■ 第32話:観測者の眼
轟音が空気を裂いた。
拠点全体が激しく揺れ、天井から火花が散る。
逸脱者たちは怒号を飛ばしながら各区画へ走っていた。
「西ブロック閉鎖しろ!」
「接続波形が上昇してる!」
「このままじゃ座標固定が崩壊する!」
混乱の中心で、レイだけは白い空間を睨んでいた。
管理者。
そいつは確かにこちらを見ている。
人を見る目ではない。
まるで実験動物を観察するような、冷たすぎる視線だった。
『観測補助個体カナ。逸脱数値が臨界へ到達』
カナが苦しそうに耳を押さえる。
「やめ……て……!」
『排除を推奨』
その瞬間、レイの中で何かが切れた。
「ふざけんな……!」
怒鳴りながら前へ出る。
すると管理者の視線が、ゆっくりレイへ向いた。
初めてだった。
“観測対象”ではなく、“個”として見られた感覚。
その瞬間、レイの脳裏に激痛が走る。
知らない景色。
崩壊した都市。
燃えるコロニー。
無数の人影。
そして――血だらけの誰かが言った。
『お前は、最後の鍵だ』
「……っ!」
膝をつくレイ。
視界が激しく明滅する。
カナが咄嗟に彼を支えた。
「レイ!」
ジンの表情が変わる。
「今のは……記憶接続か?」
レイ自身も理解できなかった。
だが確かに、“知らないはずの記憶”を見た。
管理者が静かに呟く。
『識別コード照合開始』
その声と同時に、白い空間の奥で巨大な光輪が起動した。
嫌な予感が走る。
次の瞬間、ジンが叫んだ。
「全員退避!! “監査者”が来るぞ!」
その単語に、逸脱者たちの顔色が変わった。
恐怖。
歴戦の彼らですら怯えている。
レイが顔を上げた直後、空間の裂け目から“巨大な目”が現れた。
機械でも、生物でもない。
ただ監視だけを目的として存在する異形。
その視線が、ゆっくりレイたちへ向けられる。
そして空間が、静かに凍りついた。




