水面下の攻防
「ジルベール助かったわ。ありがとう」とフランソワーズとマルニ男爵はまるで恋人同士のように抱き合い頬にキスする。フランスではコレが、挨拶なんだと理解してるつもりだがドキドキする、伽椰子は慣れない。
「大変だね。ずっとあの調子かい?」男爵が義母をねぎらう。
「ええ、そうなの。他のスタッフに迷惑掛けたくないから私だけで対応してるんだけど、もう精神的に限界よ。」こめかみを抑えて深くため息をつく。
伽椰子は長谷川先輩ジョンと目を合わせる。
助けたいが伽椰子は元イジメられっ子なので、ああいう人の対応は相手を増長させそうでトラブルの元になりそうな気がする。
長谷川先輩もまだ治療薬をたまに飲んでいる。
留置所に居る間は定期的に出して貰っていたそうだ。
「すみません。私達2人共にクレーマーは相手出来ない体質なので。」伽椰子が頭を下げる。
「良いのよ。実家にジョンが帰ってきた時は私も少し鬱入ってて2人で病院通いしてたのよ。全然理由も教えてくれないし大学辞めてしまうかも?と心配したわ。」と貞子から伽椰子の話も聞いてるので優しく首を振る。
「ふむ、私が日本語分かれば良いんだが。全く話せないからね〜」ヒゲをいじりながらマルニ男爵も済まなそうな顔をする。
オフィス代わりにしてる元妃の部屋でフランソワーズが暖かいお茶を出してくれた。
片隅には天蓋付きベッドが置かれてるが、滅多に泊まることはない。
「どうしたの?やっぱりお城を返して欲しいの?」フランソワーズは意味ありげにマルニ男爵に話し掛ける。
男爵は咳払いしながら、「父が生前ずっと頭を痛めていた城をこんな立派に運営してもらって感謝してるんだよ。しかし…」 言いかける男爵の膝にフランソワーズが手を置く。
「私だって必死よ。今年の税金は領地も込みで800万だったわ。セールにも出してるけど誰も買ってくれないのよ…ジルベールが買い戻してくれても良いのよ?」フランソワーズはスゴい美人だ。そりゃ、長谷川先輩が生まれるはずの美貌だ。
「そ、そうだよね。これだけ整備し手入れして税金を5年も払ってもらってるんだ、そりゃタダとはいかないよね〜?」マルニ男爵がタジタジだ。
「今の客も水道や電気ガス、それに浄化槽のお金を寄付してくれたスポンサー1族なの。無下にはできないのよ。」とやっと手を引っ込めた。
「そうかい!それは、文句言われても我慢するしかないよね〜」とマルニ男爵のヒゲがヒクヒクしてる。
「ところで叔父さんは今何されてるんですか?昔は公務員だと聞いていたのですが?」長谷川先輩ジョンが聞く。
そう今日は月曜日。祝日でもない。こんな平日にマルニ男爵が突然来たのが気になっていたのだ。
「いやあ〜上司とケンカしてね。やりたい事もあったし辞めてしまったんだよ、ハハハッ」マルニ男爵は頭をかく。
元々血の気が多い家系なので、人とトラブった時はすぐ離れるようには代々しているそうだ。ヘタに我慢して決闘になる前に殴り倒してしまう事も多いのだ。
そのため没落したと言っても過言ではない。とフランソワーズから聞いた。
と言って、長谷川先輩のように我慢してメンタルやられるのも問題だし。
「まあまあ、大叔父さまが心配してた通りになったのね、ジルベール」フランソワーズが頭を抱える。
「面目ない。パリのアパルトマンを人に貸してね、この城に久々住もうかと思って来たんだよ。ゴメンね、フランソワーズ。」肩をすくめてジルベール・マルニ男爵がおどけて笑う。




