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第7章:ソロモンの知恵と近代司法の確立

ダビデの遺志を継ぎ、イスラエルの王座に就いたのはその子ソロモンであった。光の書物が次に映し出したのは、黄金に彩られた壮麗な宮殿と、世界中からその「知恵」を求めて人々が集まる、イスラエル史上最大の全盛期の幻影であった。元の聖書において、ソロモンは神から「知恵」を授かり、その象徴として、一人の赤ん坊をめぐって所有権を争う二人の母親の不条理な裁判を、見事な機転(「赤ん坊を二つに切り裂いて分けよ」と命じ、本当の母親の母性を炙り出す手法)で解決する。これは王個人の超自然的な洞察力を称える物語であった。「フン、芝居がかった裁判だな」織田信長は、玉座で名判決を下すソロモンを見下ろし、冷ややかに言い放った。「一時の感情や心理の隙を突く裁きは、見世物としては面白いが、確たる証拠に基づかぬ危うさがある。王が天才であれば国は治まるが、次代が愚者であればその時点で司法は崩壊するぞ。余が清洲城や岐阜城で民の訴えを聞いた時は、常に検地帳や動かぬ証拠、そして定めた法度はっとを基準にした。一人の『知恵』に頼る裁判など、国家の法としては未熟の極みだ」「その通りです、信長公」伊藤博文も同意し、万年筆の先から新たな青い光を紡ぎ出した。「王の個人的なひらめきに依存する司法は、近代国家の目指すべき『法の支配』とは相反します。裁判とは、属人的な『智恵の証明』ではなく、制度化された『証拠裁判主義』と『三審制』によって運用されるべきです。ソロモンの智恵の本質を、天才的な直感から、洗練された『近代的司法制度の構築』へと書き換えましょう」伊藤の筆が光のページを侵食し、ソロモンの裁判の記述をドラスティックに変貌させていった。『二人の女が赤ん坊を連れてソロモン王の前に出た。王は個人の勘に頼ることなく、法廷の役人たちに命じて客観的な証拠を集めさせた。出生の記録、近隣の住民による証言、そして赤ん坊の特徴の精査。王は法に基づいた厳格な証拠調べを行い、偏見のない冷徹な論理によって真実の母親を特定した。民は王の奇抜な機転ではなく、その徹底した「客観性と法の適正手続き(デュー・プロセス)」に深く感服したのである』「良いぞ」信長が頷く。「これならば、王が誰に代わろうとも、法廷の厳正さは保たれる」しかし、物語が進むにつれ、ソロモンの栄華の裏に潜む「歪み」が露わになっていく。ソロモンは、壮大なエルサレム神殿や王宮を建設するため、民に過酷な強制労働(役務)と重税を課し、さらには周辺諸国との政略結婚を繰り返して数千の側室を迎え、彼女らが持ち込んだ異教の神々を容認していく。元の聖書では、この「偶像崇拝の容認」が神の怒りを買い、国家分裂の直接の原因となったとされている。「神の怒りなどどうでもよいが、民への過度な重税と、身の丈に合わぬ巨大建築は、統治者として最悪の愚行だ」信長が苦々しく吐き捨てた。「長篠の戦いでも、安土城の築城でも、余は常に経済の循環を考えた。楽市楽座で商人を呼び込み、富を生み出してから動いたのだ。民を疲弊させるだけの栄華など、ただのハリボテに過ぎん」「国家財政の破綻、そして中央と地方の利害対立……。これがソロモン没後の王国分裂の真因ですね」伊藤は歴史の必然を見つめ、万年筆を強く走らせた。『ソロモンは晩年、巨大建築による財政破綻を防ぐため、議会(部族長会議)による「予算承認制度」を導入しようとした。しかし、旧来の特権に固執する中央の官僚と、負担を強いられる地方の部族との間の経済格差は深刻化していた。ソロモンの真の苦悩は、異教の神々ではなく、肥大化した国家組織と、近代的な「財政民主主義」の確立への過渡期における、システム上の摩擦であった』書き換えが完了した瞬間、ソロモンの宮殿を包んでいたオカルト的な呪いの影が消え去り、そこには高度な行政機構と、財政再建をめぐって激論を交わす合理的な国家の姿が浮かび上がった。神の気まぐれによる破滅ではなく、人間たちが直面する「経済と統治の課題」として、歴史が再定義されたのである。「これで、ソロモンの遺産はただの瓦礫にはならん」信長は腕を組み、不敵に笑った。「破綻の危機を乗り越えるための、次なる人間の闘いが見ものだな」「ええ。しかし信長公、ここから先は王国が南北に分裂し、預言者たちが暴れ回る、最も混迷を極めた時代に入ります。我々の法は、この混沌を制御できるでしょうか」光の書物は、悲壮なトランペットの音色を響かせながら、分裂する王国の運命を描く次なる頁をめくり始めた。

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