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「かわいい」
ルクレッツィの部屋だと言われた場所は可愛らしかった。
淡いイエローの壁。
優美なラインを描く白い家具。
ベッドは天蓋のあるものだった。
よくある四方にポールのあるものではなく、真上に傘のように釣るタイプだ。
薄く透けた布がベッドに広がり、その上にある厚めの布はリボンで結ばれていて、自分で下ろせるようになっていた。
たっぷりした布が花のようにも見える。
「これ全部ティクルス様が準備してくれたの?」
「ああ」
ティクルスの返答に、抱っこされたままルクレッツィはもう一度部屋を見まわした。
世の大半の女の子がかわいいという感想を言うだろうガーリーな部屋だ。
ついキョロキョロしてしまう。
ルクレッツィのその様子にフォックはくすりと笑って見せた。
「ティクルス様には姉君がいるので、通常の男性より女物に詳しいんですよ」
「お姉さん!」
それでか。
姉の影響は凄いものだ。
ルクレッツィだって姉がいなかったら見ていない作品はいくらでもある。
姉がオススメしてたから見た物は、当たりはずれ含めてけっこうあった。
(お姉さんいるんだ! 私と同じだ!)
ちなみにこのときのルクレッツィのなかの姉は、当然ながらファーレンの王女ではない。
「お姉さんも一緒に住んでるの? どんな人?」
「もう公爵家に嫁いでる。我が強くて自己主張の塊みたいな人間だ。今は新婚旅行中」
なんとおめでたい。
新婚旅行中ならば、まだ挨拶は先かと少し残念に思う。
ルクレッツィは姉が大好きだった。
友達と色々遊んだりしたかっただろうに、夜に通話したりしてるからといつも優先してくれた。
お姉、お姉と、よく甘えていたものだ。
そんなわけでルクレッツィには姉と言う属性に対して好感しかないのである。
ただファーレン国の王女は別にして。
(家族はともしびなんですよって雄二も言ってたわ)
ミステリードラマ『運命と革命』にあったセリフだ。
家族愛に潜む殺人ミステリーで、ハートフルな部分とダークな部分の高低差が激しくてSNSでは毎度悲鳴が上がっていたものだ。
家族に対する名言が飛び出すのに、ラストまで見ると腑に落ちない気分にさせられる作品である。
「お姉さんかあ……」
今から仲良くなれるかちょっと不安が涌いてくる。
家族については、前世は入院中という限られた空間での関わりだったし、今生はまず家族ではあるけれど味方じゃない。
ティクルスの姉ならいい人だと思うけれど、と物思いにふけっていると頭を大きな手でひと撫でされた。
驚いて顔を上げると、なんともいえないムスッとした顔でティクルスがルクレッツィを見ている。
「もうお前の姉だ」
パチクリとルクレッツィは大きく睫毛を上下させた。
そんなことを言われるとは思わなかった。
「私のお姉さん……」
「俺の婚約者でここに住むんだから、そうだろ」
そんなに簡単でいいのだろうか。
ティクルスは多分、ルクレッツィの家族関係が碌なものじゃないと気づいている。
だからこんな言葉を言ってくれているのだろう。
「うん……婚約者で、妹になった」
ほんの少しだけ涙腺が緩みそうになったのをへにゃりと笑ってごまかした。
頷いたティクルスの顔をそっと見上げて、両手の指先を落ち着かせるように絡ませあう。
(まるでティクルス様も家族って言ってくれてるみたい)
家族にしようとしてくれているのだ。
こんなボロボロの体で、年も十に満たないチビ助の、利益も何もない子供を。
こんなに簡単に抱え込むなんて、もっと慎重にと注意したくなってしまう。
でも、ティクルスの飾らない言葉に、これからの生活への不安はどんどん消されて行ってしまっている。
この人でよかった。
何度目になるかわからない気持ちを、ルクレッツィは噛みしめるように思った。
※ミステリードラマ『運命と革命』
家族愛に潜む殺人ミステリーで、ハートフルな部分とダークな部分の高低差が激しくてSNSでは毎度悲鳴が上がっていた。
家族に対する名言が飛び出すのに、ラストまで見ると腑に落ちない気分にさせられる作品。
「家族はともしびなんですよ」とは殺人犯である雄二の最後のセリフ。




