第十一話 お香の匂い
朝になり、ティアラが目を覚ますとティアラ付きの召使達が彼女の顔を洗わせ、すぐさまその日に着るドレスを用意して、手早く身に付けさせてくれる。椅子に座らせられ、長い金髪を櫛けずられる。そして髪の両サイドに綺麗な空色のリボンを付けられる。
召使のリルが、空色のリボンと共布で作られた、猫のアレクサンダーの首輪につける大きなリボンを手に、少し困った顔をしていた。
「アレクサンダーがまだ眠っています」
ティアラの大きな寝台の上の枕元で、真っ黒い猫が丸くなって眠っている。
よく眠っているのか、ティアラ達の身支度で召使達が忙しくしていても、目を開くことはない。
「起こすと可哀そうだから、寝かせておいてあげて」
そうティアラは言ったが、前日もアレクサンダーは昼頃まで眠りこけていた。
「最近、お寝坊さんがすぎるみたいね」
「そうでございますね」
召使のリルは、丸くなって眠っているアレクサンダーのそばに身を近づけると、くんと匂いを嗅いだ。
それから、リルはいつものようにアレクサンダーの腹あたりに顔を埋める。寝台の上に眠る猫の腹に顔を埋める若い女召使の構図は、ある意味、シュールだった。
他の召使達は呆気にとられつつも「リル、今は朝のお仕事中でしょう」「アレクサンダーが起きてしまうわよ」と注意するが、アレクサンダーはリルに柔らかい腹に顔を突っ込まれても目を覚ますことは無く、「ウニュー」と声を上げるだけでまだトロトロと眠っていた。
リルはアレクサンダーの腹から顔を上げると、ティアラに「お嬢様、アレクサンダーからお香の匂いがします!!」と言った。
「お香?」
「そうです。お香の匂いです」
そう言われて、他の召使達も「どれどれ」と言いながら、代わる代わるアレクサンダーの腹に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。皆、口々に「あら、本当、お香の匂いがするわ」「どこかで嗅いだことがある匂いだわね」と言っている。
そう言われているのを見て、ティアラもまたアレクサンダーの腹に顔を埋め、召使達と一緒に驚きながら「本当だわ、アレクサンダーからお香の匂いがするわ」と驚きながら、その日はティアラ達が食堂になかなか起きて来ないことを心配した召使に呼ばれるまで、代わる代わるアレクサンダーの柔らかな腹に顔を埋め、そのお香の匂いは何なのか、議論をしていたのだった。
そして珍しいことに、その朝のアレクサンダーはティアラと召使達にどんなに腹に顔を突っ込まれても目を覚ますことなく、スピースピーと眠っていたのだった。




