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俺の知ってる異世界と違う  作者: オッド
第二章 それぞれの想い
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14 確固たる決意

 勇者が行ってしまう。

 三年前のあの時のように、私の手を振りほどき走り去っていく。


 また、繰り返すの?

 あの時と同じことを?


 いや、あの時よりも事態はさらに深刻となっている。

 残された勇者はもうクレアちゃんただ一人なのだから――。





 三年前に、カラリア王国に現れたスライム。

 一瞬にして町は火の海と化し、人々は逃げ惑う。

 誰もが恐怖し、絶望し、そして死を覚悟した。


 ただ一人を除いて。


 勇者ファルス。

 彼は、妹のクレアを守るため。

 人々を守るため。

 そして、私を守るため。

 たった一人でスライムに立ち向かっていったのだ。


 戦いは熾烈を極めた。

 歴代最強と謳われた勇者ファルス。

 しかし、その彼でもスライムには敵わなかった。


 それでもスライムの力を削ぐことには成功した。

 魔力を失ったスライムは、そのままゆっくりとどこかへ消えていった。

 ただその代償はあまりにも大きかった。


 ファルスは満身創痍の状態で、私が駆け付けた時にはすでに手遅れだった。

 私は、泣きながら必死に回復魔法を使った。

 使い続けた。

 そんな私に、彼は言う。


「ミルフィ、今までありがとう。クレアをよろしく頼む」


 ファルスはそのまま息を引き取った。

 結局、私は彼を助けることができなかった。

 人々を助けるために回復魔法を覚えたのに、一番大事な人を救えなかった。


 その時に、私は誓ったのだ。

 もう泣かないと。

 そして、強く生きると。 


 魔法を使おうとすると、どうしても彼の面影を思い出してしまう。

 だから、私は必死にそれを押し隠すようになった。





 そして、今――。

 再び、私の元から勇者が去っていく。


 止めなければ――。

 なんとしてでも彼女を止めなければならない。

 それは、同時に町の人々を見捨てることを意味している。


 そんなことをすれば、クレアちゃんは私を恨むことだろう。

 それでも、これだけは譲れない。

 誰に恨まれようと、蔑まされようと、私はもう迷わない。


 私は、この手で守りたい人を守る――。





「クレアちゃん、ダメよ、止まりなさい? ね?」

「私は、勇者よ! 例えこの身が滅びようとも、このままスライムを放っておくことなどできないわッ!」


 そう言うだろうと思ってた。

 私も覚悟を決めるときがきたようね。

 

「ごめんなさい、クレアちゃん。悪く思わないで、ね?」

「えっ?」


 私は、勇者を睡眠魔法で眠らせることにした。

 勇者を守るにはこれしかない。

 このまま、勇者を連れて遠くへ逃げよう。

 この町の住民には申し訳ないけれど、犠牲になってもらうしかない。

 もしここで、勇者が殺されてしまったらもっと多くの人々が飢餓で苦しむことになるのだから――。


 私は勇者を背負い、その場から離れようとする。

 しかし――。


「ぷぎゅうううううっ!」

「う、嘘……? どうして? スライムがまっすぐこっちに向かってくる……ッ!」


 すでに気付かれていた?

 そんなはずはない。

 クレアちゃんはまだスライムを攻撃していないのに!


 じゃあ何故?


「ぴぎいいいいいっ!」


 頭に響くようなスライムの叫び声。

 その声はなんだか泣いているように聞こえた。


 ふふ、こんなはずじゃなかったのに――。


「バカね、町の人を見捨ててまで勇者を守ろうとした罰が当たったのかしら」


 ごめんなさい。

 本当に、ごめんなさい。

 私は、ただ守りたかった。

 それだけなのに――。


 スライムがゆっくりとそして確実に近づいてくる。





 ファルス、ごめんね。

 結局、私は何も守れなかった……。





「諦めるには、まだ早いですよ?」

「えっ?」


 突如現れた、一人の少女。

 魔王シャルノだ。


 敵である魔王がどうして――?


「スライムだかなんだか知りませんが、私の『友達』には指一本触れさせません」

「無茶よ、クレアちゃんでも敵わない相手なのよ?」


 私は知っている。

 勇者と魔王は度々争っていたが、勇者が本気を出していなかったことを――。


「大丈夫です、私は魔王ですよ? 魔王より強いモンスターなんているわけないじゃないですか」

「待って、ダメよ? 死んでしまうわ!」

「それで良いのです。私、この世界には必要とされてませんから――。それなら、せめて最後くらい誰かの役に立つのもアリでしょう」


 魔王がふっと微笑むと迷うことなくスライムに立ち向かっていく。

 それと同時に、魔王が召喚したドラゴンが私と勇者を吹き飛ばす。




 宙を舞い風に乗り、町からどんどん遠ざかる。

 遠目からはスライムと魔王がどうなったかは確認できない。


 私は、魔王が嫌いだった。

 日に日に勇者と親しくなっていく魔王が怖かった。

 このまま、勇者が魔王を倒すことができないんじゃないかって。

 そうなったら、世界の食料は魔王に食い尽くされることになってしまう。

 怖くて怖くてたまらなかった。


 それなのに、魔王は私と勇者を助けた。

 私は、溢れ出す涙を堪えきることができなくなっていた。

 もう泣かないって決めていたのに――。

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