第6話・ワイルドで行こう ~ヒトシvsワイルド~
「ねえアイちゃん。僕、次の休みに、ハイキングに行こうと思うんだ」
『はあ? 足腰、よわよわ♪ のくせに? なに言ってんの?』
「いや、ほら、山の男ってたくましいイメージじゃん?」
『だから?』
「だ・か・ら~、山の男になって、僕のひ弱ってイメージを払拭すれば、みんな僕を見直すんじゃないかなーっと思って」
『むりむり♪ でも、ま。好きにすればあ?』
──数日後
「ここだよ。ここが登山口だよ」
『なになに……「高笠巣山」? なんでまた、こんな人けのない山にw』
「人がいないほうが、ワイルドっぽいじゃん?」
『はあ~っ、なんかやな予感♪』
──10分後
「はー、いい気持だな。自然がいっぱいで空気もいいし。元気になってきたよ」
『ちょっろ~い♪』
──30分後
「はあ……はあ……、もう歩けない。つらい……死ねる……」
『やっぱり。なっさけな~い♪』
「息が苦しくて、心臓が爆発しそうだよ。暑いし、のど渇いた」
『水筒は?』
「全部もう飲んじゃったよ」
『ざっこ♪ ぐびぐび飲むから』
──10分後
「や、やっと着いた……。ここが山頂かあ。あ、あそこから町が見えるよ」
『らくしょ~♪』
「ああ、やっぱり来てよかったよ。いい景色だね。自然に囲まれて」
『人工林だけどね♪』
「さてと、……ん? わっ! ハチだよ、ハチ! ……あっちいけ! この、このっ! 痛てっ、痛てててっ!」
『あ~あ、刺激しちゃダメなのに♪』
「あー、痛たた。ん? わっ、いっぱいいるじゃん! ってか、巣?」
『やれやれだわ……アイ・実体化っと♪』
スマホの外に投影され実体化すると、アイは目にもとまらぬスピードですべてのハチをキャッチした。
「はい♪ もう、さっさと帰ったほうがいいよ?」
アイが手を開くと、ハチがヒトシの前にパラパラと落ちた。
──下山中
「えっと、地図アプリによると、こっちの道からも下山できるって」
『やめときなってw』
「でも、同じところに着くんだよ? 大丈夫だって」
『あんたさあ、登山のセオリーをことごとく破ってるね♪』
──20分後
「うう……、道に迷った……」
『だ~か~ら~、言ってんじゃん。耳、すかすか♪ なの?』
「うう、脚がパンパンだよ。おっかしいな~? GPS通りなのに。こっちかな? でも道が悪くて、足もとがよく見えない……わっ!」
足を滑らせて、ヒトシは道から何メートルか下に転げ落ちた。
「痛たた……もう歩けないよ。疲れた……お腹すいた。のどがカラカラだよ」
『なっさけな~い♪ それでも男の子なの?』
「え? 何だ、あれ?」
茂みの向こうに、黒い塊がもそもそと動いた。
「も、もしかして、熊?」
『ツキノワグマじゃん♪』
「こ、怖い。でも、熊って人間を見ると逃げていくって……」
熊がヒトシに突進してきた。
「逃げるどころか、向かって来るよ。わわわ…!」
『あ、ダメだって、逃げちゃ。あれは威嚇なんだから』
「そ、そんなこと言ったって。わわ、は、速い!」
ヒトシは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「……あ、あれ? どうしたんだろう。来ないな」
恐る恐る目を開けると、ヒトシとツキノワグマの間にもう1頭の熊がいる。
「わ、これってヒグマじゃないの!?」
ツキノワグマが吠えると、ヒグマはさらに大きい声で吠える。ツキノワグマは回れ右をし、尻尾をまいて逃げて行った。
「1頭が逃げたのはいいけど、もっとデカいのが残ってるじゃん。あわわ……」
ヒグマはヒトシに向き直ると、ゆっくりと近づいてくる。
「ひいい。い、命ばかりはお助けを……」
「かっこわるすぎ~♪ ヒトシ、あたしに命ごい?」
ヒグマが言った。
「この声は!? も、もしかして、アイちゃん!?」
「当ったり~♪」
大きなため息をついて、ヒトシは座り込んだ。
「助かったあ~……。もうその姿はいいよ。アイちゃん」
「ざぁこ♪ びびりすぎ~」
ヒグマの体に一瞬ノイズが走り、アイの姿に戻った。
「あれ、アイちゃんの身体、チラついてるよ?」
「ちょっとパワー使いすぎたかな?」
「あ、スマホの電池があと1%しかないよ!」
「あれれ~?」
スマホの画面が暗転すると、アイの姿もノイズとともに消えた。
「アイちゃんが消えちゃったよ。スマホの電池がないからGPSも使えなくなったよ。帰れるかな……」
ヒトシは、山中をさまよった。
「ギギギ……のどがカラカラだ。あ! こんなところに水が湧いてる。ゴクゴクゴクゴク……!!」
──1時間後
「うう……ひ、ひどい目にあった。でも、なんとか戻ってこられたよ」
ヒトシは登山口にへたり込んだ。
──翌日
「うう、脚が筋肉痛だし、身体があちこち痛い……。おまけに、なんかまたお腹が痛い……」
『は~、なっさけな~い♪』
「でもさ、なんか、ちょっとワイルドになった感じかな?」
『どこがよw 相変わらず、ざぁこ♪ じゃん』
「そんなことないよ。山でサバイバルしてきたからね」
『ふ~ん。これでも?』
アイの映るスマホの画面が切り替わり、代わりにヒトシが映し出された。
≪ひいい。い、命ばかりはお助けを……≫
スマホからヒトシの声がする。
「こ、これは、昨日の僕……!? アイちゃん、いつの間に録画を……」
『これでもワイルドかな? この動画、SNSで拡散してあげよっか?』
「や、やめてよ! 消して消して」
『う~ん、どうしよっかな♪』
「なんでもするからお願い!」
『あんた、な~んにも出来ないじゃん。ざぁこ♪』




