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『君の笑顔を忘れない』  作者: 優貴(Yukky)


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第4話 初めての休日

土曜日の朝。

神崎悠真は鏡の前で三度目の着替えをしていた。

「これじゃ子供っぽいかな……」

シャツを変える。

「いや、こっちは気合い入れすぎか……」

また着替える。

時計を見る。

待ち合わせまでまだ一時間以上ある。

それなのに落ち着かない。

理由は分かっていた。

今日は白石結衣と二人で出かける日だからだ。

デートではない。

ただ新しくできたカフェへ行くだけ。

そう自分に言い聞かせる。

だが、どう考えても意識してしまう。

スマホを見る。

結衣から昨夜届いたメッセージ。

『明日楽しみだね!』

その一文を見ただけで顔が熱くなる。

「重症だな……」

苦笑しながら家を出た。

駅前。

待ち合わせの十分前。

悠真はすでに到着していた。

落ち着かず周囲を見回していると、

「神崎くーん!」

聞き慣れた声がした。

振り向いた瞬間。

悠真は言葉を失った。

結衣だった。

白いブラウスに淡い青色のスカート。

普段の制服姿とは違う。

柔らかな雰囲気がとても似合っていた。

「お、おはよう」

「おはよう!」

結衣は笑顔で駆け寄ってくる。

「待った?」

「いや、今来たところ」

もちろん嘘だった。

三十分前には来ていた。

結衣は気づいていないらしい。

「じゃあ行こう!」

そう言って歩き出す。

悠真も慌てて後を追った。

新しくできたカフェは駅前の商業施設にあった。

休日ということもあり、多くの若者で賑わっている。

「すごい人だね」

「人気なんだな」

二人は列に並んだ。

待っている間も会話は途切れない。

学校の話。

好きな映画。

子供の頃の失敗談。

結衣は楽しそうに笑っていた。

そしてその笑顔を見ているだけで悠真も楽しくなる。

席に案内される。

窓際だった。

「わぁ、美味しそう!」

運ばれてきたパンケーキを見て結衣が目を輝かせる。

その様子がまるで子供のようで可愛かった。

「写真撮らないの?」

悠真が聞く。

「撮る!」

結衣はスマホを取り出した。

何枚も撮影している。

「神崎くんも入って」

「え?」

「記念!」

結衣は当然のように言った。

二人で写真を撮る。

その瞬間。

悠真の胸は大きく高鳴った。

カフェを出た後も二人は街を歩いた。

本屋に寄ったり。

雑貨店を見たり。

ゲームセンターで遊んだり。

気づけば昼を過ぎていた。

「楽しいね」

結衣が言う。

「うん」

本心だった。

こんな休日は初めてかもしれない。

時間があっという間に過ぎていく。

だが。

その時だった。

結衣の足がふらついた。

「っ……」

小さな声。

悠真はすぐに気づく。

「大丈夫?」

「うん」

そう答えるが顔色が悪い。

額にはうっすら汗が浮いていた。

「休もう」

「平気だよ」

「平気じゃない」

悠真は近くのベンチへ連れて行った。

結衣は観念したように座る。

しばらく沈黙。

風が吹く。

結衣は俯いていた。

「ごめんね」

「謝ることじゃないだろ」

「せっかくの休日なのに」

「そんなのどうでもいい」

思わず強い口調になる。

結衣が驚いたように顔を上げた。

悠真は続ける。

「無理して倒れた方が困る」

「……」

「最近も体調悪そうだったし」

結衣は何も言わない。

ただ少しだけ悲しそうに笑った。

「心配してくれるんだね」

「当たり前だろ」

その言葉に結衣の目が少し揺れた。

「ありがとう」

本当に嬉しそうだった。

しかし。

その笑顔はどこか切ない。

夕方。

帰る時間になった。

駅へ向かう途中。

結衣が突然立ち止まった。

「どうした?」

「ねぇ」

空を見上げる。

夕焼けが広がっていた。

「今日ね」

「うん」

「すごく楽しかった」

微笑む結衣。

「私、高校に入ってから今日が一番楽しかったかも」

「大げさだな」

「本当だよ」

結衣は笑った。

そして少しだけ寂しそうな顔になる。

「こういう時間がずっと続けばいいのにね」

悠真はその言葉に引っかかった。

ずっと続けばいい。

普通なら当たり前の未来だ。

だが結衣はまるで、

それが叶わないかもしれないと言うような口ぶりだった。

「続くだろ」

悠真は言う。

「え?」

「また遊べばいい」

結衣が目を丸くする。

「来週でも再来週でも」

「……」

「だからそんな顔するなよ」

結衣はしばらく黙っていた。

やがて。

ふわりと笑った。

「うん」

その笑顔は夕焼けよりも綺麗だった。

その夜。

結衣は自室で今日撮った写真を見返していた。

カフェ。

街並み。

ゲームセンター。

そして。

悠真と並んで撮った一枚。

結衣は優しく画面をなぞる。

「楽しかったな……」

小さく呟く。

だが次の瞬間。

激しい咳が込み上げた。

「ごほっ……ごほっ……!」

苦しそうに胸を押さえる。

咳が止まらない。

ようやく落ち着いた頃には呼吸も乱れていた。

机の上には病院の封筒。

診断結果。

薬。

そして次回の検査予定表。

結衣はそれを見つめる。

「まだ……大丈夫」

自分に言い聞かせるように呟いた。

そして再びスマホを見る。

画面には今日の写真。

悠真の笑顔。

それを見た結衣は少しだけ安心したように微笑んだ。

「神崎くん……」

その名前を口にした時。

胸の奥が少しだけ温かくなった。

だが同時に。

どうしようもない不安も広がっていく。

もし。

この幸せな時間が終わってしまったら——。

その答えを、まだ誰も知らなかった。

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