第十話 仕事の依頼
副神殿長のアンネッタは、黒猫が人語を話すのを聞いて、小さく息を吸い込んだ。
彼女の内心は(猫が喋った。魔物か、神獣か)と一瞬の疑問の声が沸き上がるが、昨日神官長との話し合いでは、結論として「黒猫は神獣(御使い)である」ということで落ち着いていることを思い出す。
そもそも、大地の女神ウルスィーの神殿には結界が張られており、悪霊や魔物は入り込むことは出来ない。その結界が破られていないということは、黒猫は悪霊や魔物の類ではないということだ。
黒猫は平伏し続けている神殿長と副神殿長を見下ろして、「顔をあげろ」と言った。
顔を上げると、すぐそばにビロードのように艶やかな黒い毛並みの美しい黒猫がいた。エメラルド色の両眼が宝石のように美しい。猫が好きなアンネッタは思わずほうとため息をついた。
(綺麗な猫ちゃんだわ)
緩む顔を引き締めながら、アンネッタは黒猫の問いかけに答えた。
「はい。御使い様にお願いしたいお仕事は三つあります。その中から御使い様が引き受けて下さるお仕事を選んでいただきたく存じます」
(ああ、この女は馬鹿じゃないな)
黒猫アレクサンダーは、アンネッタを見て思う。
隣の神官長はネズミ退治一択という愚かな申し出だったが、副神官長はアレクサンダーに選択の余地を残している。気に入らない依頼があっても、それを蹴ることが出来るようにしている。アレクサンダーが気分を害しないように出来るだけの配慮をしようとしている。
アレクサンダーが続きを話すように促すと、アンネッタは仕事内容の説明を始めた。
「一つ目の仕事は、王都東山の古代遺跡に出る幽霊を退治していただきたいこと、二つ目の仕事は、王都から離れた西ピュロイに出る山賊を退治していただきたいこと、三つ目の仕事は神殿の宝物庫にある封印されし珠の、封印を解いて頂きたいことです」
二つ目の仕事は、王都から離れなければならないというので引き受けられないな。
アレクサンダーが屋敷から丸一日でもいなくなれば、ティアラと召使達が大騒ぎして捜索隊を出す勢いになるだろう。その騒動の様子すら目に浮かぶ。だから王都から離れる必要がある山賊退治は却下だ。
一つ目の仕事の、王都東山の古代遺跡というのは、その正確な場所が分からなければ判断がつかない。三つ目の仕事は、神の御使いだからといって封印を解く能力があると期待されては困る。元勇者の黒猫なのだから、そのような聖人の力はない。
というわけで消去法で、一つ目の仕事の詳細を聞くことにした。
「王都東山の古代遺跡の場所と、詳細を教えろ」




