに周りを観察した。


道はだんだん森の奥へ入っていった。


日が傾くにつれ木々の間もどんどん暗くなっていった。


ラベルンからはずっと離れていった。


(ヘルンが待ってるだろうな)


日が暮れる前に戻ると言った。


実際は約束というより一方的な命令に近かったが。


今はそれどころではなかった。


このままでは本当に戻れなくなるかもしれない。


カイルは前を歩くバルクを見た。


そしてその後ろに続く二人の男を順に観察した。


さっき自分のポケットを探っていた痩せた男。


そして棍棒で後頭部を殴った大柄な男。


カイルは痩せた男に集中した。


【観察】


【テルン】


種族 : 人間


年齢 : 29


職業 : 盗賊


Lv.8


筋力 : 16


体力 : 15


敏捷 : 18


感覚 : 17


魔力 : 2


状態 : 不安 / 疲労


次は大柄な男。


【ボルト】


種族 : 人間


年齢 : 34


職業 : 盗賊


Lv.9


筋力 : 23


体力 : 22


敏捷 : 14


感覚 : 13


魔力 : 1


状態 : 苛立ち / 空腹


カイルは目を細めた。


バルク。


興奮 / 警戒。


テルン。


不安 / 疲労。


ボルト。


苛立ち / 空腹。


それだけだった。


なぜ不安なのか。


何のせいで苛立っているのか。


誰を警戒しているのか。


何も出てこない。


(役に立たなくはないが)


カイルは内心つぶやいた。


(中途半端に役に立たない)


政治力99。


観察Lv.1。


最初に見た時はすごい何かがあると思った。


だが現実は違った。


森でゴブリンに出会った時も。


ブランに殴られた時も。


ステータス画面は自分を救ってくれなかった。


結局生き延びるには直接見て。


直接考えなければならなかった。


カイルは歩き続けた。


***


「ところで」


カイルが口を開いた。


バルクが振り返りもせず言った。


「黙れ」


「まだ何も言ってません」


「言いそうだから」


カイルはしばらく口をつぐんだ。


ボルトがクスクス笑った。


「あの野郎、さっきから口だけは達者だな」


カイルは笑わなかった。


「気になることがあって」


バルクが今度は振り返った。


「黙れと言っただろう」


「金もない奴を何で連れて行くのか気になりまして」


バルクの足が一瞬遅くなった。


「知らなくていい」


「売り飛ばすんですか」


答えはなかった。


カイルは三人の顔を観察した。


テルンが視線を逸らした。


ボルトは特に反応がなかった。


バルクだけが言った。


「喋り続けるなら舌から切り落とすぞ」


(売り飛ばすんじゃないのか)


カイルは口をつぐんだ。


答えないのも情報だ。


もう少し歩いた。


今度はボルトが先に愚痴った。


「にしても、あんな一文無しを何で連れて行くんだ?」


バルクが振り返った。


「何?」


「何も持ってないだろ」


「それで?」


「食わせる口が一つ増えるだけじゃねえか」


「それは兄貴が判断することだ」


兄貴。


カイルはその単語を記憶した。


さっきボルトとテルンはバルクを頭と呼んでいた。


だがバルクにも上がいる。


(中間責任者)


組織があるということだ。


ボルトが舌打ちした。


「また兄貴かよ」


バルクの足が止まった。


「何だと?」


ボルトがすぐに視線を逸らした。


「いや。ただそう思っただけで」


「不満か?」


「ない」


「なら黙って歩け」


ボルトの顎がぴくりと動いた。


だがそれ以上は言わなかった。


カイルはその様子を静かに見つめた。


(一つ)


とても小さかった。


まだ理由もわからない。


使えるかもわからない。


だが確かにあった。


不満。


その時テルンが小さく言った。


「日が沈む」


バルクが再び歩き始めた。


「すぐだ」


カイルもついていった。


そして内心思った。


(三人だけでもう既にこれか)


盗賊団全体が仲良しである可能性はさらに低かった。


***


森の中に小さな空き地が現れたのは、日がほとんど沈みかけた頃だった。


最初は放置された狩人の小屋かと思った。


だが近づくほど人が見えた。


二人。


三人。


四人。


カイルの表情が強張った。


(多いな)


空き地には古びたテント3張り。


真ん中には焚き火。


一角には木箱が積まれていた。


馬も2頭繋がれていた。


そして人々。


カイルは素早く数えた。


自分を連れてきた3人を除いて6人。


計9人。


小屋の中にもっといるかもしれなかった。


バルクが叫んだ。


「兄貴!」


焚き火のそばに座っていた男が顔を上げた。


大柄な体格だった。


ひげの間から左頬を横切る傷跡が見えた。


腰には他の盗賊たちより長い剣が下がっていた。


カイルはすぐに集中した。


【観察】


【ドルマン】


種族 : 人間


年齢 : 44


職業 : 盗賊頭


Lv.17


筋力 : 31


体力 : 29


敏捷 : 21


感覚 : 23


魔力 : 4


状態 : 不快 / 警戒


カイルは内心悪態をついた。


(17)


