第83話 誤解と和解
オールストレームホテルを出発して少し走ると、上り坂がある。
自動車が無かった時は、この坂が帰るのに一番の難所だったなと俺は思い返していた……
俺の愛車のトラックは、上り坂をガタガタと力強く登り、俺達のフジノ街を目指して進む!
馬車に比べりゃ格段に快適なのだろうけど、揺れるな。
荷台に居るルーカス王子達は大丈夫なんだろうか?
トラック荷台――
「お、ルーカス様?! 馬が引いていないのに、荷車が動いています!」
荷台の側アオリにしがみつくセリアが声を上げた。
「落ち着け、セリア! 兎に角、振り落とされないように掴まれ!」
ルーカス王子は、愛するセリアを守ろうと必死に手を伸ばす。
その様子をカインとクアラが不思議そうに見ていた。
サニーは、オールストレームホテルの方をジッと見つめて、
「もう、あんなに小さくなっちゃった」
と寂しげに呟いた。
小さいと言えば、ライネの妹であるユリアナちゃん。
ユリアナちゃんと仲良くなって一緒にお風呂に入りたかったとサニーは思った。
未成年の小さな女の子が大好きで、胸をときめかせるサニー。
彼は重度のロリコンであったが些細な事である。
「おじちゃん、王子様達は、何をしているの?」
「さぁ……」
クアラに聞かれたサニーは関心がない。
成人男性や女性などには興味のない、筋金入りのロリコンである彼が気の無い返事を返したのは当然かもしれない。
トラックが揺れる度に、セリアの胸が揺れる。
平均的な男の子であれば、胸が高鳴ろうものであるが、サニーに何の感動もこみ上げる思いも何もなかった。
勿体ない話である。
獣人であるクアラ、エルフのカイン、忍者のサニーは体幹が優れている為か揺れるトラックの荷台の上を平気で歩き回れる。
だから王子達の様子はひどく大げさに思えたクアラとカインだった。
「おじちゃん、出発してから元気がないね」
元気の無いサニーを心配して、カインが声をかけた。
ほっとけば良いのに。
「……いや、すまん。
俺の事で他の者に心配させちまうなんて、最低だな」
サニーは、カインに謝ると笑顔を返した。
そして、こんな小さな子に心配させるなんて、大人失格だなと反省するのだった。
そして、小さな子と言えば、ユリアナちゃん。
サニーは、ユリアナちゃんは、今何しているのだろうか? と思ったのだが、荷台にいる誰もその事に気づくものなどいない。
「お前等、凄いな?! 平気なのか?」
普通に立ち話をしているサニー達に王子が聞いたが、
「別に普通じゃないか?」
めんどくさそうに答えたサニー。
「今日は揺れが少ないくらいだよね、おじちゃん」
カインも続ける。
「王子様が乗ってるからカズヤ様も気を使ってるんだよ、きっと」
クアラも続けた。
「だよな。 これぐらいの揺れで大げさだな、お前」
そうサニーに言われ、少しカチンときた王子。
馬鹿にされたと思い、王子はアオリに掴まりながら立とうとした。
「おやめください、ルーカス様!」
当然、セリアに危ないと止められた王子だが、子供すら立っている状況で自分が座っているなどプライドが許さない。
「王族たるこのルーカス、あのような子供に後れをとるなど、あってはならぬのだ!」
王子は、アオリを握りしめ、必死に立ち上が……
「わーーい! わーーい!」
楽し気な声がした。
ルーカス王子は、声のした方を見ると、サニーの肩に立つクレア、クレアの肩に立つカインが見晴らしが良いと嬉しそうな声を上げているのが見えた。
「……」
王子は、大人しく座った。
「王子、アイツらは異常ですから、気にしない方が良いです」
「そうだな、セリア」
ブロロローー……
トラックは、フジノ街を目指し進む。
・
・
・
ブロロローー……
運転席――
通いなれた道だが、今日は慎重な運転を心がけた。
なにせ、今、荷台に王子を乗せて運転しているのだからな!
ブロロローー……
「この辺までくると、運転が楽になるな」
急な坂道を抜けると、石畳に舗装された道が姿を現す。
金髪豚野郎率いるオーク達が最初に舗装してから、フジノ工務店土木事業部に引き継がれて今じゃ立派な道ですよ。
「揺れが大分マシになってきた。
王子達も少しは楽になるだろうな?」
と何気なく言ったのだが……
「カズヤさんは、ルーカスに少し甘いんじゃないですか?」
だって。
ライネったら、また呼び捨てだ。
「カズヤ様、一番下っ端なんだから、気に掛ける事なんてないですよ」
ペトリ、お前も辛辣だな。
「王子だろうと最初が肝心だぞ、カズヤ」
ミカエル?
