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駄目だろうと思ったところで、医者じゃないと言っていたことを思い出す。
「ティクルス様はお医者様じゃないって言ってたけど、病院で働いてるの?」
医者じゃないなら看護師だろうか。
「医療従事者じゃない。薬の研究やその論文を書いてるだけだ」
「診察しないの?」
「使用人とその家族を年に一度診るくらいだな」
その言葉にルクレッツィはぱちりとひとつまばたいた。
貴族の屋敷で健康診断。
しかも家族サービスありで年に一度。
(福利厚生がすごい)
きっと無料なんだろうなと思う。
ティクルスの性格的に、ほぼ確実に。
「やさしいですね」
「普通だ」
「薬を作って研究するなんて凄い。それがいつもしてるお仕事?」
「あとはまあ、いろいろだ」
「いろいろ……」
切り上げられてしまった。
おもわず後ろをついてくるフォックを見れば、苦笑されてしまう。
「ティクルス様は、ときどき王太子殿下のお手伝いに行かれていますね。あとは侯爵家の仕事をしています」
「い、忙しい!」
おもわず声を上げてしまった。
研究なんて凄く時間と労力がかかるはずだ。
細胞に偏愛を抱いた研究者が殺人鬼になっていく『パーフェクト・ヒューマン』では研究者が主人公だったので、そういったシーンがしっかり描写されていた。
姉が言うには監修が入っているから本格的らしい。
ちなみに三巻で姉の倫理ストップが入ったので続きは知らない。
「やること沢山ありすぎじゃ……侯爵家のお仕事も?」
「父親が半隠居してるからな。兄も留学中だ」
おもわず「えぇ……」と呻きたくなった。
それはやらなきゃだけれど、王太子の手伝いもやらなきゃだけど、かといってティクルスの性分を見るかぎり研究をおろそかには絶対にしないだろう。
その部分の人となりは確信できる。
つまり全部やる以外の選択肢がない。
「えぇ……」
うっかり声に出してしまった。
眉を下げると「挨拶はしばらく先だから安心しろ」と言われてしまう。
侯爵家への挨拶に不安があると思われたらしい。
そうだけどそうじゃない。
「ティクルス様ちゃんと休みある?」
「言ってやってください」
「フォック」
「医者の不養生とはティクルス様のことですよ」
澄ましてツンと答えたフォックに、ティクルスが苦虫を嚙み潰したような顔をする。
しかし今の流れでティクルスの生活が垣間見えた。
心配しかない。
「ちゃんと休んでください。過労死とかあるんだから」
めっと叱ると、ティクルスは微妙な表情を浮かべた。
歯になにか挟まった時のような、なんともいえない顔だ。
「過労死になんかなるか。先祖返りは頑丈だからな」
ルクレッツィの心配はサラッと流されてしまった。
え!? と思う。
ルクレッツィには散々いろいろ細々と言っていたのに、自分はそのひとことで片づけてしまうのか。
おもわずルクレッツィは目を丸くしていた。
そしてきゅっと小さく不健康な手を握りしめる。
(私が婚約者として気にかけなきゃ!)
ルクレッツィは重大な決意を胸に秘めた。
そして三分後、息が上がって新しい部屋まで抱っこで運ばれていった。
※『パーフェクト・ヒューマン』
細胞に偏愛を抱いた研究者の主人公が異常行動を起こし、殺人鬼になっていくサイコサスペンス。
研究に関することがしっかりと監修が入っていて本格的なことが話題だった漫画。




