捜査
コテージに戻るとかなり気分の落ち込みが治まった。
ホームシックだと思っていたが、そんな悲劇が過去にあったとは。
「お母さんは花嫁として城に来てないから助かってるんじゃないかな?もしかして…お母さん、お父さんと何かあった?」あの女性の声を思い出しながら聞く。
「花嫁」だ。あの声は花嫁を呪い憎んでいた気がする。
「あっ、やっぱり気付いた?父が会社の女性ともう長いこと不倫しててね。母は日本でずっと鬱ぽくなってたんだ。だから反対に遺言であの城を任されてから、すごく明るくなって元気が戻ったんだよ!
それですっかり大叔母さんの話を忘れてたんだよ〜
なんであの城だけ母に贈与したのかも理由も忘れてたよ〜」長谷川先輩が冷蔵庫から肉を出してすき焼きを作ってくれる。
「生の卵は無いけど、気分だけね。そんな怖い夢見てたなんて!可哀想に。」と後からハグしながらスリスリしてくれる。うれしいけど心が重くなる。
「その花嫁はパリに戻っても治らなかったの?日本は?日本まで離れれば…」伽椰子は一縷の望みを掛ける。
「僕らはいつでも戻れるよ。ただ、映画を作って戻りたいとは思ってるんだ。遺体を見つけたいと伽椰子が言ってただろ。
それでドキュメントを撮りたいって気持ちがある。」長谷川先輩はイジメで殺されそうになってもカメラ回す人なので恐い。
「伽椰子はもう城に近づかなくて良いよ!母さんには言っとくし。コテージで仕事してて。
編集は日本でもパリでも良いけど、素材だけは城で撮影しときたいんだ。」すでに今日も撮影した分まで!
いつの間に!
しかし、男爵とジョンが一緒に居ると不穏な空気がある!
「あまり…深入りしないで欲しい。先輩が死んだら未亡人なっちゃう。」想像しただけで涙がハラハラ溢れる。「絶対、死なないし殺さない!誓うよ!」ジョンが膝をついて騎士のように誓いを立てる。
「ご夫婦は見つかりそう?生きてるなら早く見つけてあげないと!」少し心に余裕が出てきた。
「うん、男爵が実家にあった城の見取り図も持ってきてくれたんだ。それによると、今とかなり違うんだ。
昔は拷問部屋や牢屋があった場所が今は床になって入れなくなってるんだ。
とにかく全部屋チェックしてから、そこへ入る方法がないか探るつもりだよ。」伽椰子にも見せてくれた。
城は湖に浮かんでる訳では無くて、元々は山の中腹だった場所なので地下室が昔はあったのだ。
今はその入り口が消えている。
「三船家の人達の夜のアリバイは、ほぼ無い。
皆、12時頃に就寝したらしいが、それを証明できる訳では無い。
家族以外は男爵しか城には居なかったからね。
それに男爵が言う通り、息子さんがタクシーで帰宅したと言う記録が村のタクシーに無かったんだよ。
警察は夕方三船剛造と愛人がタクシーで出掛けて帰った記録を勘違いしてる気がする。」ジョンがあごを撫でながら話す。
男爵とクセが同じだ。
「エッ、そんな事あるの?」伽椰子が驚く。
「タクシー会社に警察から問い合わせはあったらしいけど、回数は聞かれなかったらしい。」伽椰子は目が点になる。雑な仕事過ぎないか?
「殺人事件とかじゃなく、観光客の失踪だからね。
そんなにキッチリとはやらないよ。」ジョンが苦笑する。
「じゃ、やっぱり村へ飲みに行ってないの?店さへ分かれば聞けるのに。」伽椰子は訳が分からない。
「ふふ、ココは田舎だから飲める店はそんなに無いんだよね。だから2件に電話したけど日本人の客は来てなかったそうだよ。」ジョンがニヤッと笑う。
「それは…つまり、食事の終わった長男夫妻を待って輝さんが2人を城のどこかに誘導したと?」伽椰子が聞く。
「そう、男爵が夜中に見廻りした時に輝さんにも誰にも会わなかったそうだ。つまり、夕食の7時から12時の就寝までに長男夫妻は城のどこかに閉じ込められた可能性が高い。」ジョンが説明する。
「じゃ、じゃ、早く探してあげないと!どこかに閉じ込められて苦しんでるかも?」伽椰子が浮き足立つ。
そこで気付いた。
「男爵が手伝ってくれと言ったのは、それなの?」急にすき焼きがのどを通らなくなる。
「うん、出来れば今夜中に助け出せたら…と思ったけど、まずは伽椰子が大事だから。
気にしなくていいよ。男爵が頑張ってると思うよ。
まずは各部屋を昔の見取り図で確認して隠し部屋とか無いか確認しないと。
地下室の入り口探しは、今夜、大広間に人が居なくなってから見回りのついでに男爵がやると思うよ。
安心して。」ジョンが慰めてくれるが、伽椰子は居ても立ってもいられない。
玄関に向かったがジョンに塞がれた。
「明日になったら僕が加勢に行くよ。伽椰子はダメ!
もう城に近付かない方が良い!」伽椰子は胸が痛くなる。
「もし輝さんが閉じ込めたなら、親子間に何か問題があったんだよ。伽椰子が心痛めることは無いからね。
あくまで男爵は三船氏から頼まれた仕事だから頑張るけど。
伽椰子は関係ないから!」ジョンにそう言われてテーブルに座らされた。




