第3話・春はトキメキの季節? ~沈黙の春と鳴かないウグイス~
「ねえアイちゃん、ちょっと聞いてよ」
ヒトシは、アイが映るスマホをすがりつくように抱えて言った。
『なあに? あたし今、スマホのゲームやってんのよ』
「AIがゲームするの? でさ、今、バイト先の新人でさ、可愛い娘がいるんだけどさ」
『へ~、女の子を意識してんだ。ざぁこ♪ のくせに』
「で、なんとかデートに誘えないかな~って思ってるんだけどさ」
『誘えばいいじゃん?』
「だって、緊張するよ……」
『やっぱ、ヒトシってざこすぎ~♪』
「……言うと思ったよ」
ヒトシは唇をとがらせた。
『向こうはあんたのことを何っとも思ってないんだから、緊張してもしょうがないじゃん? あんたは、緊張する権利すらないのよ♪』
「辛辣すぎない? アイちゃん」
『だ・か・ら、声かける以外に方法ないじゃん。そんなことでうじうじ悩んでるから、根性なし♪ なのよ』
[電池残量■■■■□ 80%]
──次の日、ヒトシがバイトに行くと、件の女の子が出勤していた。他にはまだ誰もいない。
「あ、お、おはよう。雪村さん」
「おはよう、ヒトシくん」
(わあ、雪村さんていつもキラキラしてるよ。僕とはオーラが違う)
雪村は、屈託のない笑顔を見せた。その顔に見とれていたヒトシは、我に返った。
「あ、あのさ。雪村さん……」
「ん? 何?」
「いや、……何でもないよ……」
『今度の休み! 僕とどっかに遊びに行きませんか?』
(な、なんだ? スマホからぼくの声が……!? アイちゃんか?)
「……」
雪村の表情が曇った。ヒトシはあわてふためいて、パントマイムのように手をパタパタさせた。
「ゆ、雪村さん。今のは何でもな……」
「……うん、いいよ。ヒトシくん」
雪村は、また笑顔に戻った。
「え、いいの?」
「ちょっとびっくりしただけ。まさか、ヒトシくんがそんなこと言うなんて」
[電池残量■■■□□ 60%]
──部屋で1人、ヒトシは踊っていた
「あ、アイちゃん。雪村さんがOKしてくれたよ! うきょきょ」
『あたしのお陰よ? 感謝しなさい、ざぁこ♪』
「どれ着ていこうかな。これかな。一番いい服にしようっと」
『ヒトシ、そのポロシャツが一番いいやつなの……?』
[電池残量■■□□□ 55%]
──3日後。近所の由々四季公園を歩くヒトシと雪村。2人は歩いていた。ひたすら無言で歩いていた。
ふと、ヒトシのスマホがバイブした。
≪ヒトシ、なんであんた、さっきからひと言もしゃべらないのよ≫
(あれ? アイちゃんの声が?)
≪骨伝導だから、他の人には聞こえないよ。それより、なんかしゃべりなって≫
(そんなこと言われても……)
「ヒトシくん、何か言った?」
「あ、雪村さん。ううん、何でもないよ」
(……困ったな。そうだ! この前みたいにさ、アイちゃんがしゃべってよ?)
≪や~~~だもん♪ 自分でやりなよ、はずかしくないの~?≫
(あ~、な~んにもしゃべることが思いつかないよ~。……そうだ!)
「あ、あの。雪村さん……」
「なあに? ヒトシくん」
ヒトシの顔をじっと見る雪村。
「あの……、今日、いい天気ですね」
「そうね」
雪村は微笑んだ。それ以降、沈黙のまま2人の時は過ぎて行った。
[電池残量■■□□□ 40%]
──部屋に帰るなり、ヒトシはスマホを放り出し、布団に突っ伏した。
「はあ~、ぜったい雪村さんに嫌われたよ」
『あんたさ、なんで何にもしゃべらないの?』
「緊張して、頭が真っ白になってさ。よく覚えてないんだよ」
『はあ~……。……ざぁこ……』
[電池残量■■□□□ 35%]
──翌日、ヒトシがバイトに行くと、控室で話し声がする。1人は雪村のようだが、よく聞こえない。
聞き耳を立てていると、スマホがバイブした。
『ざぁこ♪ スマホ持ってみなよ』
アイに言われるままにヒトシがスマホを出すと、壁の向こうの声がスマホから聞こえてきた。
≪……そうだよね~≫
「聞こえる! 雪村さんの声だ……」
『黙って聞きなって♪』
≪……でさあ、雪村ぁ。あんた、ヒトシくんとデートしたんだって?≫
≪うん≫
≪ヒトシくんのこと、好きなの?≫
≪ううん、全っ然≫
≪だったらやめなって。変に期待させるの、かわいそうだよ?≫
ヒトシはドアを開けた。
「そうかな? ……あ、ヒトシくん。おはよ」
「お、おはよう。雪村さん……」
──その日1日、ヒトシはいつにもまして覇気がなかった。
[電池残量■□□□□ 20%]
「あ、アイちゃん……、聞いてよ」
『なあに? あたし今ゲームやってんのよ』
「……僕、雪村さんから、始めっから完全に相手にされてなかったみたいだよね」
『かわいそ~♪ だからあたしが言ったじゃん。ヒトシには、恋に悩む権利すらないのよ。恋愛弱者♪ なんだから』
「ひどい……。ところでさ、今日、別のバイトで新人の可愛い女の子が入ってさ……」
ヒトシは目を輝かせ話し出した。
『あんた……、立ち直り早いね』
[電池残量□□□□□ 05%]
『はい、ヒトシ。こんなのダウンロードして、どうすんの?』
何かのテキストが、スマホの画面に表示されている。
「これを読んで、次に備えるんだよ。アイちゃん」
『え~っ? なになに、【モテる男の会話術 ~「また、ダメだったのね」とは言われない~】……』
ヒトシは、真剣な表情でスマホに映し出されたものを読み始めた。
「なになに、『まず最初は、服装を褒めろ!』だって……ふんふん」
『はあ~……。……ざぁこ……』




