13
「何かあれば、いつでもメメッレを呼べ」
「うん」
頷けば床にそっと降ろされる。
改めて部屋を見まわせば、テンションがブチ上がりそうだ。
わずかに胸の音が大きくなっている気がするので、こっそりとゆっくり呼吸を繰り返す。
繰り返したら、さりげなくティクルスに手を取られて脈を図られた。
問題なかったのか頷かれたのでホッとする。
世話焼きの婚約者様の手をわずらわせないようにしなければ。
「すごくかわいくて、嬉しい」
「そうか。今日はもう大人しくしてろよ」
「バタバタしたから?」
「そうだ。そもそもお前は到着してすぐに顔合わせだったんだろ」
こくりと頷いたあと、慌ててちゃんと休憩をとったと言ったら、当然だと返された。
「メメッレ、水分をとらせておけ」
「かしこまりました」
ティクルスがメメッレに指示を出すと、すぐにメメッレは部屋を出て行った。
言われて見れば喉が掠れている。
最後に休憩してから何も飲んでいなかったようなと記憶をたどりながら、ルクレッツィはベッドへと腰掛けた。
途端にふかりとお尻の下が柔らかく跳ねる。
「ふかふかだあ!」
感動した声に、ティクルスの右目がピクリとかすかに動く。
「……寝れそうか?」
「もちろん! こんなふかふかなのはじめてだもの。絶対に気持ちよく寝れるわ」
「はじめて、ね」
何だか含みを持った言い方だ。
おもわずティクルスを見ると、少しだけ苦笑してから「また食事のときに」とルクレッツィに背中を向けてドアの方へと行ってしまう。
その背中に、慌ててルクレッツィはベッドから飛び降りてティクルスの上着をちょいっと掴んだ。
「どうした?」
今まさに部屋から出て行こうとしていたティクルスが、小首を傾げて片膝をついた。
少しかがむだけで充分だろうに、ルクレッツィに目線をしっかり合わせてくれるのだ。
「ティクルス様、私ここにこれてよかった。これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、ティクルスは猛禽類のような金の瞳を丸くしていた。
そうすると怜悧さがわずかに抜けていくらか年齢を下に感じさせる。
むふんと挨拶のできたことに満足気にしていると、くくっと小さく笑って。
「ああ、こっちこそ、よろしく」
ティクルスも小さく頭を下げた。
そのことに破顔すると、しばらく休めとソファーへ誘導されてしまった。
「メメッレが戻ってきたらグラス一杯分は飲むようにな」
「わかったわ」
しっかり指示を出すと、ティクルスは今度こそフォックを伴って部屋を出て行った。




