13 悲しみの勇者
ナイトは死んでしまった。
私をスライムから守ろうとして。
「クレアちゃん、いつまでそうやって泣いているつもり? そろそろお祭りの時間よ?」
「う、うう、ひっく。わ、わかってるわよ。すぐ行くわ」
世界最強のモンスター。
やつに殺された人は今までにもたくさんいる。
ナイトが時間を稼いでくれたおかげでエビル村の人々は助かった。
それなのに、どうして涙が止まらないの?
どうして、やり場のない怒りが込み上げてくるの?
また守れなかった――。
私は、自分の無力さを嘆いた。
けれども私は立ち止まるわけには行かない。
私がこのまま何もしなければ、多くの人が食糧難で餓死してしまうことだろう。
そんな理不尽な世界なのだ。
勇者はいつだって気丈に振る舞わなければならない。
例えどんなことがあろうとも――。
「ごめんね、ミルフィ。もう大丈夫よ」
そう言って、笑って見せる。
勇者はいつだって、笑っていなければならない。
この世界の平和を守るために。
それが私に与えられた使命。
それが私にできること。
悲しみを乗り越えて私は今日も祭りに参加する。
この世界には、私を必要としてくれてる人がいるのだから。
「勇者様だー、勇者様がいらっしゃったぞー」
「あー、勇者のお姉ちゃんだー。おいらと遊んでくれよー」
いつものように私を歓迎してくれる人々。
私も、自然と笑みがこぼれる。
悲しんでばかりいられない。
ナイトが守ってくれたこの命、決して無駄にはしない。
「ふん、性懲りもなくまたやってきたのね。魔王! 今日こそ決着をつけてやるんだからっ!」
「ニャア? 今日は魔王様はいないニャ!」
レミエルを見つけた私が叫ぶ。
珍しく魔王はいないらしい。
「ニャニャ? ナイトっちはどこニャ? また乱暴したんならうちが許さないニャア!」
「……」
辺りをきょろきょろと見渡しながら、レミエルが言う。
私は、何も言えなかった。
ナイトが死んだなんて、口に出したくなかった。
そんなことを言ってしまったら、本当にもう帰ってこないようなそんな気がして――。
「ニャ? 泣いてるニャ? どうしたのニャ? 勇者が泣くなんて珍しいニャ! 今日は魚でも降るかニャア?」
「ナイトはスライムにやられて死にました。レミエルちゃんもこれ以上、勇者を苦しませないであげて、ね?」
能天気なレミエルに、ミルフィが少し眉をひそめて言った。
魔法を使ってないミルフィがこんな顔をするのも初めてのことかもしれない。
そのあと、取り乱したレミエルを押さえつけたりといろいろと大変だったがなんとか今は落ち着いている。
「ナイトっち、また一緒に魚獲りに行きたかったのにニャア……」
いつも元気なレミエルが寂しそうにこぼしたその一言が私の胸に深く刻み込まれた。
「クレアちゃん、魔王の部下とあまりお話しないほうがいいわよ? ね?」
「情が移るって言いたいんでしょ? もう聞き飽きたわ」
ミルフィはいつもそればかりだ。
私が魔王と話していると決まってそう言ってくる。
その意味を私は理解してるつもりだ。
魔王、それは勇者の敵であり倒すべき相手。
その相手が、たとえ無邪気な女の子であってもそれは変わらない。
変わってはいけない。
この世界の平和を守るために、いつかは――。
けど、今の私にはその覚悟はない。
私がその気になれば、魔王を消し去ることもできるだろう。
魔王とはいえ、まだ小さな女の子だ。
勇者である私の敵ではない。
月日が経てば経つほど、魔王は魔力を蓄えていくだろう。
それは分かってる。
分かってるけど――。
「スライムがでたぞーっ!」
突然、町が騒がしくなる。
「う、嘘でしょ? 昨日、出現したばかりじゃない。あり得ないわっ!」
世界最強のモンスタースライム。
あの巨大な身体を動かすには大量の魔力が必要になる。
だから、一回出現した後はしばらく姿を現さないはずなのだ。
しかし、目の前で現にスライムが暴れまわっている。
「クレアちゃん、急いで町の皆を避難させましょう、ね?」
「ええ、分かってるわ」
コクリと頷き、避難指示を出す。
各町にはスライム出現時の避難マニュアルがある。
監視員が、スライムの姿を確認したら速やかに町民を誘導し一ヶ所に集めるのだ。
しかし、昨日出現したばかりのスライムが襲ってくるはずないと油断していたのだろう。
避難が大幅に遅れている。
もうスライムは町の中だ。
町には、まだ大量に人が残っている。
このままではいけない。
また、多くの犠牲者が出てしまう。
三年前のあの時のように――。
「ミルフィ、町民の避難をお願い」
「クレアちゃん、ダメよ? もうナイト君はいないのよ? あなたが死んだら、この世界も終わりなのよ? 私と一緒に避難を優先させましょう、ね?」
私の手を掴んで止めようとするミルフィを振り切り、私は走り出した。
これ以上、目の前で人が殺されるのはイヤだから――。




