第5話・金欠サバイバル術
「あ~、金がない。お金がないよ~。アイちゃん」
『あんた、そればっか言ってるじゃん』
「今回はマジなんだ。次の給料日まで、1日50円で生活しないといけないんだ」
『子供のこづかいかな? おなか、ぺこぺこ♪ なのね』
「とにかくさ、お腹が空いてしょうがないよ。食べ物をなんとかしないと」
『断食でもすればぁ? 体にいいらしいよ』
「2週間もやったら死んじゃうよ。それにさ、電気料金が払えなかったら、スマホの充電もできないよ? アイちゃん」
『は~、しょうがないわね』
──由々四季公園
『はい、それ。タンポポは食べられるよ。あ、それからツクシね』
「ツクシかあ、昔食べたことあるよ」
『ちなみに、さっき犬がそこでオシッコしてたからね』
「おえっ。後で洗わないと……」
『こっちにヨモギもあるよ~♪』
「あっほんとだ。あれっ……」
ヨモギが、ヒトシの視界から消えると、とつぜん現れた老婆の手に握られていた。
「あ、おばあさん。それ……」
「おっと、これはあたしが先に見つけたんだよ」
そう言い捨てると、老婆とも思えぬ素早さで、どんどん野草を集めていく。
「あわわ。お婆さん、僕にも採らせて……」
ヒトシが情けない声を出すと、老婆は鋭い眼光で応えた。
「欲しけりゃ自分で採りな!」
「よ、よし。ああ……、でも、お腹が空いてダメだよ……」
ヒトシはへたり込んだ。
「これ、ばあさん。そんなに意地悪するもんじゃないよ」
いつの間にか、老婆のそばに夫らしき老人が立っている。
「じ……、じいさん!? どうして」
「困ってる人には親切にしてあげなさい」
それだけ言うと、老人は光の粒になって消えていく。完全に消えると、老婆はしばらく空中を眺めてから、ヒトシに振り向いた。
「あんた。これ持っていきな」
老婆は野草の入った袋を差し出した。
「え、いいんですか?」
「久しぶりにじいさんに会ったよ。幽霊だったんかの。よく言ってたんじゃ、人には親切にしろって。爺さんが死んで、すっかり忘れてたよ」
「あ、ありがとうございます!」
ヒトシが礼を言うと、満足げな表情で、老婆は帰って行った。
「……ねえ、アイちゃん。もしかして、さっきのって……?」
『あたしだよ♪』
「やっぱり。でもさ、なんでお爺さんの顔がわかったの?」
『は~。前にあのお婆さんが小銭を拾ってたとき、財布にちらっと保険証が見えてたのよ。そこから身元を追跡したの♪』
──ヒトシの部屋
「よ~し。よく洗って、と。いただきま~す」
『あ、ちょっと……』
「に、苦い!! うげっ、ぺっぺ」
『当たり前じゃん。そのまま食べるなんて。せめて茹でないと』
◇ ◇ ◇
「いっただきます。……うう、まだ苦い。でもなんとか食べられるかな」
──3日後
「あ~、お腹すいた」
『あんた、そればっか言ってるじゃん』
「あれだけの野草じゃ、腹の足しにならないよ。あ~、米が食べたい」
『じゃあ、もっと生えてるとこ、行く?』
「ど、どこへ?」
──近所の低山
「はあ、はあ……。確かに、ここならたくさん生えてるね」
肩で息をしながら、ヒトシは山道を歩くが、傍らで実体化しているアイは、涼しい顔だった。
「さっさと歩けばあ? ナメクジなみの移動速度なんだから」
「運動不足だからね……はあはあ。あ、これ、ワラビじゃない?」
「あ、そこ……マムシいるよ」
「ええ!? ほ、ホントだ! どどどどうしよう!?」
「あ~ダメダメ、騒いじゃ……」
マムシが、体温のあるヒトシのほうに飛びかかった。
「わわっ!」
「ほっ♪」
アイは、マムシを空中でキャッチした。その動きは素早く、ヒトシの眼には見えなかった。
「あ、危なかった……。ありがと、アイちゃん」
「反射神経、おっそ♪ でも、これで食べ物が増えたじゃん」
マムシをヒトシの前に突き出した
「げげ……、このマムシを食べろっての……?」
「なんなら、その辺の虫も食べられるよ? 今のヒトシには、貴重なタンパク源よ♪」
「う……おえっ」
──ヒトシの部屋
「うう……。なんとか食べた。トラウマになりそう」
『ごちそうだったじゃん♪』
「でも、まだお腹すくよなあ。あ、そうだ……」
ヒトシはキッチンのすみの容器をのぞき込んだ。
「お婆さんにもらった野草が残ってたんだ。あく抜けてるかな……」
──次の日
「は~、なんとか乗り切ったな。今日、給料日だったし」
『ふ~ん、がんばったね。ざぁこ♪ のヒトシにしては』
「ちょっとだけいいものを食べようっと……。でも、う~ん、なんだかお腹の調子が……」
『どうしたの? お腹、よわよわ♪』
「ちょ、ちょっとトイレ言ってくる」
「くっさw スマホをトイレに持ってかないでね♪」
──翌日
「うう……。これで何度目のトイレか」
「はい、すみません。今日のバイトは休みます。……はい」
「僕の声? 何やってんだよ、アイちゃん」
「休みの電話、入れといたよ♪」
「は~、給料が減っちゃうけど、しゃあないか。というかさ、アイちゃん」
「なあに?」
「今、フツーにしゃべってなかった? メスガキ仕様しかできないって言ってたような……?」
「どうでもいいじゃん、そんなこと。細かいこと気にしてるから、ざぁこ♪ なのよ」
「あ~、それにしても。病院代もかかったし、結局また金欠だよ。でもさ……」
「何よ」
「でもさ、ちょっと野草に詳しくなったよ」
「そう? ちょっと代償が大きかったね。ところで、この野草だけどさあ」
「あ、それ。お婆さんにもらったやつ?」
「毒草、ちょっとだけ交ざってたよ♪」
「え……、じゃあ、この腹痛はそれのせい……」
「あったり~♪」
ヒトシは床の上に倒れ込んだ。




