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フラグはもう折らない。俺氏、フラグ譲る

迷った時に通っていた道を通り過ぎ、人気がない体育館へと向かう。

この時ばかりは迷ったことに感謝せざるおえない。方向音痴な俺でもここまでスムーズに目的地まで移動できるのは迷った時の経験があったからなのだ。


「次、左だ」

「はい」


誰に教えてもらうでもなく、こうして広い土地を迷うことなく進むことが出来るというのは思っていたよりも気持ちいい。


「次の角を右に曲がれ」

「はい」


敷地内の木から木へと渡るカラスが、この栄光を讃えるのように「バーカー」と鳴いている。もしかしたら、夢だったはじめてのおつかいに出られるかもしれない。


「おい、お前俺様に道案内してもらってる身だよな?」

「サッパリ、イミワーカリマセーン」

「なに、自分の力で道を進んでるかのように言ってやがんだ。あと、全部ダダ漏れだぞ」

「もうっ、口に出したいからってイっていいときと悪い時があるんだぞ♡」

「いちいち言い回しが卑猥なんだよ、テメェ!!」


そんな軽口を挟みながらも、足は休めない。

体育館に繋がる渡り廊下に差し掛かったとき、俺様会長の眼光が鋭くなる。


「これは......要の匂い............と、血の香り?」


兄貴の匂いて......やっぱり犬だったか。

そんな呑気なことを考えていた俺だったが、俺様会長が少し置いて放った『血の香り』という単語に頭が真っ白になる。


「お、おい!」


俺は俺様会長の手を乱暴に離すと、がむしゃらに足を前へと動かす。

足がもつれて転びかけるが、体制を立て直すと足を動かす。近付いているにも関わらず、何も聞こえないことに焦りを覚えながらも、情事らしき音が聞こえないことに安堵する。


再度足がもつれ前に倒れそうになっとき、右手首に何かが巻きついてきた。

側から息切れのようなものが聞こえることから誰かに掴まれたということは察せるが、そんなことよりも歩みを止められたことへの苛立ちが生まれる。


「お前一人でどうにかなる問題じゃねぇだろ、そのために俺を呼んだんだろテメェはよ?」

「......ありがとうございます。お願いします兄貴を助けて下さい!兄貴は俺の大切な............」

「兄貴......だろ?」


間一髪でそう問う俺様会長の顔は色々な感情が混ざり、歪んでいた。そこから、俺様会長がどんな言葉を望んでいるのか分かってしまった。


「......っ、はい。大切な兄貴です」


どんな顔をしていただろう。上手く笑えていたのだろうか。

そんなこと、お望み通りの答えを出してあげたのにも関わらず、苦しそうに眉を下げる俺様会長を見れば一目瞭然だ。けど、これで俺がどんなに中途半端だったか思い知った。保健室での兄貴の悲痛な訴え、それら全て中途半端だった俺の責任だ。


俺が兄貴に抱いている感情は独占欲に違いない。この感情を恋と勘違いする程愚かではない。けれど、この独占欲が兄貴の好意を拒みきれない要因となり兄貴を苦しめていた事には変わらない。


「兄弟として......なんて無理だろうな」


きっと、これからも兄弟としていて欲しいと俺が言ったなら、独占欲は強くとも俺が本気で嫌がってると判断したら引く兄貴のことだ。自分の感情を押さえ込んでても頷くだろう。だが、それではダメだということに俺も気付いている。


これ以上、兄貴を苦しめたくない。中途半端にモブにもなりえない俺が加入するべきではなかった。何がBADENDだ、そんなものより兄貴を苦しめているのは俺ではないか。


「何か言ったか?」


眉をひそめ訝しげな表情でこちらに顔を向ける会長を、真剣な眼差しで見つめる。


「いいえ、何も言ってませんよ。そんなことより、今にでも助けに行きたいんでしょ?行ってください。兄貴を助けて」


会長はゴクリと喉を鳴らすと、きりりとしている目を閉じた。


「お前に言われなくとも、行ってる」


次に目を開いた時には会長の瞳は兄貴が居るであろう体育館を向いていた。俺に手を引かれていた時より何倍も速い速度で駆けて行く会長を、ただただ見つめる。


「これで......いいんだ。余計な奴は居なくていい。本来のゲームのシナリオに......」


雨が降ってきたのだろうか。前がぼやけて見えない。そういえば、渡り廊下には屋根が付いていたな。そっか、これは......