「……」
「なぁ、ずっと気になってるんだけど、お前等、王子に対して厳しすぎじゃねぇか?」
「そうだよ! ルーカスは、良い奴だよ!」
「うん、ボリス。 とうとうお前も呼び捨てしだしたな」
俺達の中で一番、王子に近いボリスまでもが…… 一体どうしちまったんだ?
「カズヤ、お前、あの王子も嫁にする気なんじゃろ?」
「は?」
ラージャがまた可笑しな事を言い出した。
「またまた…… 色ボケが惚けおったのじゃ」
俺の事か?
てか、色ボケって、凄い言われようだな、おい!
「おい、ラージャお前、大丈夫かホントに?
嫁ってなんの事だ? サッパリ意味が解らないぞ」
俺が言ったら、車内がシンと静まり返った。
どうした?
「お、おい、ライネ。
どういう事だよ?」
明らかにうろたえた声でペトリがライネに聞いたが、どうした?
「いや、だって、カズヤさんが、王子の事を本気だって…… それに、ペトリだって」
……なんか、大体の事情が解ってきた。
出発前の、話がなんかかみ合ってない時だな……
「ライネ、人のせいにするのはいけないぞ」
ミカエル、お前もあの時一緒に言ってたよな?
「お前等、酷いぞ! 嫁にする事になったって言うから、儂、ルーカス王子に……」
ボリスもそそのかされたのか。
それから、醜い罵り合いがすこし続いたが、俺は白けて彼らの会話を聞いていた。
「ミカエル兄さんも、ペトリも酷い! 僕だけ悪者にするんだ!
……え、え、えーーん、えーーん」
あっ! ライネが泣いちゃった!
「コラッ! みんなしてライネを責めるんじゃない!
ライネ、大丈夫だからね、俺は、何も気にしてないぞ」
オロオロしつつ俺はライネに言ってあげた。
だから、泣かないで!
「お前が良くても、王子のオールストレーム領への印象は最悪じゃろうな。
呼び捨て、顎での指示…… それから、嘘泣きは止めるのじゃ、ライネ」
そりゃそうだけど…… って、え? 嘘泣きってそれは酷いだろうラージャ!
「……チッ」
「えっ!」
俺は、驚いて、ライネを見た。
今、軽く舌打ちしなかった?
そして、顔を上げたライネがジッと前を見ている。
なんて顔だ……
ライネは、能面のような無表情。
「で、どうするのじゃ、カズヤ?」
ラージャに聞かれたが、そんなもん決まってる。
「何もしない。
時間を戻す事など無理だからな!
お前達、絶対にさっきの態度とか呼び捨てにした件を謝るなよ!
下手に謝罪したらこっちに否がある事を認めた事になって、王子の立場だと処罰しなきゃなんなくなるだろうからな!
よって、無かった事にしちまおう」
そうするしかない。
「まぁ、我はどうでも良いのじゃ」
だろ? ラージャ。
「王族に対して俺は…… 謝ったところで許されないだろうから、カズヤ様の案に賛成!」
ペトリ。
「お、俺だって!」
ミカエル。
「……どんな顔で、ルーカス王子に……」
気にすんな、ボリス。
「……ごめんなさい、カズヤさん」
ああ、ライネ。
お前の2面性は良く解った。
その謝罪も表面だけなのだろう?
呆れつつ俺は、ライネを見た。
うん。
「気にしないでいいんだよ」
潤んだ瞳で言ってくるライネを誰が責めれようか!
しかも、ミニスカートをたくし上げ、パンツが少し見えてるし!
「おっと! みんな、フジノ門が見えてきたぞ!」
遠くに小さく岩山のようなのが見えてきた。
「カズヤさん、トランシーバーで、もう着く事を伝えるね!」
「気が利くーー! 頼むよライネ!」
ホーーント、優しくて気が利くライネは、最高の奥さんだぜ!
何か様子が変だと思ったら、皆勘違いをしていたようだ。
全く。
なんで俺が王子を嫁にしなきゃなんないんだよ!
頭おかしいのか? アレは、男だぞ?
……ラージャを除いて、俺の嫁は男だった。
そんな事より、早く街を見せてやりたい、急ぐぞ!
って事で、次回も、乞うご期待!




