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【11/3追加】幼な妻と双子の物語開始 連載版  作者: ジュレヌク
幼な妻、尻軽女に一発かます

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12/14

幼な妻、尻軽女に一発かます②


「ドルチェ、本当に医局に顔を出すのかい?」


「えぇ。ちょうど今日は教会に行く日ですもの。子供達はお義母様と乳母達が見てくれていますし、数時間だけなら大丈夫ですわ」



 出産から半年を過ぎて体が落ち着いてくると、母となった女性は教会へ赴き産後の祝福を授かりに行く。


 普通なら直ぐに帰宅するのだが、今回は命を救ってくれた医局長メディコにお礼を言いに行くと言う大義名分を携えて、ドルチェは敵情視察に乗り込むのだ。


「換気は徹底するようにお願いしているが、全く匂いがなくなるわけじゃないんだぞ」


「なるべく早く終わらせて帰るから、そんなに心配しないで」



 ドルチェは、フォルテの差し出す手に自分の手を乗せて微笑んだ。



「それに、旦那様がエスコートしてくださればいいだけの事。そうでしょ?リーゾ」


「はい、奥様。その通りでございます」



 ドルチェが振り返った先に居たのは、昔フォルテの自称幼馴染を撃退した際に茶番を演じたメイドだった。


 あれからリーゾは一生懸命研鑽を積み、ドルチェ専属メイドとして傍に侍ることを許されている。


 今日も他のメイド達を差し置き、一人だけ帯同を許されていた。


 リーゾが他のメイドにドヤ顔をしても、仕方のない事だった。



「さぁ、行きましょうか」



 颯爽と歩きだしたドルチェを、フォルテはスマートにエスコートした。


 その後ろから、リーゾは足音も無く付いていく。


 教会に着くと、司祭のサチェルドーテが待っていてくれた。



「ヴィットーリア侯爵夫人、ようこそおいで下さいました」


「サチェルドーテ司祭様、アレグロ、フェルマータの洗礼では大変お世話になりました。また、出産が上手くいくよう祈祷をしてくださったとのこと。重ね重ねお礼申し上げます」


「夫人、堅苦しいのは止めましょう。私は、お子様の代理父に名を連ねさせていただいております。今後とも、何かありましたら気楽にご相談ください」



 ドルチェの兄サラートは、自分だけが代理父で良いと言い張ったのだが、流石に司祭が名乗りを上げては、フォルテも無下に出来なかったようだ。


 それ以外にも、実はメディコも名を連ねている。


 生まれて初めて出産に立ち会った彼は、その壮絶さとドルチェと双子の無事を泣いて喜び、その勢いで代理父に名乗りを上げてしまったらしい。


 こうして得難い代理父を三人も得た双子は、産まれ持って幸運の星を掴んでいるのかもしれない。



「では、ヴィットーリア侯爵、夫人、先ずは祭壇へ」



 サチェルドーテが蝋燭に火を灯すと、ドルチェの産後を祝う儀式が始まった。


 そして、式は粛々と執り行われ、一時間もしないうちに終わった。



「では、また、次回来られる時は、お子様方もご一緒に」


「はい、サチェルドーテ司祭様。是非、そうさせていただきます」 



 ドルチェは、丁寧に挨拶をすると、馬車に乗って医局へと向かった。


 隣りに座るフォルテの方が、緊張しているらしい。


 手をせわしなく動かして、ドルチェに手を掴まれるほどだった。









 こうして医局に辿り着いた二人は、先ず、医局長であるメディコの部屋を目指した。


 この年は本来秋が近づいてくる時期だと言うのに初夏と変わらぬほど暑い。


 ドルチェの為もあるのだろうが、どの部屋も大きく窓を開けられ風通しを良くしているようだった。


 ただ、残念ながら、あの季節外れの白百合は、メディコの居る部屋の壁で存在を誇示するように飾られていた。


 既に枯れたものも多く、今あるのは花瓶一つ分だけ。


 それでも最後の香りを残そうと、真っ白な花は、大きく花開いていた。



「良くおいで下さいました、ヴィットーリア侯爵夫人」



 立ち上がって迎えに出ようとしたメディコだが、白百合の香りが染みついてしまっている衣服のまま近づくのを躊躇して、少し離れた所に立ってくれた。



「お気使い頂き、ありがとうございます。換気をしていただいているお陰で、随分と息がしやすいので本当に助かります」



 ドルチェはメディコに頭を下げると、この部屋に居るもう一人の人物を確認した。


 後姿しか見えないが、椅子から立とうともしない彼女が、例の伯爵夫人だとドルチェには直ぐに分かった。



「お久しぶりです、ジリオ伯爵夫人」



 ドルチェは、あえて自分から声を掛けた。


 あちらは伯爵、こちらは侯爵。


 流石にチカトリーチェからドルチェに話しかけてくることは出来ない。


 それ故に、戦いの口火を切ったのはドルチェだった。



「確か、最後にお会いしたのは、私が婚約破棄をされた晩餐会の席だったでしょうか?お話は致しませんでしたが、私を指さして笑っていらっしゃった姿は忘れようと思っても忘れられるものではありませんでしたわ」