「......」


こんな展開がゲームにあったような気がする。


雨の中一人佇みながら涙する要。そんな要が自身の涙を涙と認識するより先に顔にパーカーが掛けられる。パーカーが邪魔でパーカーを掛けてくれた人物は見えないが、パーカーの確かな温もりだけは感じられる。その日、顔も名も知らない人物に恋した要は卒業までに持ち主を探し告白するという一途でロマンチックなストーリー。


「モブにもなりえない腐男子にはかけるパーカーもないってか」


ぐちゃぐちゃの心情を馬鹿な俺がまとめられる訳もなく、目を背けるかのようにこの世界の題材であるゲームのシナリオを頭に浮かべる。ここで涙を流し続けていてもパーカーをかけてくれる攻略者も慰めてくれる兄貴も居ない。


「ぶほっ、な......、」


気持ちを切り替えるつもりで......それもあったが、第一に目に溜まった涙を流さないように上を向いた俺の顔面に何処からか降ってきた一枚の紙が被さってきた。


衝撃で涙が引っ込んだ俺はそれを両手で持ち、その紙を見る。


「答案用紙......?」


この高校はもしかしなくとも名門高校である。子供をこんなに学費のかかる学園に行かせるぐらいの親の息子のことだ、答案用紙を親に提出するぐらいの義務ありそう。


でも、俺に届けるような義理ないし


「せっかくの俺のシリアスモードも邪魔してくれちゃってさー」


そんなことを思いながらも、答案用紙の名前の欄を一番に確認している俺は相変わらずお人好しなのだろう。それに、シリアスモードは俺には合わないようだ。


「性にあわないシリアスモードを突破らってくれた答案用紙様の顔を立てて、飼い主でも探してあげましょうかね」


そう言いながら、俺は何気ない動作で答案用紙に軽くキスをする。


「答案用紙様の飼い主は何で名前の部分を隠してるんでしょうねぇ......」


俺には到底理解できないような数字が夥しい数連なっている数学の答案用紙には『95』という俺が小学校を上がってから一回も取ったことのない数字が書かれていた。

そんな優秀な答案用紙には似つかわしくないマジックペンで荒々しく塗り潰された本来名前を記入する筈の部分には妙に興味をそそられる。


「優等生の裏側激写〜」


写真は撮ってないから、激写ではないのか。そんなくだらないことで頭を埋める。お陰で先程のことをあまり思い出さないで済むようになった。俺は渡り廊下から出ると、笑みを零す。


「雨、降ってないじゃん」


曇り空などではない橙色の雲がこちらを見下ろしている。地が夕焼け色に染まり、俺の影が縦に伸びていた。


「寮に戻んないと」


寮の門限は22:00だが、転校したてで部活に入っていない俺は早めに帰ることにする。寮生活と言えば食事の面が少し心配だったが、流石金持ち高、一流シェフが手ずから作った料理が食べられるらしい。

中には家から専属シェフを連れてくる生徒も居るらしいが、学園のシェフは別格......らしい。俺は食べたこともないし高い店に行ったこともあまりないので食べたところで分かる自信もないが、専属シェフを家から連れてくる生徒が少数派ということから、学園のシェフの料理の腕は自ずと察せるだろう。


運が良かったのか答案用紙は俺の涙により濡れていなかった。

自分のポケットに答案用紙を折って入れようと思ったが、折るという行為に引け目を感じた俺は両手で持つことにした。そして俺は寮への道を歩いた。


「......」


そう、俺は寮へと確かに進んで行ったのだ。


「......」


着々と寮へと近づいて行っているのを感じる。


「Q.俺が誰かの案内なしに寮に行けると思いますか?A.答えはNoです」


一人でA.Q劇をした後、その場にしゃがみこむ。


「そう言えば俺方向音痴だったぁぁぁぁ!!ついでに寮への道は兄貴に案内してもらってたんだったぁぁぁぁ!!

......兄貴居ないと本格的に野たれ死ぬ自信しかない」


職員室に行くという手もあるが、今日の竜にぃの奇行があったてまえ竜にぃに合わせる顔がない。そういえば、竜にぃのエツィのお相手になるはずだった男性職員は大丈夫ったんだろうか。死んでたよな......うん、きっと大丈夫。身内から殺人鬼は出ない。むしろ、大丈夫であって貰わないと困る。


「かといって、生徒に聞くのもな......」


今朝の件でクラスメイトは俺に良い印象は持ってないだろう。

クラスメイトではない他のクラスの人間に聞くという手もあるが、俺の顔を知らないという確証もない。ここは俺の運と勘を頼るしかなさそうだ。


そうして俺は森へは近付かないようにしつつ学園内をくまなく歩き回った。

それが間違いだったのだ。寮は小さめの森を抜けた所にあった。おかけで門限ギリギリで寮に着くハメになったのだった。やっと着き、高等部の一年生から三年生全員が住む寮とあって縦にも横にも広い寮を見上げる。


「にしても、本当にでっかいよな......ここで日々BL的展開が繰り広げられてるって考えたら、ニヤニヤが止まりませぬ......げへへ」


門限も忘れ寮の前でニヤニヤしていた俺だったが、流石に危機感を覚え寮のだだっ広いロビーの中に入る。土足で入るロビーなのにも関わらず、ホコリも汚れひとつさえも見当たらないロビーを掃除している人はかなりの手練と見た。


