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ティクルスが出て行くまで視線で見送ってから、ソファーのふかふかの感触を楽しむ。
おもわずルクレッツィはだらしなく背もたれに体をだらりと預けた。
やはり背もたれにもふかりと受け止められてしまう。
天井を見上げると、小さく上品なシャンデリアが雫飾りを垂らしている。
壁紙も天井まで淡いレモン色だ。
ところどころ白い蝶が描かれていて、目を引く。
凝ってるなあと感心してしまった。
「『マリー・ゴールドの部屋』みたい。あのアニメ見て花柄の壁紙に憧れたのよね。蝶々が飛んでるのもシンプルにみせかけて可愛いな」
すっかりルクレッツィはティクルスの用意した部屋を気に入っていた。
前世なんて病院だから白一色である。
あったとしたら着ていたパジャマの色くらいだろうか。
姉たちがかわいい色や柄のパジャマを沢山探して買ってきてくれたものだ。
それにくらべてルクレッツィの実家よ。
ファーレン国で使っていた部屋は陰気臭かった。
別に灰色でまとめられてるとかじゃないのに、彩度がまったく感じられなかった。
あんな淀んだ雰囲気の部屋にいたら、そりゃあ以前のルクレッツィだって病むだろう。
ちなみに今のルクレッツィは国王に貰ったヒルクライフの本を、取られるまでウキウキで読んでいたので陰気臭いことは気にしていなかった。
本を取られたのは、鼻歌まじりに機嫌よく読んでいたことが原因だとはルクレッツィは知らない。
綺麗なシャンデリアと可愛い天井を視界に入れながら、ルクレッツィはくふくふと嬉しそうに笑った。
「ティクルス様、すごくいい人だったな。あの人なら私仲よくなりたい。優しい人だった……」
目を閉じたら、ルクレッツィにとっての優しい人を思い浮かべる。
だけれど、思い出そうとした両親の姿も声もほとんど何も頭のなかに浮かばなかった。
姉との思い出はしっかりと残っているのに。
「顔、あんまり合わせなかったもんな……仕方なかったけどさ」
寂しいと思う。
でも二人の顔をたとえ忘れてしまっても、大好きだと思う。
逆に、今の親である国王への気持ちの方が吃驚するくらいない。
「いや、板挟みは大変だと思うし、王妃が駄目だと思うけどね。『アクセルダガー』のルシファー様も言ってたもの。人間は手に入らないものほど卑劣な手段を使って手に入れるって」
愛が欲しくて、でも誰からも愛されなくて、もがいていた悪役のセリフだ。
悪逆非道なのに悲しすぎる設定に、ルクレッツィではなく姉が涙をこぼしていたのを覚えている。
「まあもういいや。二度と会えないっぽいし、仕方ない。もう会わない人達より、これから関わる人を大事にしていこう。これからは好きなことするんだ」
そんなことをつらつら思考していたらメメッレがレモン水を持って現れた。
ガラス製の小さなピッチャーから注がれた水をちびりと飲めば、喉が渇いていたのがわかる。
そのままこくこくと飲みながら、一応紅茶もルクレッツィになってから飲んだけれどレモン水の方が飲みやすいし、好きだなとぼんやり思う。
このあとはどうしようかなと思いつつ、そういえば荷物は先に運び込まれてるはずだから確認しようかなと思った。
思ったけれど、何となく確認するほどのものは入っていない気がしたので、やっぱりやめようと思いピンと閃く。
「庭に行こう!」
そうだ、もう部屋を出ても怒られないのだ。
ルクレッツィはその事実に目を輝かせた。
王宮では籠っていたし、前世では病室に缶詰で外なんて行っていない。
今は何の制約もないではないかと、ルクレッツィは拳を天に突き上げた。
「勝利……!」
メメッレがわずかに目を丸くしている。
けれど気にせず立ち上がると、ルクレッツィは意気揚々とドアへと向かった。
「どちらへ向かわれますか?」
「庭に行っても大丈夫かな?」
「ルクレッツィ様が行ってはいけない場所は、基本的にありません」
それはそれでいいのだろうか。
どうか問題があるときは、きちんと叱ってほしい。
「庭へとご案内いたします」
「ありがとう」
メメッレの申し出に、ルクレッツィは機嫌よくお礼を言うと、廊下へ出て元気いっぱい歩き出した。
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