自分はまだLv.1だった。


レベル差はなんと16。


筋力は自分が7で。


あの男は31。


数字だけ見ても戦うという選択肢は存在しなかった。


(あれはまともに食らったら死ぬな)


カイルはドルマンの剣から静かに視線を外した。


ドルマンが立ち上がった。


「何だ」


バルクがカイルを前に押し出した。


「村から出てくるところを捕まえました」


ドルマンはカイルを上から下まで眺めた。


「金は?」


バルクが一瞬口をつぐんだ。


「ありません」


ドルマンの眉がぴくりと動いた。


「荷物は?」


「ありません」


「馬は?」


「ありません」


「武器は?」


「ありません」


沈黙。


ドルマンがバルクを見た。


「じゃあなんで連れてきた」


ボルトが頭を下げた。


肩がかすかに震えた。


笑いを堪えているようだった。


バルクの顔が赤くなった。


「余所者っぽかったので」


「それで?」


「何かあると思いまして」


ドルマンがカイルを再び見た。


カイルは最大限おとなしい表情を作った。


ドルマンが尋ねた。


「本当に何もないのか」


カイルが答えた。


「その件については俺もかなり遺憾に思っています」


ボルトがついに笑いを爆発させた。


「ぷっ」


ドルマンの視線が動いた。


ボルトはすぐに口をつぐんだ。


バルクがカイルの背中を押した。


「黙れ」


カイルは前によろめいた。


ドルマンがため息をついた。


「最近食い物も足りないのに使えない奴まで拾ってきたのか」


カイルの耳が動いた。


食べ物が足りない。


ボルトの状態。


【空腹】


さっき市場で聞いた話も思い浮かんだ。


最近物価が上がっている。


カルセンから入ってくる物量が減っているという話もあった。


カイルはその情報を頭に入れた。


まだ繋げてはいない。


わからないことを無理につなげると判断を誤る。


ドルマンが手を振った。


「調べたのか」


「はい」


「本当にないんだな」


「はい」


ドルマンは面倒くさそうに言った。


「じゃあ処理しろ」


カイルは目を瞬かせた。


処理。


その言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった。


バルクが答えた。


「はい」


カイルのうなじが冷たくなった。


***


「こっちに来い」


バルクがカイルの腕を掴んだ。


空き地の端。


森が始まる場所だった。


カイルは引きずられた。


ボルトもついてきた。


テルンはしばらく躊躇ってから後を追った。


カイルが尋ねた。


「処理するというのは」


バルクが剣を抜いた。


スラッ。


「お前が考えてる通りだ」


カイルは刃を見つめた。


喉が渇いた。


ゴブリンの時とは違った。


あの時は逃げる空間だけはあった。


今は手さえ縛られている。


カイルが言った。


「殺す必要までありますか」


バルクが笑った。


「なんでない?」


「俺を解放してくれれば、そのまま帰ります」


「それで衛兵隊連れてくるのか」


「連れてきません」


「それを信じろと?」


「信じなくて結構です」


カイルはできる限り声を落ち着けた。


「それなら別の取引をしましょう」


バルクが笑った。


「取引?」


「はい」


「お前に何があるんだよ」


「情報」


バルクの笑いが少し引いた。


「何の情報だ」


カイルはすぐには答えなかった。


正確には。


答えられる情報がなかった。


今必要なのは時間を稼ぐことだ。


質問させなければならない。


気にさせれば。


数秒でも長く生きられる。


「ラベルンに関する情報です」


バルクがカイルの襟首を掴んだ。


「ふざけてるのか」


「今日一日中村を歩き回りました」


それは事実だ。


「衛兵隊も見ました」


事実。


「傭兵団も見ました」


事実。


「村長の家に出入りする人間も見ました」


これも事実。


バルクの目つきがほんの少し変わった。


カイルはそれを見逃さなかった。


嘘はまだついていない。


事実を先に積み重ねる。


そうすれば後で嘘を一つ混ぜても見分けにくくなる。


「それで?」


「ラベルンに関心があるなら役に立つはずです」


今度は断定しなかった。


バルクがカイルを見つめた。


「何の役に立つんだ」


「衛兵隊がどこにいるか」


カイルはゆっくりと言った。


「傭兵団と衛兵隊の仲が良くないことも知っています」


ボルトがカイルを見た。


テルンの目も動いた。


バルクが尋ねた。


「それがどうした」


「それをどう利用するかは俺じゃなくあなたたちが判断することでしょう」


しばらく沈黙。


カイルは内心時間を数えた。


一。


二。


三。


バルクが鼻で笑った。


「大したことないな」


「大したことかどうかは―」


「もういい」


バルクが剣を持ち上げた。


(くそっ)