ロビーの時計を見ると、7:49と表示されていた。おお、結構余裕だな......一年生は一階だから、早く着くし。

俺は部屋まで行きポケットからカードキーを取り出そうとする。だが、いくらポケットの中をまさぐろうともカードキーを見つけることは叶わなかった。


「まて......そういえば俺どうやって部屋に入ってた......?」


記憶を辿り、昨日部屋に入った時の記憶を掘り起こす。


「そうだ......そうだ!兄貴だ............っ、!!」


ここまで兄貴任せだったとは......。昨日は確か兄貴に開けてもらったのだ。そして、俺では無くしてしまう危険性があると兄貴に言われ兄貴にカードキーを預けたのだった。


「ということは......」


嫌な予感がし、ドアに表示されている時間を意識して目に入れないようにする。

ここでドアを叩いたとしても、完全防音を謳っているこのドアから中の部屋に音が届くことは無いだろう。そして、俺の声も。だが、そんなことをしたとしても意味が無い。何故なら、自身のカードキーでドアを開けなければ門限内に部屋に入ったとは認められないからである。


「寮長のいる所に行かなきゃ......」


寮長が居るのはロビーの真正面にあるカウンターのような部屋の奥だと思う。

なぜ『思う』と曖昧なのかと言うと、カードキーを貰う時に兄貴と共に行こうとしたのだが、兄貴に止められ部屋の前で待っていたのだ。王道設定であれば寮長は男好きで仕事中も男と盛っているという感じだろうか。だが、今回ばかりは仕方ない。


べ、別に!あわよくば寮長と生徒の情事が見たいとか思ってないし!


「ツンデレは無いな。うん」


そんなことを思いながら、とぼとぼと寮長の居る部屋に向かった。

ロビーに着くと、意識せずと時計が目に入る。時計の針は7:55を指していた。本格的に危機感を感じた俺は寮長室の前に立つと、扉を二回ノックした。


「......」


だが、一向に扉が開く気配はない。この部屋の扉も防音なのか中の音も聞こえやしない。けっ、

この際、門限内に部屋に入れなかった要因として寮長の職務放棄を挙げてやろう。そうなったら、生半可なノックではダメだ。しっかり叫んだり、扉を叩いたりして『え?大きな声で呼んだり、扉だって叩きましたけど?その上で気付かなかったの貴方ですよね?』という自分がされたらクソうざいスタンスで行ける体勢を作ろう。


「出てこいや!この年中発情男!お前は犬か?あっ、脳みそが下半身にあるんでしたね〜......ぷぷぷっ」


防音であることを知っている俺は言いたい放題を言う。だって聞こえてないんだもん。次は扉を叩いてやろう。そしたら帰る。同室に開けてもらうよう言えば開けてくれるだろう。......開けてくれるよね?


そんなことを考えながら扉に拳を向け、振り上げる。

だが、俺の拳が扉に当たることはなく、生暖かい人肌に着地した。あ、詰んだ。


「あら、人を年中発情しているとか言っておきながら、早速セクハラかしら?」


中から出てきたのはキラキラとバックに花を抱えるイケメソでした。あ、鬱だ死のう。

いや、よく見たら女性に見えなくもなくもない。カールしているマロン色の髪は腰あたりまで伸びており、分け目は左寄りである。今は結っているが、髪を掻き上げる仕草はさぞ美しいのだろう。


彼の容姿を一言で言い表すとすれば、妖艶、だろう。化粧を落とし、男の姿にすれば中性的な儚げイケメソになることだろう。だが、その容姿に騙されることなかれ。俺には見えている。寮長の後ろで幸せそうな顔をし、精液らしき液体まみれになりながら眠っている(気絶してる?)男子生徒の姿が。


それも、三人である。それもそれも、それぞれ系統が違うboys達である。

ガチムチ体育系ボーイ。ジャニーズ系色白ボーイ。小動物スイーツ男子系ボーイ。


「4P万歳!」


それはそうとも、俺はなんて言ったって腐男子だ。貞操の危機以前に腐男子なのである。いや、オネェ属性なんて聞いてませんよ奥さん。嫌なのかって......?そんなわけなかろう!俺の辞書に地雷という文字はない!

それに、この人絶対にエツィのとき豹変する系オネェだよ!普段オネェ言葉使って起きながら、エツィのときだけ猛獣のような目付きと口調になるやつだよ!


__「俺だって、男だぞ?」

__「好きな奴は俺の手で喘がせたい......」


いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!妄想がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!止まらないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


「あら、じゃあ............

5Pとか興味あるか?」


俺はいつの間にか抱きすくめられていた。寮長の右腕は俺の腰に回っており、親指で艶めかしく腰を撫でる。妖艶な容姿に反し男らしくゴツゴツとしている指で俺の顎を挟み上へ上げると、自身の紅く引かれた唇に舌を這わせた。




あ、鬱だ死のう。

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