15 魔王の思惑
「魔王様、勇者と一緒に戦ったほうが良かったんじゃないかニャ?」
レミエルが不思議そうに私の顔を見ながら言ってきた。
確かに、魔王である私と勇者が手を組めばこのモンスターも倒せるかもしれない。
しかし、私の目的はスライムを倒すことではない。
「勇者がいたら私の作戦に支障をきたしますからね、私に良い考えがあるのですよ」
「ニャニャ? 言ってる意味がよくわからないニャ」
レミエルがうーうー唸りながら頭を抱えてしまった。
私は、ふっと笑いながらスライムを適度に挑発する。
町の人々に危害を加えられると面倒なことになってしまうためだ。
「良いですか、レミエル。このモンスターは敵ではありません」
「ニャ!? ど、どうしてそう思うのニャ?」
私の発言に困惑の色を隠せないレミエル。
「何故このような姿に変わってしまったのかは定かではありませんが、このスライムはナイトなんですよ」
「はにゃっ!? 魔王様、こんなときに冗談を言ってる場合じゃないニャア! ナイトは、スライムに殺されたって聞いたニャア! そのナイトがなんでスライムなのニャ!?」
「問題はそこです。スライムが複数いるのか、もしくはスライムを乗っ取ったか、乗っ取られたか……あるいは――」
そう、このスライムは紛れもなくナイトなのだ。
魔王である私には、わかる。
このモンスターの中核をなす魂の声がかすかに聞こえる。
悲しい叫びが、苦しい嘆きが、激しい戸惑いが。
「いずれにせよ、このスライムがナイトである以上、倒すことはできません。命の恩人ですからね」
「ニャア……」
レミエルが絶句する。
このスライムがナイトだったからといって私や町の人々を殺さない保障はない。
自我を失っている可能性が高いからだ。
それにこれは危険な賭けだ。
けど、やるしかない。
後戻りはできない。
「とにかく、今はこのスライムを誘導することだけを考えてください。なるべく誰もいないところへ連れて行かなければなりません」
「よく分からないけど、魔王様の言う通りにするニャ!」
そういって、ネコのように素早い身のこなしでスライムの周りを飛び回り注意を引き付ける。
「ぴぎぃいいいいっ!」
「あ、危ない、グレープガードッ!」
ちょこまかと動き回るレミエルに向かってスライムが火を吐く。
私はそれに合わせて魔法の盾を作り出し、炎を遮断する。
一歩でも遅れたら、レミエルとて一たまりもないだろう。
かなりリスクのある作戦だ。
けど、どうしてもスライムを町から遠ざける必要があったのだ。
「レミエル、ご苦労様。この辺りで良いですよ」
「はいニャ!」
さて、ここまでは予定通り。
あとは、ナイトの姿を元に戻すだけ――。
「破壊と創造を司る全知全能の神よ、我が呼びかけに応え混沌たる呪縛から彼を解き放ちたまえ! レモンシャワー!」
「ぴぎぃいいいいいっ!」
スライムに聖なる光が降り注がれる。
もし、ナイトが呪いか何かで姿を変えられているのならこれで元に戻るはず――。
「なっ!? き、効かない……!?」
スライムが私を目がけて飛び掛かってくる。
く、まずい……避けれないッ――。
「魔王様ァ!!」
「い、いてて……。あ、あれ? ここはどこ? 俺は一体……!?」
「ハァハァ、もう驚かさないでくださいよ。危うく殺されるところでした」
まさに危機一髪だった。
私がスライムに押しつぶされるギリギリの瞬間にスライムはナイトの姿へと戻っていた。
「シャルノ? ってことは戻ってこれたのか! 良かったあ!」
「あの、喜んでるところ悪いのだけど……早く降りて欲しいのです」
元の姿へと戻ったとはいえ、ナイトは私を押し倒す形となってしまったのだ。
ナイトは慌てて私から離れて、気まずそうに咳払いをしている。
「ニャア! ナイトっち、良かったニャ! 死んでなかったニャア!」
そんなナイトに嬉々として抱きつくレミエル。
ネコのように何度も顔をすりすりと摺り寄せていた。
「レミエル、ちょっと良いですか」
「なんニャ?」
「ナイトには、スライムだった記憶はないはずです。このことは他言無用です、わかりましたね?」
「分かってるニャ! 口が裂けても言わないニャ!」
レミエルに釘を刺しておく。
一時的とはいえ、町を破壊したスライムの正体がナイトだと知れ渡ったら大変なことになる。
そのために、わざわざ町からここまで誘導したのだ。
ナイト自身も知らないほうが良いだろう。
このことは、私とレミエルだけの秘密ということにしておいた。
「なんだ、どうかしたのか?」
「いいえ、なんでもありません。それより、今日は祭りに行きそびれてしまいましたね。今から魚でも獲りに行きませんか?」
「やったニャー、魚ニャー!」
もう祭りの時間はとっくに終わってしまっている。
天の恵みナシで、身体が持つかどうかはわからないけども町に戻るのはあまり得策ではない。
「ニャア! お祭りニャ! お祭りが始まるニャ! 急いで町に戻るニャ!」
「えっ?」
町のほうを見ると、確かに祭りの前兆と思しき雲がかかっている。
おかしい、時間はとっくに過ぎているはずなのに。
祭りの時間がズレたことなど過去に例がない。
一体、何が起こっているというの――?




