40.あなたがいいんです。
「戸ノ岡君、こちら明人さん。さっき話していた私の彼氏です。明人さん、こちら同じゼミの戸ノ岡君。こないだのクッキーのレシピを教えてくれた人だよ。」
「戸ノ岡さん、先日はおいしいクッキーをありがとうございました。今日は、お越し下さりありがとうございます。」
丁寧に頭を下げる。
「いえいえ、俺はレシピを教えただけで、桜庭さんが作ったので、俺にお礼はいりませんよ。」
両手を振って、焦る俺。
「いや、あの美希が、あんなおいしいクッキーが作れるレシピを作ったあなたに、是非お会いしたかったんです。お菓子作りが得意でいらっしゃると、美希から伺っています。」
「え!?ええっと…。得意というか、お菓子作りが大好きなだけで・・・」
男が気持ち悪いですよね・・・と、ネガティブ俺が口にしようと思って、はたとやめた。
桜庭さんの彼氏さんが、続けてこう言ったから。
「私もお菓子が大好きで、お菓子作りをしたくて。でも俺はまだまだで、ここで勉強させてもらっています。」
その目は輝いていた。
「明人さんが作ったお菓子、とってもおいしいのよ。今の看板メニューになっているの。」
桜庭さんが、嬉しそうに話す。
堂々とお菓子作りが好きだと言って、職についている人に初めて出会って衝撃を受けた。
この人に、俺のネガティブ思考を話すのは失礼にあたる。
本当は、俺だってお菓子作りが大好きなのだ。
「お忙しい中、私のわがままにお付き合いいただき、ありがとうございます。レシピのお礼ですので、今日はご馳走させてください。そして、私が今作っている試作品の感想を聞かせていただけないでしょうか。何の説明もせず、お呼び立てしてしまって申し訳ありませんが、どうかご協力お願いいたします。」
明人さんは、俺に深々と頭を下げた。
「え!?ええっと・・・俺なんかでいいんですか?」
恐縮してそう言うと、俺の目をまっすぐみて、
「あなたがいいんです。」
と、言い切ったのだ。
ぶわっと風が吹いたような気がした。




