05 俺の知ってる魔王と違う
「ハハハ、またまたご冗談を……」
「本当だよ。私、本当に魔王なんだよ」
こんな幼気な少女が魔王なわけがないッ!
大体、魔王が人助けなんてするはずないし。
あ、わかった。
そういうことか。
この世界では、そういう遊びが流行ってるんだ。
鬼ごっこの鬼みたいなものだろう。
ここは、その遊びに乗っかってあげるのが優しさというものだよね。
「ひぃぃ、魔王だー。魔王が出たぞー。助けてくれーッ!」
「何ですかそれ。ちょっとイラっとしますね」
「ご、ごめん」
あれ、機嫌損ねちゃったよ。
せっかく乗ってあげたのに。
「にゃはは! なんか面白いやつだニャ! うちの子分にしてやってもいいニャア!」
「結構です」
そんなやり取りをしながら、町から離れシャルノの家へと行くことにした。
城の近くをうろうろとしていると、また勇者に捕まりそうだからな。
「町はずれとは聞いてたが、いくらなんでも遠すぎないか?」
「まだ半分も来てないですよ。大丈夫です、町からある程度離れたらドラゴンを召喚しますから」
ん?
ドラゴンって、あのドラゴンか?
いや、まさかな。
「このあたりなら良いでしょう。出でよドラゴン、そして願いをかなえたまえー!」
「ちょ、それなんか違うような……」
そういって、何やら怪しげな魔方陣を杖でポンとたたく。
「ギャオオオオオンッ!」
「うわああああ、本当にドラゴンが出たアアアアッ!」
と思ったけど、ちっさッ!
手のひらサイズじゃねえか。
「こんなチビドラゴン召喚してどうするつもりだよ」
「もちろん、私たちを運んでもらうんですよ」
んな無茶な。
シャルノ一人だけならまだしも三人を運べる大きさじゃないってば。
「さあ、ドラゴンさん。私たちを家まで運んでくださいな!」
「ギャオンッ!」
チビドラゴンが頷く。
そして、その瞬間。
超強力なブレスを吐いた。
「うわああああああああああ、死ぬ、死ぬウウウ!」
「大丈夫ですよ、ただの突風ですから。これで空を飛んでラクラク移動できるんですよ。便利でしょう?」
便利じゃねえええええッ!
つーか、ドラゴンに乗るとかそういう移動方法じゃねえのかよおおお。
「ちょ、これ着地どうするんだ?」
「にゃはっ! 大丈夫にゃ、くるっと回ってサッて感じでおっけーにゃ! 問題なっしんぐニャ!」
そんな無茶苦茶なあああっ!
俺はレミエルみたいに身軽じゃねえし。
大体、ただの人間だっつーの!
ああ、死んだ。
もうイヤ、こんな世界。
これで死んだら自称神様のあのヒゲジジイをぶん殴ってやる。
「んにゃ? ナイトっち、大丈夫ニャ? 男のくせにだらしないのニャッ!」
「ぐ、いててて。あー、酷い目にあった……」
なんとか死なずに済んだようだ。
というか俺、この世界で死ねない身体なんじゃなかろうか。
え、それなんていう地獄?
痛みはあるのに死ねないってマジ勘弁。
「日が暮れる前に夕食のおかずに魚を獲りに行きましょう」
「えー、ちょっと休もうよ。俺もうクタクタだよ……」
「良いですよ。でも、ここは強力なモンスターが多数生息する危険地帯なので命の保障はないですよ?」
「ちょっと待って、やっぱり俺も行くから! おいてかないでえええ」
慌ててシャルノたちの後を追いかける。
「さて、この辺でいいでしょう」
「え? 魚を獲るんじゃなかったの? 海も川もなさそうだけど」
「何を言ってるんですか? 魚ならほら、そこにいっぱいいるじゃないですか」
俺は、シャルノが指差した方向を見てみる。
するとそこには――。
「ええええっ、魚が空を飛んでるうッ!?」
「魚は空を飛ぶものでしょう? 何を言ってるんですか?」
そんな馬鹿な。
魚は水中を泳ぐもんだろうがッ!
「にゃはっ! サカナッ! サカナッ! サカニャア!」
レミエルがハイテンションで空飛ぶ魚を素手で鷲掴みにしていく。
すげえ、あんな高速で飛び回ってる魚を良く捕まえ……。
「ぐふぅッ! ちょ、なんだ魚がッ! 魚が襲ってき……ぎゃあああ、助けてくれえええ!」
「大丈夫ですか? 気を付けてくださいね。攻撃的な魚もいますので」
そういうことは早く言ってくれよ。
危うく魚の餌になるところだったじゃねーか。
「ハァハァ、この世界の食料確保は命がけなのかよ」
「魚はまだ楽なほうですよー。伝説の黄金プリンなんかは数千人必要になってきますから」
お、黄金プリン?
なんだろうそれ。
ちょっと気になるけど、危険を冒してまで食べたいとは思わないな。
「にゃはは、大漁ニャア!」
「もうそんなに獲ったのかよ! 俺なんてまだ十匹くらいしか捕まえてないのに……」
「では、そろそろ戻りましょうか」
魚が入った籠を背負って満足そうなレミエル。
しかし、一ヶ月分くらいはありそうな量だな。
こんなに誰が食うのだろう。
もしかして、あの家に他の仲間がいるのかな。
「ごちそうさまでしたー、美味しかったですー」
「にゃふー、お腹一杯ニャア! 幸せニャア!」
俺はシャルノたちを甘く見ていたようです。
あの量を食い尽くすなんて……。
「あれあれ? ナイト、どうしたの? 魚嫌いだったの?」
「ハハ、俺はそんなたくさん食べられないよ」
「え? ナイトってば小食なの? じゃあ、残りは私がもらってあげるね」
まだ食うのかよ。
いや、もう俺もお腹一杯だから別にいいけどさ。
俺が小食なんじゃなくて、シャルノが大食いなんだっつーの。
「もう遅いですし、今夜は泊って行ってくださいね」
「お、おう、ありがとうな。なんか助けてもらってばかりだなあ」
俺は、シャルノの家に泊まることにしたのだった。




