第九話 副神官長の登場
神殿からネズミ退治の依頼を受けて怒った黒猫アレクサンダーは、業腹ではあったが、神の依頼を放置していると碌なことにならないことを知っていたため、本当に仕方なしに翌日の夜、また神殿にやって来ていた。
ネズミ退治を神官長クリスティアンから切り出された時、頭の血管がぷちりと切れたような気がした。もう二度とあの神官長とは顔を合わせたくない気分だ。しかし、そのままにしておくわけには行かない。
アレクサンダーははぁーと深いため息をついて、のろのろと頭で神官長室の扉を押し開けた。
黒猫が部屋に入ると同時に、部屋の中にいた人物達が慌てて動き出す。
見ると、そこに一人の神官が、もう一人の神官の頭を床に押さえつけて、平伏しているのが見えた。
頭を押さえつけている神官は四十代ほどの女性の神官で、もう一人の人物は神官長クリスティアンである。
神官長の頭をぐいぐいと押さえつけて平伏している様子を見て、アレクサンダーは目をパチクリしていた。
四十代ほどの女性神官が、アレクサンダーに向けて頭を下げたまま口を開いた。
「女神ウルスィー様の御遣い様にお会いできて光栄に存じます。私はこのウルシアン神殿の副神官長を務めているアンネッタと申します。そして隣のこの者は、神官長のクリスティアンです」
副神官長という女が、新たに加わってきた。
(この二人、俺が来るまで部屋の中で待機していたということなのか?)
おそらくそうだろう。
いつ来るか分からない黒猫を待って、ずっと神官長室にいた。そして扉を開けて入って来た黒猫を見つけるなり、すぐさま平伏しているわけか。
ご苦労なことだとアレクサンダーが二人の姿を眺めていると、アンネッタ副神官長はなおも言葉を続けた。
「昨日はこのクリスティアンが、ご無礼なことを申し上げて大変失礼致しました」
今一度、アンネッタはクリスティアンの頭を押さえつけるようにして下げさせる。
女の方が副神官長で、クリスティアンよりも役職は下のはずなのに、明らかにクリスティアンよりも態度が大きかったし、クリスティアンよりも年齢も上に見える。実際実務権限はこの副神官長が担っているのかも知れない。なにせ、このクリスティアンという男はどこか抜けて見えるからな。
そしてそうした感想を抱いたアレクサンダーの推測は間違いではなかった。
魔力量や女神からの神託の受け取り回数、見目の良さ等で選ばれる神官長は、あまり神殿の実務は担っておらず、専ら裏方として実権を握っているのは副神官長だという話だった。
アレクサンダーは二人の神官の前で、足先を揃えてちょこんと座る。
その後ろで黒く滑らかな尻尾がユラユラと揺れていた。
「それで」
小さな猫の口が開いて、再び人語が紡ぎ出される。
「俺に頼みたい仕事は、ちゃんとネズミ退治以外にあったのか」




