悲劇
夫妻の部屋に戻ると2人は居なくなってたので、城の正門上の探偵事務所へ行った。ジョンが抱きしめる。
「どこ行ってたの?探したよ〜先にココにもどってるのかと思ったのに。」男爵の前なんだが、フランスに来てからは先輩はフランス式だ。
日本に居る時とちゃんと無意識に切り替えが出来てるのだろう。それは関西人なのに東京出て働いてる人が、新幹線の中で戻る時にシフトチェンジしてるのに近いかもしれない。
でも伽椰子は違う。
ココは未知の異国なのだ。
「うん、ごめん…」と言いながら押し戻す。
「伽椰子も相談に乗って欲しいんだ。良いかな?マドモアゼル?」男爵が気配を察して伽椰子にうかがう。
とにかくフランスの男性は女性に親切だ。村でもスーパーの扉の前で会うと全く知らない人でも扉を開けて待っててくれる。メルシーとお礼を言うと満面の笑みでホテルのポーターのように返してくれる。
素敵な事なんだけど、素敵な女性でいなくてはいけなくてプレッシャーを感じる。
ジャージにザンバラ髪でコンビニに深夜飛び込むような学生の時みたいな事は出来ない!
「私にできる事でしたら。でも、やはり迷信は恐いので5時になったら帰ります…昨夜、夢の中でジョンが馬に乗って前を城を目指して進み、私が花嫁の衣装で後ろを馬でついて行く夢を見たのですが…」伽椰子が言うと2人が真顔になる。
何か心当たりがあるのか?
「女性の恨みのこもった声と死の断末魔の声がして…まだ、耳に残ってるんです。」伽椰子が耳をふさぐ。
サーーーッと2人の顔から血の気が引く。
「ウソだ!話しを聞いたんじゃないの?ジョン、話したんじゃないか?」男爵がジョンに掴みかかる。
「いいえ!あの話は今だに信じられなくて!話してません!母も絶対話してません!」長谷川先輩が首を激しく振る。
「そんな…私の母はね、本当は父と結婚する予定じゃなかったんだ。姉が許婚だったんだよ。小さな時から。
だが17歳を過ぎた頃から、この城に遊びに来るのを嫌がってね。まだ避暑は親族でココで過ごしていたんだ。パリに戻っても怖い夢をみるとか言い出してだんだん情緒不安定になって、20で花嫁になるはずだったのに19で城の塔から身投げして亡くなったんだよ。
それから、もう避暑すらしなくなった、この城で。
皆、離れていったんだ。
だから父はこの城をできるだけ遠縁のフランソワーズに譲ったんだと思う。」男爵が暗い顔をする。
決闘で男子が死ぬのは全然気にしてないのに、この話はこの家系のご法度だったようだ。
「ごめん!伽椰子がデリケートなの知ってたのに!
母があんなに城で生き生き働いてるから、すっかり忘れてたよ!帰ろう!で、三船氏の長男夫婦見つけてバッカス祭終わったら、パリへ引っ越そう。
いい?おじさんのアパルトマンか大叔母のさんのメゾンの空き部屋貸してくれる。家賃は払うから!」長谷川先輩が男爵と即効段取りを決めた。
「良かったの?」帰りの車の中で聞く。
「ああ〜僕の決闘なんかより、それが1番の悲劇だよ。大叔父の葬儀でも、皆やっと花嫁は救われたね。と大叔母も姉のために泣いてたよ。
ずっと怖がって気持ち悪がってたのに、誰もちゃんと話しを聞いてあげれなくて。」長谷川先輩ジョンが青い顔をしている。
車から後ろを振り返る。
あの少年も気味悪がっていた。あの城には何か…きっと隠された名前のない恋人がどこかに眠っているのだ。