失敗した。


カイルの心臓が速くなった。


刃が焚き火の光を受けて光った。


逃げられない。


戦うこともできない。


言葉で時間を稼いだが、それすら尽きかけていた。


カイルの視線がバルクを通り越してボルトとテルンに向かった。


さっきからずっと引っかかっていた。


ボルトがバルクに見せた苛立ち。


テルンが時々逸らした視線。


ドルマンの前ではバルクだけが報告した。


ボルトはその様子を鼻で笑った。


バルクが命令すれば二人は従った。


だが表情まで従うわけではなかった。


(あの三人は一枚岩じゃない)


同じ盗賊団だ。


一緒に動く。


同じ命令に従う。


だからといって同じ気持ちである必要はない。


黒田総一郎はそういう人間をいくらでも見てきた。


同じ党。


同じ派閥。


同じ候補の選挙陣営。


写真を撮る時は肩を組んで笑う。


会議が終われば互いの椅子を狙う。


面と向かっては兄貴と呼び。


背中では次いつ蹴落とすか計算する。


重要なのは個人だけではなかった。


人と人の間だった。


カイルはボルトを見た。


そしてテルンを見た。


(二人はあいつをどう思ってる?)


その瞬間。


視界の片隅が揺れた。


【観察経験が一定の水準に到達しました】


【観察対象間の関係を認識し始めます】


【新しい情報項目が有効化されます】


【関係感知】


カイルの目が見開かれた。


(……何?)


説明を読んでいる時間はなかった。


バルクの剣がすぐ目の前にあった。


カイルは本能的に三人に集中した。


すると。


かすかな文字が浮かんだ。


バルク → ドルマン


【忠誠】


ボルト → バルク


【不満】


テルン → バルク


【不満】


カイルの視線が止まった。


(不満)


両方とも。


だがそれだけだった。


なぜ不満なのか。


どれほど大きい不満なのか。


裏切るほどなのか。


何も出てこない。


金のせいか。


待遇のせいか。


古い恨みか。


それともさっきあったことのせいか。


システムは教えてくれなかった。


カイルは内心悪態をついた。


(開放するなら理由まで見せろよ)


だがすぐに考え直した。


いや。


これで十分だ。


どこを突けばいいかはわかった。


なぜ痛いかは。


自分で調べればいい。


バルクが剣を再び構えた。


「これで本当に終わりだ」


カイルの頭が高速で回転した。


バルクはドルマンに忠誠を誓っている。


ならば今バルクを揺さぶるのは難しい。


ボルトとテルンはバルクに不満がある。


揺さぶるならこっちだ。


だが理由がわからない。


下手に突けば終わりだ。


剣が動いた。


カイルが言った。


「二人とも」


バルクの手が止まった。


「何?」


カイルはバルクを見なかった。


その後ろにいるボルトとテルンを見つめた。


「さっきから気になってたんですが」


ボルトが眉をひそめた。


「何が」


カイルがゆっくりと言った。


「なぜあなたたちが捕まえた相手なのに」


視線がバルクに向いた。


「あの人だけが頭に報告するんですか」


バルクの表情が変わった。


ボルトも。


テルンも。


ほんの少し。


カイルはその反応を見逃さなかった。


(当たった)


何かがある。


まだ正確にはわからない。


だが突いた場所は合っていた。


バルクがカイルの襟首を掴んだ。


「何のたわ言だ?」


カイルはその手を見下ろした。


「間違ってますか」


「黙れ」


「俺の見間違いだったようですね」


カイルはわざと言葉を遅らせた。


「三人で一緒に捕まえたのに」


ボルトを見た。


「口を利くのはあの人だけで」


テルンを見た。


「決めるのもあの人だけで」


そして再びバルクを見た。


「褒められるのもあの人だけみたいなので」


「黙れと言っただろう」


バルクが剣を持ち上げた。


今度は本当に刺すつもりだった。


カイルもわかっていた。


これ以上話せば危険だ。


いや。


すでに危険だ。


だが黙れば死ぬ。


だとすれば。


話さなければならない。


カイルはボルトを見つめた。


「あなた」


ボルトの表情が強張った。


「何だよ」


カイルがゆっくりと言った。


「あの人にかなり不満がありそうですが」


森が静まり返った。


ボルトの目が見開かれた。


テルンがボルトを見た。


そして。


バルクがゆっくりと顔を向けた。


カイルはその様子を見ながら思った。


(そうだ)


剣はあいつらが持っている。


だとすれば。


俺が剣を握る必要はなかった。

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