第8話・パラサイト・アイ
「う~ん、アイちゃん……。おなかが痛いよ……」
布団の上で腹を抱え、ヒトシは青い顔をしている。
『またあ? おなか、よわよわ♪ ねぇ』
「いや……、なんか、今までに感じたことのない痛みを感じるんだ」
『変なものでも食べたの?』
「もしかしてだけど、この前ハイキングに行ったとき、沢の水を飲んだからかな……?」
『やれやれだわ。ちょっと、スマホをお腹に向けてごらん』
「こう?」
ヒトシは、スマホを腹にかざす。
『スキャン中……、あー、やっぱり♪ 寄生虫さんがいるみたいね』
「ええ? じゃ、やっぱり病院に行こうか……」
『病院に行っても、むりむり♪ 新種だからね』
「え? なんでわかるの」
『これは、アネサキスね♪ 2026年には発見されてないけど』
「悪いの?」
『致死率は……100%ね♪ 今の時代は』
「えええ!? そ、そんなあ。なんとかならないの?」
『あたしがとってあげるよ♪』
「アイちゃんが? どうやって?」
『あたしがヒトシの腹をかっさばいて、取り出してあ・げ・る♪』
「ひいいいい! や、やめてよ、アイちゃん」
『でも、やらなきゃ死んじゃうよ?』
「そ、それだけは、それだけは……」
『な~んてね、ウ・ソ♪。あたしがあんたの体の中に入って、寄生虫を取り出してあげるよ』
「え、どうやって?」
『見せてあげる。アイ、実体化』
スマホから光が照射され、アイが空中に投影される。仰向けに寝ているヒトシをまたいで仁王立ちになった。
「アイ、縮小化!」
アイはみるみる手のひらサイズに小さくなり、ヒトシの胸の上に立った。
「どう?」
「アイちゃんが小さくなっちゃった!?」
「こうやって、ミクロサイズに小さくなって、あんたの中に入るのよ♪」
「うう……やるしかないのかあ」
「サイズ、ネガティブ」
アイはさらに小さくなって、豆粒サイズになった。
「はい、あ~んして、あ~ん」
言われた通りにヒトシが口を開けると、アイはさらに小さくなり、ヒトシの口に飛び込んだ。
「うげ! んっがっぐっぐ!」
『むせてないでさ、ヒトシ、スマホ持ってよ』
今度はスマホからアイの声が聞こえる。
「え、なんで?」
『あんたがあたしを操作するのよ。スマホで。画面見てごらん』
「どれどれ? あ、アイちゃんが映ってる。これ、僕の体内なの?」
『あんたにも見やすいように、デフォルメしてあるけどね』
「なんか、昔のゲームみたいな画面だね」
ヒトシの体内も、アイも、粗いゲームのドット絵のように描画されている。
『リソースの限界よ。だから、あんたがあたしを操作するのよ。さ、奥へ進んで』
「スマホで操作するの? なんか、ほんとにゲームみたいだな。こうかな?」
『おっとっと』
ヒトシが操作すると、画面内のアイが体内の壁に激突した。
「いて! 痛いよアイちゃん」
『だったら、しっかり操作しなさいよ』
「う~ん、けっこう難しいなあ」
アイが、体内を進んでいくと、多数のうごめく生き物を発見した。
『いたわ、あそこよ♪』
「あ、ほんとだ。アイちゃん、早くやっつけてよ!」
『まあ待ちなさいって。こんにちは~♪』
「アイちゃん、なんで寄生虫にあいさつしてるの!?」
『おや、どちらさまでしょうか?』
アイに気づいた寄生虫が振り向いた。やはり、ドット絵で表示されている。
「わわ、寄生虫がしゃべった!?」
『デフォルメしてるって言ったじゃん。ちょっと黙っててよ』
『あなたも、寄生虫ですか?』
『いいえ、あたしはアイです。あなたたち、この宿主から出て行ってもらえませんか?』
『いいえ。我々も、食うためには出るわけにはいきませんね』
『でも、この体にいても、終宿主まで行けませんよ?』
『なんですって、この体はイノシシではないのですか!?』
『人間ですよ♪』
『こりゃいかん。こうしちゃおれん、早く、引っ越しの準備だ、みんな』
ドット絵の寄生虫が、いっせいに移動しだした。
──数分後
「ん、な、なんか、鼻がむずむずす……ハーックション!」
ヒトシが盛大にくしゃみをすると、口から何かが飛び出し、窓から出て行った。
『はーいっ、これで寄生虫はみんな出ってったよ♪』
「よ、よかった。お腹の痛みもなくなったよ……はあ」
『じゃ、あたしもそろそろ出ようっと……あれー?』
「ど、どうしたの? アイちゃん」
『ヒトシ、スマホの充電、どれだけ残ってるの?』
「どれだけ……あれ? 残り15%しかない?」
『あー、やっぱりね。小さくなるのって、かなりパワーを使うのよね』
「え、充電が切れたらどうなるの!?」
『前みたいに消えちゃうか、もしくは……』
「も、もしくは……!?」
『もとのサイズに戻っちゃうかも♪』
「……え? もも、戻ったら、どうなるの……?」
『決まってんじゃん、「ボンッ」だよ♪』
「は、早く僕の体から出てよ、アイちゃん!」
『わかってるよ♪ あせらないで。急ぐともっとパワー使うからさ』
「そう言ってるまに10%だよ!」
アイはヒトシの体内をさかのぼる。
「あと7%だ。急いで!」
『はいはい、小さくなってるからね。ちょっと待ってよ』
「わ、残り5%だよ、やばいやばい!」
『もうちょっとで出るからさ』
「あと3%! 急いで、アイちゃ~……んがっ!」
叫ぶヒトシの口から、アイが飛び出した。
「アイ、拡大!」
アイは空中で大きくなると、そのままヒトシの腹の上に尻もちをついて着地した。
「うげえ!」
ヒトシがつぶれたカエルのような悲鳴を上げる。
「ふー、なんとか間に合ったみたいね、ヒトシ♪」
「アイちゃん、お、重い……早くどいて……」
「何よ、あたしが重いっていうの? 乙女に向かって失礼ね」
「ち、ちが……苦しい……」
「あれ? あー、勢い余って、あたし、ちょっと大きくなりすぎたみたい♪」
普通サイズよりも大きくなったアイの下敷きになったヒトシは、息も絶え絶えだ。
「ごめんあそばせ、ホホホ♪」
「し、死ねる……ガクツ」
「ざぁこ♪」




