37.食べてもいい?
「ラウンジに移動しない?今食べたい。」
なんだか嬉しくて、今すぐ食べたいと思ってしまった。
ラウンジとは、図書館の中で、軽い飲食と騒がなければ、お話をして良い場所なのだ。
水分補給のため蓋が締められる飲み物は、館内でも飲むことができる。
なので、ラウンジには自動販売機も備え付けてある。
「うふふ。嬉しいな。戸ノ岡くんてかわいいとこあるんだね。どうぞ召し上がりください。早速移動しよう!」
荷物を持つと、ラウンジへ移動した。
「ありがとう。では、いただきます。」
そっと可愛く包んでくれたラッピングを解くと、そっと、一枚のクッキーを口に運ぶ。
サクッと軽快な音がする。
口の中でほろっと崩れて溶けた。
「うまい!」
封を閉じて、クッキーの入った包みをカバンにしまう。
「俺、いつも作る側だったから、作ってもらうことってあんまりなくて。とってもおいしいよ!桜庭さんありがとう。」
桜庭さんは、
「戸ノ岡先生にそう言ってもらえて、とてもうれしいです!」
満面の笑みを浮かべた。
「先生って・・・!?」
「じゃぁ、やっぱり師匠と呼ばせてください。」
「いや、いやいや、そんな大それたものではないよ。」
「大それたことなんです!私、本当にお菓子作りが下手で、彼に呆れられてたの。でも、このクッキーは、上手に焼けて彼も『お前のこと見直した』って言ってくれたんだよ!だから、師匠か先生と呼ばせてください!そして、この後用事がなければ、本当のお礼をしたいんだけどどうかな?」
「いや、そこまでしてもらうことないって。」
遠慮すると、
「戸ノ岡君にとっては大したことないかもしれないけれど、私にはすごく大した事だったの。だから、私の気持ちを受け取って欲しいと言うことで付き合ってくれませんか?」
「ええっと……」
「彼を気にしているなら大丈夫。彼に怒られたりしないから。彼にもちゃんと言ってあって、これから行くところが彼が働いてるとこなの。」
「働いてるところ?」
「そう!彼を自慢したいとかそういうんじゃないよ。決して!まぁ、働いている姿もかっこいいんだけど。ふふ。」
桜庭さんは、彼氏さんを思い出してにやけている。
「あのね。彼もお菓子を作る人で、私が師匠からレシピをもらったって聞いたら、会ってみたいって、俺のお菓子食べてもらいたいって、お礼がしたいって、言ってるんだ。だから私からって言うよりは、私の彼氏が、おいしいクッキーに出会えた喜びを伝え、俺が作ったお菓子も是非食べて欲しいという、彼のわがままなの。何か同じお菓子を作るもの同士の何かがあるらしいよ。だから迷惑かもしれないけど、付き合ってくれないかな。」
「俺でいいの?俺そんなことしてもらっていいのかな?」
「もちろん!こっちが言ってんだからいいの!このあと時間があるなら、今から早速行かない?ここから15分位電車に乗るんだけれど。」
俺が返事をする前に、桜庭さんは席を立って言った。
「ね!行こう!行こう!」
桜庭さんに背中を押され、桜庭さんの彼氏さんの働いてるお店へと、半ば強引に向かうことになったのだった。




