表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君の笑顔を忘れない』  作者: 優貴(Yukky)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

第9話 病室の笑顔

翌日。

白石結衣は学校を休んだ。

その翌日も。

さらに翌日も。

三日連続の欠席だった。

教室の窓際。

空席になった結衣の席を見るたびに、悠真の胸は重くなった。

「大丈夫なのかな……」

自然と呟く。

翔太も珍しく真面目な顔をしていた。

「風邪じゃないよな」

「ああ」

クラスのみんなも心配している。

明るくて優しい結衣は、短期間でそれだけ多くの人に愛される存在になっていた。

だが詳しい事情を知る者はいない。

担任も、

「体調不良だ」

としか説明しなかった。

しかし悠真には引っかかるものがあった。

職員室で見た診断書。

『長期的な治療が必要』

という文字。

そして最近の体調不良。

全てが一本の線で繋がり始めていた。

放課後。

悠真は職員室へ向かった。

「先生」

担任が顔を上げる。

「神崎か」

少し迷った。

だが聞かずにはいられなかった。

「白石さん、大丈夫なんですか?」

先生は黙った。

しばらく沈黙が続く。

「先生」

悠真はもう一度言う。

「心配なんです」

担任は深く息を吐いた。

そして静かに言った。

「詳しいことは本人の許可がないと話せない」

やはり何かある。

悠真は確信した。

「でも」

先生は続ける。

「きっと今、一番喜ぶのは友達が心配してくれることだと思う」

そう言って一枚のメモを差し出した。

そこには病院名が書かれていた。

夕方。

悠真は病院の前に立っていた。

本当に来てよかったのだろうか。

迷惑ではないだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。

だが。

帰ることはできなかった。

受付で名前を伝える。

病室を教えてもらう。

長い廊下。

静かな空気。

心臓の鼓動が速くなる。

そして。

病室の前に立った。

コンコン。

ノックする。

「はい」

聞き慣れた声だった。

悠真は扉を開けた。

「神崎くん……?」

結衣が目を丸くする。

病室のベッドの上。

パジャマ姿だった。

だが。

いつもよりずっと痩せて見えた。

顔色も良くない。

それでも。

結衣は笑った。

「どうして?」

「心配だったから」

その一言に結衣の表情が少し揺れた。

「そっか」

小さく微笑む。

悠真は椅子に座った。

病室には夕日が差し込んでいる。

静かな空間だった。

「ごめん」

結衣が言った。

「心配かけて」

「謝るなって」

悠真は苦笑する。

「最近そればっかりだな」

結衣も少し笑った。

「確かに」

久しぶりだった。

こうして普通に話せたのは。

しばらく学校の話をした。

校外学習の写真。

翔太の失敗談。

クラスの近況。

結衣は楽しそうに聞いていた。

だが。

ふと。

窓の外を見ながら呟く。

「行きたかったな」

「え?」

「学校」

その声は寂しかった。

悠真は胸が痛くなる。

結衣は学校が好きだった。

友達と話すことも。

昼休みも。

帰り道も。

全部好きだった。

だからこそ。

今ここにいることが辛いのだろう。

沈黙。

やがて悠真は意を決した。

「白石さん」

「ん?」

「病気なんだろ」

結衣の体が固まった。

病室の空気が止まる。

「……」

返事はない。

「職員室で診断書を見た」

結衣は俯いた。

長い沈黙。

そして。

小さく笑った。

「見つかっちゃったか」

否定しなかった。

その瞬間。

悠真の胸が締め付けられる。

「何の病気なんだ?」

聞きたい。

でも聞くのが怖い。

結衣は窓の外を見たまま言った。

「まだ言えない」

「……」

「ごめんね」

悠真は拳を握った。

本当は知りたい。

助けたい。

力になりたい。

でも。

無理に聞くことはできなかった。

「でもね」

結衣が言う。

「神崎くんには感謝してる」

「え?」

「転校してきた時、不安だった」

夕日に照らされた横顔。

「また友達できなかったらどうしようって」

結衣は微笑む。

「でも神崎くんがいた」

その言葉が胸に響く。

「学校案内してくれて」

「一緒に帰って」

「笑ってくれて」

「心配してくれて」

結衣の目が少し潤んでいた。

「本当に嬉しかった」

悠真は言葉を失う。

胸が熱くなる。

そして改めて気づく。

自分は。

本当に結衣が好きなんだと。

面会時間終了のアナウンスが流れる。

帰る時間だった。

悠真は立ち上がる。

「また来る」

結衣は驚いた顔をした。

「来てくれるの?」

「当たり前だろ」

そう言うと。

結衣は少しだけ泣きそうな顔で笑った。

「ありがとう」

その笑顔は。

初めて出会った日の笑顔と同じだった。

優しくて。

暖かくて。

そして少しだけ切なかった。

病院を出た後。

悠真は夕暮れの空を見上げた。

結衣は病気だった。

それは間違いない。

だが。

まだ本当のことは聞けていない。

どれほど重い病気なのか。

なぜ転校を繰り返していたのか。

なぜ毎日を大切にしていたのか。

その全てが謎のままだった。

それでも一つだけ分かったことがある。

「俺は……」

呟く。

「白石さんのそばにいたい」

どんな事情があっても。

どんな未来が待っていても。

その気持ちは変わらなかった。

だが。

悠真はまだ知らない。

結衣が隠している真実が、

想像以上に残酷なものであることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