 いきなりフルスイングで投石したかのような言葉の攻撃に、チカトリーチェの方がギョッとしている。



「え?えっと、その、ヴィットーリア侯爵夫人、それは記憶違いではございませんか?」


「あら、ジリオ伯爵夫人は、私が少し前の事すら覚えていられないニワトリのような人間だとおっしゃりたいのですか?」


「ち、違います。ただ、私には、その様な記憶はなく」


「まぁ、その若さで健忘症とは、先が思いやられるのではありませんか?」



 次々と言葉の刃を突き刺してくるドルチェに、チカトリーチェは防戦一方だ。


 一見大人しそうに見えるドルチェの容姿から想像出来ない強烈な手数に、周りで見ている男性陣ですらギョッとしている。



「それと、香りのプレゼントをありがとうございます。貴女のお陰で、見事に体調を崩しかけました」


「そんなの、言い掛かりですわ!」


「素敵なプレゼントを頂いたのですから、私も貴女に贈り物を持って参りましたの。リーゾ」


「はい、こちらにご用意しております」



 メイドのリーゾは背負っていた箱を床に下ろし、ドルチェの横へ置いた。



「先ずは、私の旦那様を無駄に誘惑して下さった件についてなのですが、ジリオ伯爵家では、自由恋愛を推奨されているとか?」



 ドルチェは余裕のある笑みを浮かべながらチカトリーチェを見た。


 裏でコソコソやり合うつもりはない。


 全面戦争だと、その表情が物語っている。


 それを見たチカトリーチェの方も、ドルチェを上から下まで不躾に眺めた後勝ち誇ったような表情を浮かべた。


 確かに、年齢を経て肉感的になったチカトリーチェの方が、胸元も尻の張りもドルチェに勝っていると言える。



「……まぁ、そこまでヴィットーリア侯爵は、奥様にお話になられたなら、直接お話させていただきましょう。王命で無理やり結ばれた婚姻と聞いております。奥様も、きっと年が離れすぎた夫より、もっと若くて気心の知れた相手がいらっしゃるのではなくて?私も貴女も跡取りを産んだ身。責務は果たしたのですから、もっと自由に生きても良いのですよ?」



 先輩面をして教えを説いていたチカトリーチェは、目の前のドルチェが泣き叫ぶか、もしくは自分と同じように喜ぶか、楽しみにしていた。


 しかし、目の前のドルチェは、自分の事を憐みの目で見ている。



「お可哀想に。ご存じないのですね」


「私が、何を知らないというのかしら?」


「だって、ジリオ伯爵夫人が、お産みになられたのは、跡継ぎではございませんでしょう?」


「はぁ?」



 ドルチェの言葉を、チカトリーチェは理解できない。


 自分は確かに息子を産み、そしてジリオ伯爵に跡継ぎを作ったはずだ。


 しかし、ドルチェは心底同情しているようで、目が涙で潤んでいる。



「リーゾ」


「はい、奥様。こちらが、ジリオ伯爵家御子息の姿絵でございます」



 どこから手に入れたのか、リーゾが箱の中から出してきたのは、現在ジリオ伯爵家で育てられている少年のものだった。


 六歳にしてはやや体が小さいが、伯爵の特徴をよく引継いだ容姿をしている。


 栗色の髪も、顔のそばかすも、父親そっくりだ。



「ど、何処がおかしいというの?この子は、私の息子よ」


「そうでしょうか?ご主人にはよく似ていらっしゃいますが、夫人と似た所が一つもございません」



 確かに、金髪で青い目をしているチカトリーチェとは違い、子供は髪も目の色が違う。


 特におかしいのは、少年の目がグレーということだ。


 ジリオ伯爵は髪と同じく茶系の目をしており、目の形もどちらにも似ていない。



「ジリオ伯爵家は、自由恋愛。それは、伯爵様にも愛する方が別にいらっしゃると言う事ではないでしょうか?」



 痛い所を突かれ、チカトリーチェの顔が歪む。


 彼には昔から平民の恋人がおり、今も一緒に住んでいるのは、そちらの女性の方なのだ。


 チカトリーチェの息子は、実際には彼女が育てている。


 少年にとっての母は、既に、チカトリーチェではなくなっていた。



「で、でも、私がお腹を痛めて産んだ子よ」


「そちらは、こちらの少年ではございませんか?リーゾ、出して」


「はい、奥様。こちらにご用意しております」



 リーゾが再び箱から出してきたのは、あまり伯爵に似ていない少年。


 目の色は茶色で、その部分だけは辛うじて伯爵と被っている。


 しかし、他の特徴が全く当てはまらず、親子とは考えにくい。



「そ、そっちは、あの女が産んだ子でしょ?」



 夫の愛人が産んだはずの少年は、何故かチカトリーチェと面立ちが似ている。


 今は、愛人が二人の少年を一緒に育てているのだが、子供達は、まるで双子のように仲良く暮らしているという。



「そうですね。隔世遺伝ということもありますし、今となってはどちらでも良い事。ただ……最初から愛人との子を跡継ぎにする為に貴女が利用されていたとしたら、いかがかしら?」



