第8話 隠された秘密
校外学習から数日後。
クラスでは撮った写真の話題で盛り上がっていた。
「この時の翔太の顔やばくない?」
「消せ消せ!」
「無理!」
教室中に笑い声が響く。
いつもなら結衣もその輪の中心にいるはずだった。
しかし――。
今日は違った。
結衣の席は空いていた。
「まだ来てないのか……」
悠真は時計を見る。
ホームルーム開始五分前。
結衣が遅刻するなんて珍しい。
そしてチャイム直前。
教室のドアが開いた。
「ごめんなさい、遅れました」
結衣だった。
だが。
顔色が明らかに悪い。
無理に笑っているのが分かる。
「大丈夫か?」
席に座るなり悠真が聞いた。
「うん」
結衣は微笑む。
「ちょっと寝不足」
いつもの返事だった。
だが悠真は納得できなかった。
最近ずっとそうだ。
体調が悪そうなのに無理をしている。
何かを隠している。
そんな気がしてならなかった。
昼休み。
結衣の姿が教室にない。
悠真は屋上へ向かった。
案の定。
結衣は一人でフェンスにもたれていた。
風が髪を揺らしている。
「またここか」
声をかける。
結衣が振り向いた。
「あ、神崎くん」
少し驚いた顔。
「昼飯は?」
「あとで食べる」
「また無理してるだろ」
結衣は苦笑した。
「そんなことないよ」
「嘘だ」
初めてだった。
悠真がここまで強く言ったのは。
結衣の表情が少し固まる。
「最近ずっとおかしい」
「……」
「本当は何かあるんじゃないのか?」
沈黙。
風だけが吹いていた。
結衣は空を見上げる。
そして小さく笑った。
「もしあったら?」
「え?」
「もし秘密があったらどうする?」
悠真は少し考えた。
そして答える。
「話を聞く」
「それだけ?」
「一緒に悩む」
結衣の瞳が揺れた。
「助けられなくても?」
「それでも」
結衣はしばらく黙っていた。
そして。
「ありがとう」
そう言って笑った。
だが。
その笑顔はどこか悲しかった。
放課後。
結衣は担任に呼ばれていた。
職員室。
悠真は偶然その前を通りかかる。
中から話し声が聞こえた。
「無理はしないでください」
担任の声。
「はい」
結衣の声。
「体調が悪いなら欠席してもいいんですよ」
「大丈夫です」
「白石さん――」
その先は聞こえなかった。
悠真は慌てて離れる。
盗み聞きするつもりはなかった。
だが。
胸の中の不安はさらに大きくなった。
帰り道。
結衣は珍しく元気がなかった。
会話も少ない。
駅前まで来たところで、
「少しだけ寄り道しない?」
そう言った。
二人は近くの河川敷へ向かう。
夕日が川を赤く染めていた。
「綺麗だね」
結衣が呟く。
「そうだな」
しばらく並んで座る。
静かな時間。
やがて結衣が口を開いた。
「神崎くん」
「ん?」
「もしさ」
少し迷うように言葉を探す。
「大切な人が突然いなくなったらどうする?」
悠真は驚いた。
「急だな」
「例えばの話」
真剣な表情だった。
悠真は少し考える。
「すごく悲しいと思う」
「うん」
「でも忘れない」
結衣がこちらを見る。
「忘れない?」
「ああ」
悠真は笑った。
「大切な人ならずっと覚えてる」
風が吹く。
結衣は俯いた。
その肩が小さく震えているように見えた。
「そう……」
小さな声。
「なら良かった」
その夜。
悠真はどうしても気になった。
結衣のこと。
体調のこと。
隠している秘密。
偶然では済まないほど不自然だった。
そして翌日。
学校へ行くと結衣は欠席だった。
ざわつく胸。
昼になっても来ない。
放課後になっても来ない。
心配で仕方なかった。
そんな時。
担任が職員室へ資料を届けるよう頼んできた。
悠真は職員室へ向かう。
資料を渡して帰ろうとした時だった。
机の上に一枚の紙が見えた。
偶然だった。
本当に偶然。
そこに書かれていた文字が目に入る。
「白石結衣 診断書」
心臓が跳ねる。
さらに見えてしまった。
病名までは読めない。
だが。
その下に書かれた言葉だけははっきり見えた。
「長期的な治療が必要」
悠真の頭が真っ白になる。
病気……?
結衣が?
先生が戻ってくる気配がして慌てて目を逸らした。
しかし。
胸のざわつきは消えない。
同じ頃。
病院の個室。
結衣は窓の外を見ていた。
夕焼けが広がっている。
手にはスマホ。
画面には悠真との写真。
「ごめんね……」
小さく呟く。
本当は話したい。
本当は隠したくない。
でも怖かった。
知られたら。
心配をかける。
悲しませる。
だから言えなかった。
しかし。
その秘密は少しずつ限界に近づいていた。
そして悠真もまた、
結衣の隠している真実へ近づき始めていた――。




