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「釣書に持病なんて書いてなかったぞ」
「ええ!?」
嘘だろう。
それは絶対に言っておかなければいけないだろう。
ルクレッツィは驚愕の声を上げて、目を丸くした。
(これもう詐欺じゃない!)
まごうことなき詐欺である。
それは駄目にもほどがあるだろう。
「あの、本当にごめんなさい」
娶るには事故物件すぎる。
完全にお荷物だ。
ティクルスも渋い顔である。
「魔力放出病の子供を連れていい日程じゃない。ただでさえ六歳なら体力に気を配らなきゃいけないのに」
そうなのかとルクレッツィはぼんやり旅路を思い出した。
ファーレン国にいるあいだは、そんなに急ぐのと言わんばかりの強行軍だった。
ヒルクライフに入っては多少ゆっくりだったけれど、ルクレッツィのために予定にない休憩を何度もしたのだ。
ファーレンはともかくヒルクライフはルクレッツィがここまで病弱とは思わなかったのだろう。
なんか今さらになるけれど申し訳ない。
「確認だが火傷と魔力放出だけか?ほかに苦しいのは?」
苦しいと言われてルクレッツィはふと考えてみた。
とくに病気も怪我もない。
「ないです。走ったりもできます」
「息が切れずには?」
「……走れないです」
キリッと答えたけれど、ティクルスの質問にしょんぼりしてしまった。
歩くのも息切れするのだから当然だ。
ずーんと落ち込んでいると、右手を取られた。
そのまま手を握られたかと思うと、なんだかそこからざわりとした感触が体のなかに広がった。
「くすぐったい」
くすくすと感触に笑ってしまうルクレッツィだけれど、ティクルスは反対に舌打ちをした。
もうルクレッツィの前で隠す気はないらしい。
「思ったとおり栄養も枯渇状態だな」
「そんなことわかるんですか?」
「魔力を流して診察したからな。それで異変がないか調べる」
なんか凄い。
医者じゃないと言ったけれど、医者みたいだとやっぱり思う。
それにしてもなあとルクレッツィはティクルスをそっと盗み見た。
猛禽類のような金目は真剣だ。
手つきも優しい。
(この人、凄く私のこと気にしてくれるな)
「あの、私は大丈夫」
「爪に縦線がある。栄養がいってない証拠だ。水分も足りてない」
「あ!」
手の爪先をじっと見られて、ルクレッツィはおもわず声をあげてしまった。
その爪先の形が歪だ。
「爪先もボロボロ。噛んでるな?」
「あの……」
カアッとルクレッツィの頬が熱くなった。
そのまま背中まで体温が上がった気がする。
さすがに噛んだ爪を見られるのは恥ずかしいし、前世でも姉に注意されていた。
ひっかけたら危ないと。
「ストレスが強いからこうなるんだろうな。髪も肌も栄養がないから痛んでる」
痛んでいるのは確かだ。
国を出る前に最低限の見目はととのえると突貫工事で肌と髪は手入れをされたけれど、ここに来るまでの旅程でメッキは剥がれているのだろう。
女の子なのになあと、ちょっと残念な気持ちになってしまう。
前は手入れが大変だからと髪を伸ばしていなかったし、よく抜けていた。
ルクレッツィになってからは長い髪が女の子らしくて嬉しかったし、可愛い髪型が出来るかもしれないと喜んでいたけれど、この結果である。
「みずぼらしくてごめんなさい。ただでさえ婚約者が子供なのに……」
「これはお前のせいじゃない。親や使用人の責任だ。主治医は?」
質問の回答に困る。
主治医は、そもそも会っていないような気がする。
診察とかされたっけと思い出すけれど、以前のルクレッツィの記憶にもうすらぼんやりとした姿しかない。
(王妃に睨まれてたしなあ)
火傷の治療のときも、苦渋の表情をしていた。
あれはとても不本意だったのではないかと思う。
なんか申し訳ない。
「咳が出たときに飲む薬は?」
手を離されたので、ポケットから小さな缶を差し出した。
ティクルスがそれを受け取って蓋を開けるや否や、眉間に皺が深く刻まれる。
「たいして効かない薬だぞ。量もこれだけか?」
「はい」
頷いた瞬間、ティクルスのこめかみからブチッという音が聞こえたような気がした。




