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第8章:王国の南北分裂と連邦制の試み

ソロモン王の崩御に伴い、栄華を極めたイスラエル王国は未曾有の国難に直面していた。光の書物が映し出したのは、ソロモンの子レハブアムが王位を継承した、シケムでの民衆総会の幻影であった。元の聖書において、地方の部族を率いるヤロブアムらは、新王レハブアムに対し、先王が課した過酷な強制労働と重税の軽減を嘆願する。しかし、若きレハブアムは老臣たちの慎重論を退け、血気盛んな若者たちの進言を容れた。彼は民に向かって「父は鞭で汝らを打ったが、私は蠍で汝らを打つ」と言い放ち、民の怒りを爆発させる。結果として、北の十部族は離反し、国は南のユダ王国と北のイスラエル王国へと無残に引き裂かれた。これが、神の計画に基づく王国の南北分裂の全貌であった。「愚かな。あまりにも愚かな若造だ」織田信長は、傲慢な態度で民を恫喝するレハブアムの幻影を睨みつけ、激しい嫌悪感を露わにした。「民の不満が最高潮に達している時に、力で抑え込もうとするなど、統治者の資格すらないわ。余が長島の一向一揆や比叡山を討ったのは、彼らが天下静謐の法を拒む明確な敵であったからだ。自らの賦課に喘ぐ良民の声を聴きもせず、ただ威圧するだけの男など、坂井大膳のような旧時代の凡夫と同じ。このような男のせいで国が割れるのを、神の運命などという言葉で片付けられては、汗を流して国を支える民が浮かばれぬ」「左様でございます、信長公」伊藤博文は、深く深く頷いた。彼の脳裏には、明治の世において自由民権運動の嵐が吹き荒れ、国論が二分されかけた激動の時代が去来していた。あの時、力による弾圧だけで臨んでいたならば、日本もまた瓦解していたに違いない。「国家の統合とは、専制君主の武断だけで維持できるものではありません。地方の不満を吸収し、不平を建設的な議論へと変える『制度』が必要です。レハブアムの失政を単なる悲劇で終わらせず、ここに近代的な政治的和解の仕組みを組み込みましょう。すなわち、中央集権の破綻を救うための、各部族の自治を認める『連邦制』への移行です」伊藤は万年筆を固く握り、インクの代わりに青い理性の光を奔らせた。そして、近代日本の礎たる大日本帝国憲法を起草した際の熱量をそのままに、光のページへと文字を刻み込んでいった。その筆先から、一つの重厚な言葉が紡ぎ出された。――「統治権」(とうちけん)明治の法制官僚たちが、近代国家の最高権力を定義するために心血を注いで創り出したその漢字が、古代の聖典の記述を激しく侵食していく。『新王レハブアムは、若気の至りによる独裁を翻し、元老たちの智恵に耳を傾けた。王はヤロブアムら地方の代表に対し、次のように宣言した。「我が父ソロモンの大建築は、国家の基盤を固めるための苦渋の決断であった。しかし、その労苦が民の限界を超えたことは認めねばならぬ。これより、王の絶対的な統治権を一部分散し、北の十部族には広範な『地方自治』の権利を認める。我がユダは中央政府として外交と防衛を担い、諸部族はそれぞれの法をもってその地を治めよ。我々は敵として分かれるのではなく、相互の利益を守る『連邦国家』として新生するのだ」』伊藤の筆によって聖書が書き換えられた瞬間、シケムの広場を埋め尽くしていた一触即発の殺気が、一時に霧散していった。幻影の中の民衆は、王への怒りの拳を下げ、互いに顔を見合わせて歓声をあげた。ヤロブアムは反逆の剣を鞘に収め、レハブアム王と固い握手を交わした。そこには、神の呪いによって引き裂かれた二つの弱小国ではなく、多様性を認め合いながら連帯する、巨大な「イスラエル連邦共和国」の力強い姿があった。「ほう、国を割らずに、内側の仕組みを変えて乗り切ったか」信長は腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。「これならば、北の豊かな農地も、南の堅固な都も、すべて一つの経済圏として活き続ける。戦う前に和する法、伊藤、お前の近代政治とやらの底力、見せてもらったぞ」「恐縮です、信長公」伊藤は万年筆を収め、眼鏡を軽く指で押し上げた。「しかし、これで終わりではありません。国家の分裂は防ぎましたが、今度はこの肥大化した連邦を狙う、周囲の巨大帝国――エジプトやアッシリアの脅威が迫ります。内なる法を整えた人間たちが、外なる大国の暴力にどう立ち向かうか、歴史の本当の試練はここからです」光の書物は、地響きのような重低音を響かせながら、砂漠の彼方から迫る大軍勢の幻影を映し出し、次なるチャプターの頁を静かにめくり始めた。

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