 扇で顔を半分隠し、そこから覗き見るようにチカトリーチェを見るドルチェの目は、意味深に細められている。


 急に不安になったチカトリーチェは、ドルチェに向かって叫んだ。



「嘘ばっかり言わないで!」


「これは、あくまで私の想像。決して真実だとは申し上げておりません。ただ、赤子の内に入れ替えられたら、近くに居る人間以外は分からないだろうと思ったまでの事」


「で、でも……でも……」



 考えるほどおかしいと思う。


 結婚前から男子さえ産んだら、あとは自由で良いなどと言う話はチカトリーチェに有利過ぎる契約だった。


 実家にも援助をしてくれ、手を出せば金を載せてくれる。


 チカトリーチェが他の男達の間を飛び回っても、決して声を荒げず、あまつさえ旅行の手配までしてくれた。


 あちらも愛人と楽しくやる為の譲歩なのだと勝手に考えていたが、これが最初から仕組まれた事だったとしたら……。



「そんなの、詐欺じゃない。もし本当なら、裁判所に訴えるわ」



 ヒステリックに叫ぶチカトリーチェの耳に、ドルチェが何か囁いた。


 すると、彼女の顔から途端に表情が削げ落ち、呆然と空中を見つめる。



「リーゾ」


「はい、奥様。こちらに」



 リーゾが最後に箱から取り出したのは、分厚い手紙だった。


 差出人は書かれていないが、ドルチェはそれをチカトリーチェの手に握らせる。



「これは、私からのプレゼントです。ですので、今後は、夫に近づかず、あと匂いの強い花を医局に置くのは止めて下さいね」



 ドルチェは、チカトリーチェの手を二回トントンと叩くと、



「さぁ、旦那様、帰りましょう」



と、ほほ笑んだ。



「もういいのかい?」


「えぇ、十分です」



 こうして、フォルテとドルチェは楽しい我が家へと帰っていった。


 何が起こったか分からない医局の面々は、チカトリーチェを見た。


 その視線に耐え切れず、彼女はトイレに駆け込む。



「そんなことって……」



 不安は次から次に湧いてきて止めようがないチカトリーチェは、ドルチェから手渡された手紙をこれ以上ない程強く握りしめた。


 それは、今付き合っている男性達からの縁切り状。


 既に仲はこじれており、別れるのは時間の問題だった。


 その上ヴィットーリア侯爵に喧嘩を売ったとあっては、付き合いきれないと思ったのだろう。


 皆、ドルチェがお願いすれば、我先に縁切り状を書いて送ってくれた。


 いつかは、こうなると分かっていたから新しい男を探し、そしてフォルテを標的に決めた。


 それが、まさか自分の首を絞めることになるだなどと思ってもいなかった。


 だが、それ以上にチカトリーチェを震え上がらせたのは、最後にドルチェが耳に囁いていった人物の名前だ。


 彼は結婚直前に付き合っていた男で、今日まですっかり名前すら忘れていた相手。


 しかし、愛人の子だと思っていた少年は、確かに彼と面影が似ていた。


 笑うと目元が下がるところや、おさまりの悪いくせ毛など。


 疑いの目で見ると、益々似て見えるから不思議だ。



「そんなの、嘘よ」



 否定するほど、肯定されていく現実に、チカトリーチェは立ち上がることが出来なかった。


 







「奥様、流石でございます」



 尊敬の眼差しでリーゾに見上げられても、ドルチェは、ちっとも嬉しくない。



「私は、ただ、予想を語っただけよ」


「それでも、相手を追い込む手腕は天晴れと言うほかございません」


「おだてても、何も出ませんから」



 頬を膨らますドルチェは、年相応にしか見えない。


 しかも、夫の膝の上に乗せられているとあっては、威厳もヘチマもあったものではなかった。


 妻を両手で抱き締める夫は、頭を彼女の肩にグリグリと擦り付けて、



「ドルチェ、頼むから、もう外には出ないでくれ」



と、懇願している。



「まぁ、旦那様、私を籠の中の鳥にするつもり?」


「そうじゃないが、今日みたいなことは、二度とお断りだ」



 妻の名推理は、確かに素晴らしいものだった。


 ただ、いつ暴発してドルチェに襲い掛かってくるかもしれない女を前に、フォルテの手はビッショリと汗で濡れていた。



「旦那様、誇りに思ってくださいませ。あの尻軽女に一発かました奥様は、本当に格好よかったのですから!」



 興奮気味に両手を上げるリーゾの頭を、ドルチェは扇でペシリと一発叩いた。


 しかし、相手が嬉しそうなので二度とするまいと心に決めた。



完

頂いた感想より、もう少し読みたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたので、超特急で書き上げてみました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
やめて もうHPはマイナスよ
お見事です!!似たようなこと、ありました(笑)私の留守にわざわざ浴衣を着て遊びに来た夫の同僚(笑)まぁ、夫を締め倒しましたが。 なんで人のものを欲しがる人っているんですかね?どんなに素敵でも、人のもの…
子供は側近位にはしてもらえるのかな?チカトリーチェがお飾りに留まれるかは本人次第でしょうかね。
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